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02※
一軍のやつらというのは、皆こんなやつらばかりなのだろうか。
従う義理はないし逃げ出してもいいはずだ、そう分かっているのに本能が叫んでる。逆らわない方がいいと。
他にも高圧的なやつらはいたが、何故だが八雲に対して恐怖を覚えている自分自身に戸惑った。
先を歩く八雲。八雲がやってきたのはラウンジだった。
一軍専用のラウンジ――ここへ足を踏み込んだのは初めてだ。いつも一番ケ瀬は二軍の俺に合わせてくれていた。
ラウンジというよりも小洒落た店の一角のような作りだった。実際にドリンクバーは設置されているし、快適すぎやしないか。二軍の寮のラウンジなんかもっと狭いしなんなら二席ほどしかないのに。
ラウンジには既に一軍の生徒たちがいたが、八雲の姿を見るなり「八雲様、おはようございます」なんてヘコヘコとした態度で歩み寄るのだ。そんな生徒たちに八雲は微笑みかける。
「おはよう、今日も皆元気そうだね。――ああ、そうだ。少し奥の部屋。貸切らせてもらうよ」
「え、あ……では自分がお付き合いします」
「ああ、大丈夫。もう相手は決まってるんだ」
そう八雲の言葉に、頬を赤らめていた女のような見た目の男子生徒は俺を見る。
一体なんのやり取りをしているのか俺には分からなかったが、八雲に断られた男子生徒はこちらを睨んでくるのだ。
なんでそんな目で睨まなければならないのか俺にはわけがわからなかった。
戸惑っている間に八雲は「さあ、こっちだよ」と俺の肩に触れてくる。周りの一軍たちの視線が突き刺さるようだった。
ラウンジの奥には細い通路があり、いくつかの扉があった。
「あの、八雲先輩……ここって」
「君とは一度話したいと思っていたんだ。……だから、二人きりになるのならここが丁度いいかなって思って」
「さっき言ってた相手って言うのはなんですか」
先程の一軍とのやり取りを思い出し、思い切って尋ねれば八雲はこちらを見下ろした。口元には笑みは浮かんでいるものの、その目は笑っていない。
――苦手な人だと思った。
背筋に冷たい汗が流れ落ちる。
「君って流されやすそうな子なのかなって思ったんだけど、なんだ。ただの馬鹿ってわけじゃないのか」
一瞬耳を疑った。
笑みを浮かべたまま八雲は目の前の扉を開く。
「けど、警戒心はなさすぎ。それとも好奇心? なにか期待した?」
八雲が何を言ってるのか分からなくて言葉に詰まる。それ以上進むことが出来なくて、通路の真ん中に立ち止まる俺の腕を掴んでそのまま八雲は俺の体を引っ張るのだ。
「な、に……ッ!」
「ここがなんなのか……君、聞いたよね。いいよ、教えてあげる」
なんて馬鹿力だ。
八雲はそう言うなり扉の向こうへと俺の体を押し込み、そして突き飛ばすのだ。
「っ、う、お……ッ!」
力いっぱい突き飛ばされ、踏みとどまれるほどの体幹を鍛えていない俺はそのまま無様に転倒する。顔面から転び、ヒリヒリと痛む顔を押さえながらも顔をあげ――そして息を飲んだ。
目の前には大人何人かは寝れそうなくらいの大きなベッドが置かれていた。
「一軍専用特別仮眠室――ってのは名ばかりのヤリ部屋だよ」
背後で扉が閉まる音がした。そして、頭上から落ちてくる八雲の柔らかい声に反応するよりも先に首根っこ、襟首を掴まれる。咄嗟にその手を掴み、振り払おうとするが八雲は俺が抵抗するのも無視してベッドまで引きずっていくのだ。
