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04※
八雲に連れられてやってきたのは適当な空き教室だった。
ただでさえこんなやつと二人きりになりたくないのに、なんでこんな人気のない場所を選ぶのか。
なるべく俺は八雲と一定の距離を保ちながら、「それで、話ってなんすか」と目の前の男に単刀直入に尋ねた。
後ろ手に扉を閉めながら、八雲は笑う。先程までの柔らかな笑顔ではない、いつの日か俺を犯したときのあの嫌な笑顔を浮かべて。
「何ですか、だろ? お前、四軍のくせにまだ自分の立場分かってないのかよ」
「……っ、……」
やっぱり、こんなやつに従うのではなかった。
もういい、聞くだけ無駄だ。そう思ってそのまま教室を出ようとすれば「おっと」と八雲に二の腕を掴まれる。
「……っ離せ……!」
「なんだ、一番ケ瀬のやつのことが気になるんじゃなかったのか?」
「だったら、早く言えよ。わざわざ触れる必要なんかないだろ……っ!」
「それを決めるのはこっちだよ、四軍君」
言うや否や、八雲に強く腕を引っ張られ、思わずバランスを崩してしまう。そのまま八雲に抱留められ、まるで抱き寄せるような格好にぎょっとした。
「っ、は、なせ……っ、ん、う……っ!」
躊躇なく顎を掴んでくる八雲。覆いかぶさってくる影に視界が暗くなったと思った矢先、そのまま噛み付くようにキスをされる。
「っ、ぅ、ふ……っ!」
分かっていたはずだ。こいつがろくでもないクソ野郎だと。それなのにまた、この間と同じような真似をされている自分にショックを受ける。
咄嗟に付き飛ばそうと八雲の胸を押し返すが、見た目よりもがっしりとした上半身は俺の力では歯が立たない。
唇を舐められ、そのまま唇をこじ開けられそうになるのを必死に唇を結んで耐えた。そんな俺に、やつは一笑する。
「は、……強情だな。この間はあんなに可愛かったのに」
「だ、まれ……っ! 俺は、こんなことするために来たんじゃない……っ!」
「彼氏のことがそんなに好きか?」
「か、れしじゃない……っ、あいつは、そんなんじゃ……」
「“そんなん”呼ばわりとはなあ。……可哀想に」
うるさい、黙れ。お前が一番ケ瀬のことを語るな。
そう言ってやりたかったのに、べろりと頬を舐められ息が詰まりそうになった。耳を引っ張られ、そのまま耳朶を唇で啄まれる。
「っ、や、めろ……っ、なに……」
「俺に抱かれたことも、まだあいつに言ってないんだろ? 馬鹿だな、本気で嫌なら泣きつけばよかっただろ。あいつならきっと、お前の味方してくれただろうに」
「それとも、またこうされるのを期待してたのか?」唾液で濡れた舌に耳の凹凸を舐められ、ふうっと息を吹きかけられた瞬間背筋がぞくぞくと震えた。ふざけるな、と体を離そうとするが、腰を抱き寄せられれば逃れることはできなかった。
「だ、れが……っ」
「けど、そうしなかったってことは分かってるんだろ? 俺との関係があいつにバレたらどうなるかって。……だから、この間も食堂で健気に我慢してたもんな?」
「さ、わるな……」
「一番ケ瀬のことが気になるんだろ? じゃあ――取り敢えずしゃぶれよ」
俺の手を取ったまま、八雲はそう言って自分の下半身を握らせてくるのだ。耳を疑った。
咄嗟に手を離そうとするが、やつはそれを許さない。それどころか、掌を重ねるように指を絡めては、更に自分の股間を握らせてくるのだ。既に硬くなり、膨らんでるその感触がただただ不愉快で、全身から血の気が引いていく。
「……っ、あんた、おかしいんじゃないのか……っ?!」
