22 / 23

第23話

「アルファの精神は強固だ。操るのは難しい」 カイはショウの穴を舐めながら言った。 自分の出した精液をすすりとっている。 ショウはそれに喘ぎながら困惑する。 自分の手を押さえつけているのは自分の番なのだ。 「君の兄さんは壊れてた。弟が欲しくてね。兄さん実は番がいたんだよ?知ってた?」 カイは笑う。 知らなかった。 どこかにオメガを番にして囲ってたのか。 番を公表するアルファがほとんどだからだ。 だが、あの兄が長くショウを抱けない時期もあったのに、それをどうして処理していたのかは疑問ではあった。 「番に執着し、その愛を乞うのはアルファの本能だ。だからアルファは番を2人作らない。なぜならその強い執着先が2つになるとアルファは持たない。精神が引き裂かれる。そういう意味ではベータより高潔だよね、アルファは」 ショウから溢れ出す精液が足りないと、指でカイはショウの穴をほじる。 ショウはそれに感じてしまう。 でも何より、意味がわからない。 どうなっている? カイの命令に何故自分の番が従ってる? ベータに従うアルファなど有り得ない。 「番を作ってしまった兄さんは、耐えられなかった。君への執着は最初からだし、そこに番への執着も生まれてしまった。番だけにしたら良かったのにね。君のお兄さん、自分の番にだけは優しかったんだぜ」 カイはショウの精液を掻き出し、またその穴を舐める。 そこが自分だけの場所だというように。 兄が優しく番と暮らしてた? 憎しみで目眩がする。 あの男は10歳のショウを引き裂いたのだ。 「笑えるだろ、自分から番を離してやるためだけに、こんな醜い自分から解放してやるためだけに、君のお兄さんは研究を始めさせたんだ。それがオレの大学で秘密裏に勧められていた研究。番というシステムの解除」 カイは言った。 もうショウの中から自分の精液が出ないとしると、少し残念そうだった。 押さえつけている番の手ごとショウを抱きしめる。 愛しくてたまらないという顔で。 ショウはそんなことより話が気になる。 兄は番には優しく、しかも、そんな汚い自分から解放してやるためだけに研究を進めていた? 兄は汚物だ。 汚物は汚物であることを理解していたらしい。 汚物にしては気高い愛だ。 離れてやるのが確かに一番。 だが、アルファは番を絶対に離さない。 アルファが番を手放せるのは相手が死んだ時だけだ。 兄は糞だから弟は絶対に手放す気はなかったが、番だけは手放してやりたい程に愛していたらしい。 その研究にカイも噛んでいた? どこからだ。 どこからだ カイ。 どこから知っててどこからショウに関わった? 「高校生の時にはもうプロジェクトに参加してたよ。オレ、別に高校も大学も行かなくてもいいんだ。13で大学院まで終わらせてる」 カイは言った。 アルファに負けない程優秀なベータ、どころではなかった。 カイはそれ以上だった。 「前からアンタを知ってて、前からずっと好きだった。研究を依頼されて最初はアンタのことは伏せられてたけど、研究対象はアンタの兄貴だ。オレだけは兄貴も知らせないわけにはいかなかった。アンタの話を兄貴から聞かされた時からもう、アンタに恋してた」 狂った男が言う。 兄に犯され支配されてる少年を助けようと思ったのは、兄と同じ位狂った男だった。 「オレは始めからアンタを助けるつもりだったんだ」 カイは言った。 そのためだけに高校に入学し、沢山の少年や男達に犯されたのだと。 狂ってる、 どこまでも狂ってる。 初めてショウはカイに恐怖した。 「でもちゃんと番システムは解除してやったよ。約束通り。お陰で君の兄貴が心から愛したオメガは、生きてる内に兄貴から離れることができた。理由を知らないから悲しんで泣いていたけどね。生きてるアルファから逃げられた数少ない例だ」 カイは自慢げに言った。 「番システムの解除は複数の番システムを脳内で起こさせることで可能だ。