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第34話

 イグニッションランプが点灯する。 「うそ」  今いる場所は法廷の筈だ。 『ここは有事の際、皇族の緊急脱出通路も兼ねています』  ウィンウィンウィン  ランプに連動してエンジンが高速回転する。新たなモニターが現れて、文字の羅列が次々に切り替わる。  全く読めない。専門用語だ。 『Control yourself』 『ブレイヴシナプス正常』 『ADS確認』  重要と思われる箇所だけ、クレイが読み上げていく。 『あなたに勝利を。My lord』  エンジンが青く輝く。  光を噴き上げた。 「動いた!」  コックピット内は振動もなく、まるで蝶が舞うかのように。 『ライト様、しっかりつかまって』  なぜ?と疑問を返す時間はなかった。 「うわー」  景色が前に流れる。どうして?  答えは簡単だ。  機体が後方へ高速で動いている。 『エンジンを逆噴射しています。振り落とされないよう、気を付けて』  気を付けるも何も!  重力加速度で背中が操縦席シートに張り付いている。 『皇族脱出通路は、既に敵軍に押さえられている可能性があります。別の脱出口を探りましょう』 「分かった……わっ」 『ライト様、舌を噛まないよう注意して下さい』  不用意に喋るのは危険だ。  でも、クレイには聞きたい事が山程ある。 「どこへ向かってるんだ?」 『分かりません』 「分からないって、どういう事?」 『デュナメスには公用回廊から地下道に至るまで、城内のありとあらゆる通路がインプットされています。非常脱出通路や最短ルートは既に敵勢力に押さえられていると予測されます。だったら、最短にこだわらずに……』 「敵の撹乱」 「そう。進行ルートに敢えて規則性を持たせない事で、本機がどこに現れるか分からないようにして脱出します」 「分かった」 「進行ルートは適宜俺が選びます。城外に出ましたら……いえ、ここから先の説明は後程。ライト様、つかまっていて下さい」  ギュインッ!  凄まじい遠心力の負荷がかかる。  両脚に装備された補助輪が火花を噴いた。  機体が反転する。これでようやく真っ直ぐ前に走れると思ったのも束の間だ。 『R5封鎖、L8封鎖』  モニターに次々に文字が流れていく。  そして地図が赤く染まっていく。 『R9封鎖。やはり主要路を封鎖し、こちらを囲う作戦に出てきましたか。多数を武器に大部隊で押し込める戦術です』  地図の上、無数に広がる赤い点は敵機。  赤い点に全経路を押さえられたら、為す術を失う。 『S1、S2封鎖』 「クレイ、北」  北側通路は敵が少ない。 『ダメです。そこは誘い込みだ。敢えて配置を少なくして、我々が北側通路に入った途端、押し込んで来ます。袋小路に陥れば敗北を認めざるを得ません』 「でも!」 『分かっています。北を取られれば全方位封鎖の完全包囲網が完成され、脱出口を失います。何としても、それだけは避けなければ……』

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