「うるっせえな、ほら、さっさとしろ」
「誰が……」
「じゃあ、お前を庇うためにあいつが夜な夜なパーティー開いたり、その濡れ衣を七搦に着せたってこと、九重会長に報告してもいいんだ?」
「……っ!」
やるか、と言いかけた矢先だった。八雲の口から出てきた言葉に呼吸が止まる。
なんで知ってるのだ。――まさか、七搦のやつか。
「あ、あんただって……似たようなことしてるだろ!」
「僕のは慈善活動だよ。お互い合意の上だし、皆得してる」
「でもあいつがしてたのは輪姦パーティーだよ、その違いがわかるかな?」人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる八雲にカッと顔が熱くなる。
なにが慈善活動だ、あんな悪趣味な集まりのどこがだ。
それに、と喉まで言葉が出かける。思い出したくもない記憶が頭に過り、視界が狭くなっていく。
「……っ、それ言うなら、あんたらだって――」
「ああ。あと、何か勘違いしてるみたいだけどさ」
そう目の前の男を睨もうとしたときだった。
片手でジッパーを下ろした八雲はそのまま性器を取り出した。生々しい肉の感触とその熱に気を取られ、思わず視線を下げたときだった。いきなり後頭部を押さえつけられ、八雲の足元へと屈ませられる。
そして、
「――お前をレイプするのは合意なんだわ」
「んぶ……っ!」
人の言葉を聞く前に、そのまま強引に唇にねじ込まれる性器にぎょっとした。拒む暇もなく俺の顎を無理矢理こじ開けたそれは喉の奥まで挿入される。
「んぐ、う゛……ッ!」
「……は、ちゃんと彼氏に練習させてもらってないのか? 相変わらずドへたくそだな……っ!」
喉の奥まで塞ぎ、みっちりと詰まる舌の上のそれにただ吐き気を覚える。あまりにもいきなりなもので、呼吸の方法が一瞬わからなかった。
逃げようとする俺の後頭部を押さえつけたまま、八雲は躊躇なくひとの喉をオナホかなにかのようにして性器を突っ込んでくる。
「っ、ぉ゛、ん゛ッ、う゛」
「汚え声、色気もねえな。一番ケ瀬はそれで喜ぶのか?」
「う゛ッ、む゛」
あいつの名前を出すな。そう言いたいのに睨むことすらできない。目の前にはやつの下半身しか見えなくて、こちらのペースなんてお構いなしに自分勝手に腰を動かしてくる。吐き気が止まらない。いっそのこと口の中の物に歯を立てればと思うが、無駄に太さがあるそれを噛むほどの顎の力すらも入らなかった。
もがく俺を見下ろしたまま、それでも苦しむたびに収縮する喉の感触を楽しんでるらしい。舌の上でびくびくと脈打つ性器から滲む先走りを咥内の粘膜、頬の裏側から上顎まで塗り込むように今度はねっとりと犯され、堪らず嗚咽が漏れる。
「はあ……っ、及第点だな、変に演技臭いのよりはリアル感あっていいな、その反応」
「っ、う゛、ん゛お゛ぇ゛……ッ」
「吐くなよ、ほら、頑張って舌と喉動かせよ。彼氏のこと、気になるんだろ?」
「ッ、ふー……ッぅ゛……ッ」
「は、……っ、一番ケ瀬の名前出す度に締まるのな、お前の喉マン」
――本当に、最低だ。
辱められ、馬鹿にされ、何故こんなことをさせられなきゃならないのか。
悔しくて腹が立つが、八雲相手に逆らおうとするだけ無駄だと分かっていた。それはもう、前回嫌というほどに。
さっさと終わらせる。頭の上から投げかけられる罵詈雑言を聞き流しながら、俺はもうただ八雲の好きにさせることにした。泣きそうなほど悔しいが、それが一番自分のためであると分かったからだ。
なにより、これ以上にこいつを楽しませたくなかった。