「っ、は、なせ……ッ! この……ッ!」
「なんで君は暴れるんだ? 僕が抱いてやるって言ってんだよ、寧ろ喜ぶべきだろ?」
「喜ぶって、なんで」
「四軍君にチャンスをあげるって話。……まさか、君この学園にいながら規則のことについて知らないわけないよね」
一軍の言うことは絶対。そして、一軍の言うことを聞いて気に入られれば内申点にも関わってくる。
そう言いたいのだろうか、この男は。
それをありがたがって一軍の犬になってる生徒はいるし、何度も見てきた。だけど、その立場に自分がなろうとは微塵も思わなかった。
「ふざけんなっ」と暴れるが八雲は「そういうのはいいから」と吐き捨て、そして人の体を今度はベッドの上へと転がすのだ。
今度は硬い床ではなく、柔らかいベッドマットの上に体が沈む。起き上がるよりも先に、同様ベッドへと乗り上がってきた八雲によって押し倒された。
「……っ、ど、退け……っ」
上に乗り上げてくる八雲。かかる体重のせいで体は起こすどころか寝返りを打つことすらもできない。なんとか退かそうと伸ばした手首ごと掴まれ、そのまま八雲は俺の頭上へと押し付ける。
こちらを見下ろしたまま、やつは薄く微笑むのだ。
「君、一番ケ瀬のお気に入りなんだってね」
よりによってこんなタイミングで出てきたあいつの名前に背筋が震えた。顔を上げ、八雲を見上げたとき、そのまま掌同士を重ねるように指を絡められる。
「ずっと不思議で仕方なかったんだ、見るからにいいところなんて見つからない、なんの変哲のない一般生徒である君にあいつが固執してるのがさ」
「……っ、知らねえよ、そんなこと」
「本当に?」
する、と指同士を絡められる。握られた手に気を取られている間に伸びてきた手に腹部を撫でられ、ぞくりと全身が泡立った。
「触るな……ッ、この……っ!」
「たまに居るんだよね、君みたいにぱっとしないのに異様に周りに人が集まる子。口が上手いわけでも愛嬌があるわけでもない、けど、いつもその子は男といるんだ」
「なに、言って」
「――そういう子は大体、セックスが上手いんだよ」
この変態野郎、という言葉は物理的に塞がれる。顎を掴まれ、軽く持ち上げたまま唇を重ねられ背筋が震えた。罵倒しようと開いた唇に八雲の舌が這わされる。
慌てて口を閉じれば、そのまま柔らかく唇を吸われた。耳障りなリップ音が響く。やつの腹を蹴ろうとした足ごと掴まれ、そのまま膝を折るように開脚させられるのだ。
「……っ、ん、……う……ッ!」
「関節は硬いね、体も柔らかくないし僕の好みじゃないけど……まあたまには君みたいなのもいいか」
失礼なことをべらべら喋りながら八雲は人のベルトに手を伸ばす。バックルを緩め、そのまま下着の中に入ってくる八雲の腕から逃げようとベッドの上で身を攀じるが逃げられることなどできなかった。萎えきった性器を握られ、「ぅ」と小さく声が漏れてしまう。勃起する気配すらないそこに、八雲は眉間に皺を寄せた。
「……なんで君、ぴくりともしてないの?」
「っ、あ、たりまえだ、いきなりこんなことされて、誰が……ッ、ぅ……ッ!」
人が話してる最中に躊躇なく下着の中で性器を扱き出す八雲にぎょっとする。絡みつく長い指に緩急付けて全体を撫でるように柔らかく締め付けられれば、我慢しようとすることもできなかった。
「ああ、よかった。不感症ってわけではないんだね」
「っ、や、めろ……ッ! こんなこと、したって意味ないだろ……ッ」
「あるよ」