番が2人になっただけでもアルファの脳は引き裂かれる。これを人工的に複数にしてやったら番システム自体をアルファは自己破壊する。心が持たないからだ。だが、それは凄まじいトラウマ体験になる。そしてそのトラウマを利用すれば・・・強固な精神を持つアルファをベータ並に支配されやすい精神にすることができる」 カイは笑った。 「あの兄貴を消し去るには、大勢の前であんたを襲わせる必要があった。兄貴はもう、オレの言いなりになっていたしね。トラウマにコマンドを埋め込んだから、あのとおりの大暴れ」 あの事件すらカイのたくらみだったのだ。 カイが発情を促す薬を持ってたこと、カプセルの取り出しに手馴れていたこと、を思い出した。 カイこそがそういう研究をしている本人だったのだ。 「キタノがあんたを番にしなくて良かった。キタノは殺すには惜しい良い奴だったからね。部室に紛れ込んできたオレにも優しかったし」 酷く犯され、虐められたカイにも独特の基準があるらしい。 「あんたの番もオレが用意した。あんたが生きるには番がいる。アルファは必要だ。あんたの好みにも配慮した。キタノっぽいだろ?ちゃんとコイツに抱かれて、どんな性癖なのかも調べたよ。全部アンタのためだ」 カイのこの言葉には流石に絶句した。 カイは番と寝てた。 カイが番を操った。 カイは番とキスした。 番は愛しげにカイの頬を撫でた。 「あんたの兄貴と一緒だよ、こいつ。オレのためなら何でもするけど、あんたを番にしたからあんたに執着せずにはいられない 。可哀想な引き裂かれたアルファだ。オレがあんた挿れるのはアンタに執着してるから耐えられないし、あんたがオレを可愛いがるのもオレを愛してるから許せない。辛くてたまらない。可哀想に・・・だから、精神を壊してあげている。引き裂かれたアルファなら精神は簡単に操れる。番システムを上手く利用すらことが一番なんだ。アルファ支配のこの世の中じゃ、絶対に発表できない研究成果だよ」 カイはそう言うと、番と舌を絡ませあった。 番とカイは音をたてて互いの舌を夢中で貪る。 カイはショウのおもちゃだが、番も兄もカイのおもちゃだったのだ。 ショウは舌を絡め合う2人を混乱しながらみるしかない。 番は掴んでいたショウの手を離し、カイを抱きしめた。 ベータを愛するために乱暴にならないように。 その抱き方と愛おしそうな様子は、キタノがあのオメガに向けていた繊細さを思い出した。 番は丁寧にカイの身体をまさぐる。 アルファはそんなセックスでは物足りないはず、でもだからこそ、そのベータを愛してるとわかるやり方で。 ショウは何故か涙がでた。 「あんたの兄貴とも寝たよ。あんたの名前を呼ばせながらするの、悪くなかったし、愛する番の名前を呼ばせるのも悪くなかった」 カイは喘ぎながら言った。 ショウが可愛がったカイの穴を今は番が指を埋めている。 ゆっくり動かして、大切に大切に愛してる。 番はこのベータのカイをセックスをすること以上に愛してる。 「ショウ、愛してる」 番に指でイカされながら、カイが言う。 「カイ・・・愛してる」 番がうっとりと言う。 カイに支配されてしまっている番が。 ショウは。 ショウは。 逃げられないことに気付いた。 ベータのカイを支配して貶める遊びをしていたつもりだった。 だけど今、 何もかもを支配されて、貶められているのはショウだ。 「ベータのオレじゃ足りないでしょ?わかってる。アルファでお腹いっぱいにしてあげるから」 カイの優しい声が響く。 「後でね」 優しく番に言うと番は未練のようにカイの背中を撫でると、カイをそっと下ろして、ショウの上にのしかかる。 そして、今までとおりの優しい声で言った。 「ショウ、愛してる」 その目は優しくて。 その言葉は本当で。 だからこそショウは悲鳴をあげた。 本当の悪夢がはじまった おわり

ともだちにシェアしよう!