勝手に人の喉を使って性器を愛撫させる。ぐぷ、ぬぷ、と咥内でカウパーと唾液が混ざり、泡立つ。それを必死に耐えつつ、文句言われない程度に適当に舌を絡めれば、「下手くそ」と更に八雲に喉奥まで性器を突き立てられるのだ。
「ッぅ゛、んぉ゛ッ、ぐぷッ」
「……はぁ゛―~~ッ、これこれこれ! 下手くそなフェラよりすげえいい、四軍君にしかできないよな、こんなの……ッ!」
「っぶ、ぅ゛むッ!」
「っ……あー出そ、イクからな、全部ちゃーんと飲めよ。一滴でも漏らしたらこのまま最後までヤるから」
「……ッ」
冗談だろ、と青ざめた矢先。ごぷ、と喉の奥、吐き出される精液に驚いて狭くなった喉。粘膜に絡みつき、噎せたあまり逆流してきそうになるそれに慌てて八雲のものから口を抜いた俺は自分の口を塞いだ。が、遅かった。咳き込んだ次の瞬間、ごぷ、と指と指の隙間から、鼻の穴から、飲み込みきれなかった精液が溢れ、顔面を汚した。
しまった、と青ざめる俺を見下ろしたまま、八雲は唇を歪めて笑った。
「ほんっと、欲しがりだよな。……お前」
そして、髪を引っ張られ、そのまま壁に体を押し付けられた。胸に壁の硬く冷たい感触が押し付けられぎょっとするのも束の間、突き出すような形で掴まれた下半身に這わされる大きな手に背筋が震えた。
「まっ、べ、ま゛っへ、も゛ッ、いっがい」
「なんて言ってんのかわかんねえよ……っ、ほら、逃げんなって……ッ」
「っ、ぁ゛ッ、いやだ、やめ……んん……っ!」
「無理矢理されてるみてーな声出してんじゃねえよ……ッ、もっと可愛い声で鳴く練習しとけ? なあ、ほら、十鳥ちゃん」
「っふ、ぅ゛……ッ!」
精液で汚れた口元をそのまま八雲の手に塞がれたと思えば、今度は下半身に押し付けられる性器の感触にぞっと震えた。先程出したばかりだというのに、既に大きくなったそれは制服越し、丁度割れ目の上に乗せるように置かれるのだ。
何故、何故俺がこんな目に遭わなければならないのか。
何度も自問を繰り返してきた問を、今もまた問い掛ける。
扉に手をついたまま、背後から覆いかぶさってくる八雲に奥深くまで性器をねじ込まれ、声をあげることもできなかった。
ろくな準備もされていない。初めてではないにしてもだ、勝手に濡れるわけではないそこに挿入されてみろ。最早それは拷問に等しい。
恐らく背後の男は分かっててそうやってるのだ。お前なんかこれで十分だろと、いつも側にいる見目麗しいセフレにはこんな真似など絶対しないのだ。
分かってたからこそ余計腹立つし、悔しかった。
逃げようとすれば更に奥を突き上げられ、手綱のように腕を引っ張られて更にぐりぐりと腹の奥を突き上げられれば全身が浮くようなそんな気分だった。痛みのあまり羞恥もなにも感じなくなる。限界まで広げられた肛門を更に犯され、下半身の感覚が馬鹿になるまで性器を突っ込まれたまま何度も腰を打ち付けられた。
その都度萎えた性器が震え、痛みと腹いっぱいの息苦しさと吐き気に何度か意識が飛びそうになったところに中に射精される。最後まで言葉を発することは許してもらえないまま、扉にしがみついたまま俺はそのままずるずると床に落ちた。
「……っ、は、まあまあだな。締まりがいいだけあって、フェラよかましだな」
「……っ、……」
「それで、なんの話だっけ? ああ、お前の大好きな一番ケ瀬君の話だったか? 忘れてたな」
くすくすと笑いながら、倒れ込んだまま返答する気力すらも残っていなかった俺の頭を掴み、そのまま頬に先程まで俺のケツに入ってた性器を押し付けてくるのだ。精液やらでぬらぬらと嫌に濡れた肉色のそれに思わず顔を逸らそうとすれば「ちゃんと綺麗にしろ、じゃなきゃ教えてやんねえぞ」とさらに頬に亀頭をぐりぐりと押し付けられるのだ。