下着の中、絶妙な力加減で優しく愛撫されれば嫌でも反応してしまう。下着の中からぬちぬちと粘ついた音が響いた。
亀頭の先端からぷつりと滲む先走りを潤滑油のように指先で性器全体へと塗り込みながら、八雲はこちらを見下ろすのだ。
「せっかく二人きりになれたんだ。……とことん君のこと、調べさせてもらうよ」
「アナルの皺の数も全部、そう全身隈なくね」綺麗な顔で下品な言葉を口走る、皆の憧れの生徒会書記様に気が遠くなっていく。
「っ、ざけ、ん゛……ッ、な、……ッなんで……ッ、こん、ぅ……ッな……ッ!」
「なんでこんな目に遭わなければならないのかって? ……そりゃあ、君が四軍だからだろ?」
「役目はちゃんと全うしないと」どこから取り出したのか、ローションボトルを手にした八雲に血の気が引く。「やめろ」と腰を捻って逃げようとするが、そんな抵抗も気にも止めずそのまま八雲は性器へとローションを垂らした。
「っ、あ……ッ、く、ぅ……ッ!」
とろりと亀頭から竿、そして睾丸を伝って股の奥まで流れていくローションの感触に見悶える。なにか妙なものでも入ってるのか、滑るような感覚とは別に垂らされたそこはじんわりと漏らしたように熱く疼き出すのだ。
ふるりと震える性器に手を伸ばし、そのまま八雲はローションを塗り込むように優しく性器に触れる。そしてもう片方の手は睾丸を包み込むように柔らかく揉みほぐしながらもローションを絡め、そのまま股の奥に指を滑り込ませてきた。
粘着質な音ともにに二本の指は肛門を撫で、そのまま硬く閉じた肛門までも柔らかくローションを塗り込んでいく。
「……っ、ん、ぅ……く……ッ!」
「声必死に我慢してて可愛いね。無駄なのにさ、僕しか聞いてないんだから気にしなくてもいいってのに」
「……ッ、う、るせ……ッぇ、ん、ッふ、……ッ」
ぬちぬちと下半身から響く不愉快な音は八雲がわざと立ててるのだろう。下腹部に力を込め、拒もうとするが、あまりにも執拗な前戯に耐えきれずぬらぬらと濡れそぼった肛門は少しの力だけで八雲の指を受け入れようとし始めていた。
「や、……ッ」
「だからやめないって、往生際悪いよ」
「っ、ひ、く……ッ!」
ぬぷ、と八雲の指が体内へと沈んでくる。
そのまま俺の制止も無視して奥へと侵入してくる指の感触に驚いて、ベッドの上で跳ね上がりそうになるのを八雲は無視して更に指の付け根までねじ込んできた。
「は、っ、く……ッ」
「キツめだねえ、十鳥君。……処女みたいな締まりだ」
「や、……っ、めろ、抜け……っ、ひ、ッ」
音を立て、二本目の指が肛門に触れる。
そのまま中を拡げるように大きく左右に割り開かれれば、そのまま口を開ける肛門の中に直接ローションを注がれぎょっとした。
「っ、ぁ、う……ッ!」
「やっぱお互い気持ちよくないと楽しくないからね、ほら、ちゃんと慣らしてあげるよ」
「ぁ、……あ……っ、や、めろ……っ、さわ、るな……ッ」
「こんなに口パクパクさせて言っても説得力ないよ。ほら、僕の指に吸い付いてくる」
ぐぷ、と音を立て空気が入ってくるのが分かって顔が熱くなった。腿を掴まれ、薄暗いピンクがかった照明の下、下半身を曝すような形で開脚をさせられ血の気が引く。
慣れない体制に中に溜まった潤滑油が押し出されてしまったようだ、どろりと肛門から垂れるローションを指で絡めとった八雲は再度ナカへと指を挿入し、更に執拗に内壁へとローションを塗り込んでいく。
「は、……ッ、ぅ……くひ……ッ!」
