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第9話

 今、あたたかいもの……  ふわって、額に降ってきた。 「お顔が真っ赤ですね。やはり室内の温度が高いでしょうか」 「ひゃっ!」  儚く淡雪のように消えたけど。  温もりは今も残っている。 「キス……」  こつん 「熱はありませんね」  おでことおでこ、こっつんこされてる〜★ 「安心しました」  にっこり微笑む彼だけど、全然安心じゃない〜 「緊張なさっているのでしょう。まだ顔が赤い」  熱く火照った頬を、冷たい革手袋の手が包んだ。 「どうか俺を信じて下さい。何があっても、必ずあなたをお守りします。俺はあなたの……」  クレイは俺の…… (一体、なに?) 「あなたの優秀な補佐官ですよ」  止まりかけていた鼓動が再び動き出す。  小さく息を吐き出した。  ほっとしていいんだよね?  ……なんだろう。胸の中、微かに揺れた。朝露を落とした湖水のようなわだかまりは…… 「よしよし」 「ク、クレイ!?」  あったかい。トクトク奏でる左胸の鼓動から、クレイの匂いがする。  まるで羽みたいに。  両腕で俺を包んで、背中をトントンと。心臓の拍動よりもずっとゆっくりなスピードで、優しく静かに叩いてくれる。 「俺は戦災孤児で、あなたに拾われました。眠れない夜、あなたはこうやって布団の中で、俺を包んでくれた。トントン、トントンって…… 少しだけ年上で、でもほとんど年の変わらない幼子のあなたが、俺を寝かしつけてくれました。『何があっても、必ずお前を守るよ』……って。きっと、あなたの方が眠かったろうに。俺が眠るまで、あなたは起きていてくれた。夜の闇から俺を守って、朝の光が昇るまで、ずっと俺を包んでくれていました。 ……今度は俺が、あなたにそうしたいです」  呼吸する度、深く深く、胸の音が静まっていく。  ありがとう。クレイがいてくれて良かった。  クレイも…… 「俺がいて良かったって思ってくれてるかなぁ」 「もちろんですよ」  あ、心の声が漏れてしまった。 「おや、また赤くなって。我が主は可愛い人ですね」

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