「……っ、……ん、ぅ゛……」
クソ野郎、と口の中で罵倒しながら、俺はなるべく意識しないように鼻呼吸をやめ、目を瞑りながら八雲の性器に舌を這わせた。
「そんなに気になるのかよ、あいつのこと。よっぽど可愛がられてんのか?」
「っ……」
黙れ、いいからさっさと言え。
そう頭の中で言い返しながら、裏筋の凹凸に舌を這わせれば、八雲は小さく息を漏らす。そしてそのまま俺の髪に指を絡めるのだ。
「――……最近、あいつが全部投げ出してお前に付きっきりになってんの、気付いてるか?」
八雲の言葉に、思わず目を開ける。
そのままやつを見上げれば、こちらを見下ろしていた八雲と視線がぶつかった。
「あれ、すぐやめさせねーと……リコールされるぞ」
「……っ、り、こーるって」
思わず性器から口を外し、声を上げれば「そのまましゃぶってろ」と言わんばかりにすぐ唇に亀頭を押し付けられる。渋々俺はそのまま亀頭に舌を這わせた。ちろりと尿道口の窄みに尖らせた舌を這わせれば、八雲は呼吸を乱す。しかしそれも一瞬のことだ。
「……会長が許すわけねえだろって話。あいつの立場が悪くなってもいいんなら、このまま恋人ごっこしてろ。……その代わり、あいつも四軍落ちになるかもな」
「七搦のやつが今頑張って一番ケ瀬に探り入れてっから、気をつけろよ」それとも、仲間が増えた方がお前の仕事が減って楽か?と八雲は下卑た笑いを浮かべる。
正直、話が頭に入ってこなかった。意味は分かった。けれど、それを理解することを脳が拒否している。
――一番ケ瀬がリコール。
それだけならまだしも、四軍落ちになるなんて。
血の気が引く。あまりの衝撃に手を止めれば、舌打ちした八雲に「止めるな」とシャツ越しに乳首を抓られ、背筋が震えた。
「どうにかしたいんだったら、あいつをお前から離させるようにするしかねえな。……せめて、生徒会室に顔出して、会長の機嫌取りさせるように言えよ」
「それか、お前が直接会長に頼み込むか?」自慢の体でな、なんて抓られたばかりでジンジンと痺れるそこを今度は柔らかく揉まれ、びく、と大きく胸元が震えた。
考えたくない。それでも、一番ケ瀬をこのままにしておくわけにはいかない。
そのこと自体は俺も違和感を抱いていたことだ。
乳輪ごと乳首を捏ねられながら、俺はなるべく意識しないように八雲の性器に残っていた精液を犬のように舐めとる。
「……っ、ふ、そうやって忠犬ぶってりゃ、あの堅物でも気に入るかもな」
そんな八雲の言葉を聞き流しながら、俺はただ目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
「まあつまりそういうことだ。彼のことが本当に心配だと言うのならちゃんと君のその可愛い口から忠告してみるといい」
「僕とは会ってすらくれなかったけど、君の話なら一番ケ瀬君もちゃんと耳を傾けてくれるかもしれないからね」そうベルトを閉め直した八雲は普段と変わりない柔らかい口調で続けるのだ。
散々人を好き勝手犯してスッキリしたのか知らないが、あまりにも先程までとは別人のような八雲には毎度呆れさせられる。
「そりゃどうも」とだけ返しておく。
それから人を残して八雲はさっさと教室を出た。
あの男、本当に忠告しにきたつもりだったのか。
……取り敢えず、口を洗いたい。
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