「……ああ、大分可愛い声が出るようになってきたじゃないか。そうだよ、犬は犬らしく媚を売るのが一番いい」
「ち、が……っ、こ、んな……ッ」
「一番ケ瀬のこともこうやって丸め込んだの? ずっと不思議だったんだ。あいつ、特定のパートナーも犬も作らない。どんなに上玉から誘われても尽く断って、君の傍から離れないんだもん」
「し、らな……ッ、ぁ……っ、う……ッ! ぁ、……ッ、あ゛……ッ!」
腰の下に枕を挟まれる。下腹部が軽く持ち上げられたまま、執拗に浅いところを複数の指で擦られれば頭の奥に溜まっていた熱はどろどろと漏れ出すようにあっという間に広がっていくのだ。
――なんだ、なんだこれは。
以前感じた絶頂感とはまた違う、ローションを塗り込まれた性器と体内がじんじんと疼き出し、そこを撫でられただけで恐ろしく気持ちよくなるのだ。
縺れそうになる舌でやめてくれと懇願するが、それもすぐに掻き消される。前立腺、臍の裏側を柔らかく撫でらればそれだけで思考は乱れ、声も出ない。呼吸するタイミングが分からず息苦しくなり、八雲の腕にしがみついて止めようとすれば、眼の前の綺麗な顔は愉悦に歪む。
「そうやって処女みたいな反応するのもフリなのかな。……確かにそれは悪くはないかな」
「お、まえ、なに、か……ッした、」
「なに、ローションにただちょっと気持ちよくなる成分が入ってるだけだよ。大丈夫だ、危ないものではない」
「個人差はあるかもしれないけどね」と囁き、更に性器を握られた瞬間、先程以上により鮮明に伝わってくる八雲の指の感触に飛び上がりそうになった。
「ぁ゛ッ、は、なせ、さわるな……っ! ぁ゛、や……ッ!」
「見たところ、君は相性がよかったみたいだ。それとも元々感じやすいのかな、ほら、内側と外側、同時に責められるの気持ちいいだろ?」
「ふ、ぅ゛……ッ!!」
ぐぢゅ、ぬぷ、と耳を塞ぎたくなるような音が自分の体内から発せられ部屋の中に響いた。ベッドの上、必死に快感を逃そうと何度も体を攀じるが逃げられない。八雲の愛撫に合わせて「あ、あ」と出したくもない声が口の中から溢れ出し、恐怖を覚えた。
なんだ、なんだこれは。
開いた口を閉じることもできず、口の端に溜まった唾液がとろりと垂れる。びくびくと痙攣する腹部を見下ろしたまま、八雲は「もう少しかな」とパンパンに腫れ上がっていたカリを柔らかくなでた瞬間、頭が真っ白になった。
「ふ、う゛……ッ!!」
どぷ、と泥のような精液が溢れ出し、飛び散る。射精後特有の気持ちよさもなにもない、更に強い飢餓感が込み上げてきては口の中が乾いていく。
八雲は射精に驚くわけでもなく、腹部に飛び散った精液に指を這わせ、そのまま腹筋の筋を撫でるように精液を伸ばした。
「随分と濃いのが出たみたいだね。最近はご無沙汰だったのかな。アナルも閉じかけてたようだし」
「ま゛……っ、と、まれ、とめ、……ッひ、ぅ゛」
「まさか、まだ僕なにもしてないよ? ほら、二回目イケそうだね。今度はお尻だけでイこうか」
やめろ、バカと声をあげることもできなかった。
息をつく暇すらもなく、目の前で笑う男に血の気が引いていく。
息継ぎをする暇すらもなかった。
何度もベッドの上から逃げようとしても八雲は離してくれない。ただでさえ射精直後、痙攣が収まらない内壁を容赦なく掻き回され、前立腺を集中的に柔らかく引っ掻かれる。持ち上げられた下半身はぴんと伸び、少しでも快感をのがそうと丸まった爪先に力が入る。
「う゛、ぁ゛ふ……ッ、ぐ……ッ!」
