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第18話

 Side AMANE  裸の腕のなかに抱き込まれながら、僕は考える。  四季とこういう関係になってから、二年。  彼に好意を抱かれているのは、なんとなく感じていた。  でも、まさか、“あの時”四季があんなことを言い出すとは。あの時は四季自身も自分が口にした言葉に戸惑っているようだった。  本人も自分の気持ちに気づいていないようだし、この先気づいても行動を起こさないだろうと思っていたんだ。  驚いたけど、そうしたいなら、それでもいいと話に乗ったのは僕だ。  初等部で初めて同じクラスになって話をした時、彼は幼稚舎の頃から僕のことを見ていたと言った。  それと同じように、実は僕も見ていたということは、彼に言ったことはない。  何故かいつも眼につく男のコだと思ってた。特に他のコと変わらない。僕とは違って、大声で話したり元気に遊んだり、泣いたり笑ったり、本当に普通のコ。  それなのに、彼にだけ眼がいった。  これから、深く関わりを持つ ── そんな、運命を感じる。  小学生にもならない幼児がそんなふうに感じたなんて、大人になってみれば、なんだそれって、思うんだけど。  そして、あの日“聖愛の森”で話をした時、その気持ちは確信に変わったんだ。    桂川四季は、僕の人生になくてはならない男になると。  実は、同じクラスになってから、彼に対してアピールをしていた。彼が僕を見ていることに気がついていたから。  それとなく彼にだけ素の自分を見せたり、注意を惹き付けるように昼休みにひとりで抜け出したり。  気がつかなければ、それまでのこと。運命感じたとか、きっと思い違い。それで済ますつもりだった。  でも、四季は、僕を追いかけて見つけだし ── そして、運命は巡り始めた。  さて、僕たちの関係に、名前をつけるとしたら、何だろう。  所謂恋人同士──とは、けして言えないだろう。  四季は僕を愛しているだろう。でも、それはきっと僕には一生伝えない。  そして、僕は……。  僕は、きっと何処か欠けた人間なんだ。 熱を孕んだ“愛”がわからない。今まで、そういう意味で人を好きになったことはない。  詩雨への“愛”はまた別だ。血の繋がりの上での“愛”であり、あの頃の僕を救ってくれた、“神”への崇拝にも似た“愛”。  四季も ── 僕にとってなくてはならない存在だ。それは、詩雨への気持ちとも胸を熱く焦がす恋情とも違う。  僕が、楽に息ができる、唯一の場所。  それが四季。  その場所がなくなったら、きっと僕は死ぬほど苦しい思いをするに違いない。  だから、彼を繋ぎ止める為に、何度だってこの肉体(からだ)を差し出してもいいんだ。  いつか、もし、それが“恋”になったとしても、僕はけして伝えたりはしない。  四季もそうであるように。  そうやってお互いの気持ちを伝えないまま、僕らは一生共存していくんだ。 「四季……絶対……逃がさないよ」  眼鏡をかけていない、幼い頃の面影のある顔を見つめる。  そして、そっとその唇にキスをする。  外はまだ薄暗く、冬の夜明けは遠い。  僕は裸の胸に頬寄せ、もう一度眠りについた。                fin.      

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