良くもわからない男相手にこんな辱めを受け、気持ちいいわけがない。
ただただ歯痒くて、それ以上にそんな男相手に再び勃起し始めている自分にも強い嫌悪感を抱いた。
「や、めて……くれ……っ、も……ッ」
「はは、……思ったよりも、ん?」
「っ、指を、抜け……ッ!」
「――君、もしかして」
噛み合わない会話。愛撫されすぎて肥大した前立腺を撫でられただけで思考が、頭の中が真っ白になる。目の奥で火花が散るようなそんな感覚と共に、あっという間に喉元まで競り上がってきた快感に耐えきれず、全身の筋肉が硬直した。
自分がイッたのだと理解することにも遅れた。ただ酷く疲れ、そのままベッドの上に倒れ込む俺を見下ろしたまま八雲は笑う。
けれど、先程のような微笑みではない。
「あー……っ、はは、まじか? ……なるほどなあ」
「……っ、?」
ぼそりと一人ごちる八雲。中からとぷりと指を引き抜かれ、その拍子に関節の凹凸部分が掠れて息を飲んだ。
「……いやなに、まさかあいつが本当に君のこと大切にしてるとは思ってもいなかったよ」
笑いながら八雲は垂れた横髪を書き上げ、そのまま耳にかける。先程の妙な笑い方とは違う、いつも全校生徒の前で見せていたような笑顔だ。
「感度はいいけどマグロだし、おまけにキスの仕方も慣れてない。もしかしたらよほど名器なのかとも思ったけど……」
「く、ぅ……っ、!」
「全然使い込まれてないね」
いいながら、閉じることを忘れていた股の奥、剥き出しになった肛門を指で擽られる。その感触にぞくりと胸が震えた。
「まさかあいつが本当に惚れてる? 冗談だろ、って思ったけど……ふふ、そっか」
「っや、やめろ……っ、わかったんならさっさと……ッ!」
「本当は萎えたらそのつもりだったんだよ? けど、そういうのってなんだろう。そう思うとさ――すんごい興奮してきた」
そう、自分のベルトを掴む八雲。釣られて視線を下げ、息を飲んだ。性器の形が分かるほど、スラックスの下で勃起した性器。それに指を這わせ、「これ、君のせいだよ」と八雲は笑いながら取り出すのだ。
俺はそれを直視することができなかった。
疲れ切っている場合ではない。「やめろ」とベッドの上、這いずってでも逃げようとした体を掴まれ、引き戻される。そして関節の限界まで足を大きく開かされ、息を飲んだ。
縮み込んだ性器の影、自分の目からは見えないが八雲の視界には入ってるはずだ。
薄暗い部屋の中、宙を向いた男性器が曝される。他人のものなんて見たくない、そう目を瞑って顔を逸らせば,代わりに股の間で八雲が動いた。
「……ほら、ここ。物足りないだろ? 指でたっぷりほぐしてやったんだ、ちゃんと気持ちよくしてあげる」
「ど、け……っ、ん、ぅ……ッ、こんなの、……ッ」
「こんなの? ……は、ヤリまくってはなくとも経験くらいはあるだろ?」
「いい加減、諦めなよ」そう覆いかぶさってくる八雲に気を取られた瞬間、股の間――肛門に押し当てられる性器の熱に全身が凍りつく。ローションと八雲の先走りが音を立て、それを塗り込むように亀頭を窄みに押し当てられれば不快感に息を飲んだ。
「ぅ、く……」
「……っ、それにしても、あの一番ケ瀬が本気で惚れるだって? それこそ冗談だろ。は、まじで笑える。なあ、よりによってお前みたいなやつ」
「……っ、な、に……ッ! ん! ぅ……ッ!」
「はーッ、……お前のこと俺のものにしてやるよ、四軍君。俺の女にして、あの一番ケ瀬の反応見てみたい! なあ、お前も気にならないか? ……十鳥君」
――何を言ってるのだ、この男は。
腰をぐっと押し込まれれば、拒むことはできなかった。口を大きく開けて笑う八雲を前に、俺はただ戸惑う。
口調、だけではない。興奮しきったその目、表情にいつもの柔らかさなどはない。
目を開き、そして八雲は俺の唇を舐めた。
「あんた、キャラ、ちが」
「うるせえよ、ブス。抱いてやるから感謝しろ」
品行方正王子様の欠片など微塵もない。そのまま体を腕でホールドされ、一気に腹の奥までねじ込まれる熱に一瞬呼吸することもできなかった。
この男、と睨む暇もない。
「は、ぁ゛……ッ! ぐ、ぅ……ッ!!」
「……っ、はぁ~~……っ、締まりはいいな……お前。声は汚えけど、ま、たまにはアリか」
「か、ひゅ……ッ、ぐぅ……っ!」
一気に奥まで穿かれたと思えば、一気に引き抜かれ、そしてまたばちゅん!と奥までえぐられる。容赦ないピストンに合わせて震える性器を握られる。ぐちゃぐちゃと性器を扱かれながら、同時に腹の中を乱暴にかき回される。太く長い性器はどこを動いても触れられたくない場所に当たり、こんな男の愛撫に反応したくないと思っても腰を掴まれ揺さぶられれば噛み締めた歯の奥から声が漏れてしまうのだ。
「十鳥君腰揺れてるじゃないか、中もすっかり開けてきて……ふふ、僕のコレ、気持ちいい?」
「だ、まれ……っ、ぉ、お前……ッ」
「先輩に向かって黙れは駄目だなぁ、これは1から口の聞き方も教えてあげないと……ねえ……ッ!」
ごり、と抜きかけた亀頭で浅いところを擦られた瞬間がくりと腰が震える。
ああ、最悪だ。その一瞬、絶妙な角度と力加減に耐えられず、四肢に力が籠もった。
それも一瞬、腰を持ち上げられたまま“そこ”に当たるように深さと高さを調節した八雲はそのまま狙いを定めるようにゆるゆるとピストンを再開させるのだ。
それはあまりにも俺には耐えられないものだった。
「ひ、ぐ……ッ! ぅ゛、や……ッ、抜け……っ、ぬ゛……ッ、抜、ぅ゛……ッ!!」
「い・や・だ……って、言ってるだろ? 聞き分けが悪いやつだな……っ、ほら、またイケよ。ナカイキさせてやる、俺ので前立腺擦られんの気持ちいいだろ?」
「っ、は、ぅ゛……ッ!」
やつが嵌めていた優しい王子面の仮面なんてとっくに剥がれていた。
ベッドの上、這いずってでも逃げようとしていた俺の腰を掴んでは深くホールドされたまま性器を根本奥深く隙間がなくなるほどみっちりと挿入される。どくんどくんと結合部、粘膜越しに伝わってくる八雲の鼓動に自分の体が馴染んでいくのが嫌で、「やめろ」と必死に引き剥がそうとすればそのまま更に腰を押さえつけられ、全身が跳ね上がる。
「っ、ぅ、あ……ッ!」
「……っ、はぁ……ふっか……ッ、とけそ……」
「っ、は……ッ、ぅ、や……ッめ゛……ぇ゛……ッ」
奥までみっちりと挿入されたかと思えばそのまま亀頭でぐぽぐぽと下から突き上げられる。それだけで脳の奥まで震動が伝わるようで、視界が滲む。
「ブスのくせにケツマンの具合はいいのな」
「っ、ぶすって、言うな……っ!」
「なんだ、かわいいって言われたいのか?」
「ち、げ……っ、ぇ゛……ッ、ふ、……ッ」
「可愛いよ。ほら、可愛い可愛い。きゅうきゅう俺のチンポ必死にしゃぶりついて可愛いねえ十鳥君……っ、ほら、可愛い十鳥君俺がキスしてやるよ、顔あげろよ」
「っ、いや、だ、やめ……ん゛ん゛……っ!」
ベッドの上転がされ、今度は体位を変えて犯される。わざと顔を覗き込むような体位で、俺の唇を舐めながら八雲は深く腰を打ち付けてくる。その度に性器が揺れ、どろりとした精液が亀頭から滲んだ。先走りが垂れる。
いたずらに胸を揉まれ、乳首を捏ねられ、カリカリと布越しに引っかかれればその刺激すらも下半身に直結して性器に響いた。
「ほら、舌出して」
「ぅ、や……ッ」
「出せよ」
「んむ……ッ!」
顎を捉えられ、こじ開けられた唇の中へと入ってくる舌先にあっという間に舌を絡め取られ、しゃぶられる。
この男、めちゃくちゃ性格が悪い。
顔が良かろうがそんなやつとのキス、こちらから願い下げだ。そう言いたいのに、したいのに、その意思表示の手段すらも奪われ強引に全身隈なく土足で踏み荒らされていくのだ。
なによりも腹立つのが、この男がセックスだけは上手いということだった。
「は……っ、ぁ、む……ッ!」
「腰、浮いてる……ここが気持ちいいんだ?」
「っち、が、」
「違わねえだろ、ほら、亀頭でいっぱいチューしてやるから」
「ひ、ぅ゛……ッ!」
臍の裏側を何度も行ったり来たりする男性器の感触に慣れ始めている体が嫌だった。苦痛が薄れてしまえばより浮き彫りになる性感。それに反応することがなによりも嫌だった。嫌なのに、拒んでもやつはなんともなしに乗り越えてくる。
「は、ぁ……っ! ぁ、や、め……っ」
「……っ、なんだ、かわいー声出るじゃん、十鳥君」
「ち、が……ッ、ぁ、ん……ッ!」
快感のあまり開いた喉奥から恥ずかしい声が溢れ、それを堪えようとすればするほど更に激しく下半身を揺さぶられ、結腸の入り口を押し広げよあと亀頭でぐりぐりされる。その震動で余計声が漏れてしまい、止めることができなかった。
興奮したように唇を舌なめずりした八雲は「そうこなくっちゃ」と笑う。王子様のような整った顔に似合わない、性欲と興奮を滲ませた目で俺を見下ろして。
それから俺は、八雲のやつに数時間犯され続けた。
途中から肛門の感覚はなくなっていて、ただ下半身に嵌められた性器が腹の中を行き来する感触と快感をみっちりと脳に刻みつけられる。前立腺を擦られるだけで射精することを叩き込まれ、乳首への刺激でも感じるように刷り込まれ、男に犯されるということを覚えさせられるのだ。クソのような時間だった。
いち早く終わってほしかったあまり後半記憶は定かではなく、乱暴に、そのくせ確かな技巧でイカされ、好きでもない男に犯される。
誰のためでもない、今回は一番ケ瀬を守るという名目などなく、ただひたすら一身に浴びせられた暴力にも等しい性交に俺は暫く打ちのめされていた。
「思ったよりも悪くなかった。寧ろ、期待以上だったよ。……君となら“また”があってもいいかもね」
「その時はよろしく頼むよ」なんて、人の中に何回も中出しした男は笑いながら俺を置いて部屋を出ていったのだ。
クソ野郎もクソ野郎。脱ぎ散らかされたままの靴下でも投げつけてやりたかったが、思いの外長時間ぶっ続けのセックスに体力は空になってしまっていたようだ。
指先一本すらも動かすことができなかった。
くたりとベッドの上に仰向けに倒れた、ただ天井を見上げる。少しでも下腹部に力を入れれば、腹の中に残った精液が溢れる感触がひたすら不快だった。
何故だが俺は一番ケ瀬の顔を思い出していた。
あいつとしたときはここまで最悪な気分になることはなかった。けど、今は。
「……風呂、入りてぇ」
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