1 / 16
視姦と排泄管理 (1)
七月が終わり、強烈な日差しと蒸し暑さは増すばかりだ。
煉瓦 造りの洋館を取り囲む雑木林 は鎮守 の森さながらで、うっそうと繁 る木立の中は昼間でも薄暗い。
むっとする樹木の匂いに圧倒される。
降り注ぐ蝉 の大合唱のあいまを縫って、甲高 い野鳥の声が聞こえた。
不意の風が、みっちりとした緑を纏 う枝葉を揺らす。
昭和初期に建てられたというチューダー様式の館の内側は、ノスタルジックな和洋 折衷 だった。
天井から吊されたシャンデリアはイタリアの吹きガラスでできていて、寄せ木細工の床に柔らかな光を落としている。
アンティークの時計の針は、午後二時を指していた。
広い部屋の隅 に人の背丈よりも大きな振り子時計が置かれ、その側にあるソファには、どういう事情なのか、足枷 をはめられた若い男が座っていた。
肩幅が広く、全体的に骨太で、身長も高いことが窺 える。ぱっと人目を惹 く華やかさはないが、日本的な、端正な顔立ちだった。
若い男――というよりも、まだ少年と呼んだほうがふさわしい彼は、ぎらぎらした眼 をして、全裸で立ち尽くしているもう一人の少年を、背後から見つめている。
◆◆◆ ◆◆◆
「わ、わかりました……ちゃ、ちゃんと……ちゃんと、言う通りにします」
全裸で床の上に立つ真希人 は、震える声で言った。
唇を嚙 んでうつむく。
長い睫毛 が微 かに震えている。
すっ、と真希人は優雅な動作でしゃがみ、床に膝をついて四つん這いになった。
肘 で身体を支え、主人に命じられた通り、交尾をねだる雌犬 のように尻を突き出して高く掲 げる。
悲しい。惨 めだった。
けれど、この先にある快楽をむさぼりたいという淫らな欲望のほうが、はるかに勝る。
今日の真希人の主人であるカオルは、チェストの引き出しから大きめの黒いポーチを取り出して、真希人の背後にある椅子に座り直した。
少しだけ首をかしげて、黒いスキニーパンツに包まれた長い脚を組み、肩にかかるアッシュグレーの髪を後ろに払う。
彼は緑色の眼を細め、高々と掲げられた真希人の白い双丘 を凝視 した。
「素敵な光景だよ、マキト。お尻のヒダヒダが丸見えだ。色も綺麗 だし、ひとつひとつの襞 の形が整ってる。誰にも犯されていない証拠だね」
カオルのハスキーな声が聞こえると、割れ目の奥にある秘孔 がキュンと収縮した。
自分がどれだけいかがわしい性癖の持ち主なのかを、真希人は思い知らされる。
「さて、中身はどうかな? 楽しみだね」
カオルは楽しそうに言うと、ポーチからローションボトルや手袋、その他、何に使うのかよく分からない道具を取り出し、テーブルの上に並べていく。
時折、舐 めるようなカオルの視線が剥 き出しのアナルに注がれた。
それに気付いた真希人は、ドス黒い欲望と悦 びと羞恥 を同時に感じて、思わず眼を閉じる。
尻の穴だけじゃない。
その下にぶらさがった陰嚢 も、陰嚢の陰 から見え隠れするペニスも、ぜんぶ。ぜんぶ、見られているのだ。
(ああ……恥ずかしい。カオルさんに見られてるんだ、おれのお尻の穴も、おチン○ンも……)
恥ずかしくて、どこかに身を隠してしまいたい。
でも、今の真希人の恥ずかしさは、秘めた場所を凝視 される恥ずかしさではない。あられもない姿を他人の眼でじっと見つめられることで興奮する、自分自身への羞恥だった。
(また昨日みたいに、後ろの孔 に指を何本も入れられて、ぐりぐり掻き回されるのかな……?)
真希人の閉じた瞼 の裏に、カオルの、蝋 人形を思わせる人間離れした美貌が浮かぶ。
あの冷たいエメラルドの瞳で、恥ずかしい場所を視姦 されている――想像しただけで、淫らに反応した孔 が収縮を繰り返した。
(でも、あれ、すごく気持ちよかった。尻の中をいじられながらフェラされたら、あっという間にイッちゃったもんな……)
真希人の視野の隅に、慣れたしぐさで薄い医療用の手袋をつけるカオルが映った。
何をされるのかはわからないけど、臀部 の奥にある薔薇 色の蕾 は、期待しながら震えている。
「ひっ!」
いきなり冷たいものが後孔 に垂らされて、真希人は身を固くした。
「そんなに緊張しないで。すぐに気持ちよくしてあげるから」
カオルは滴 らせたローションを塗りまぶすようにして、ぎゅっと口を閉ざしている真希人の蕾を指先で撫で回す。
「うわっ……あっ、あああーっ!」
堅い木の床をがりがりと引っ掻いて、真希人は快感に身悶 えた。
「大丈夫? まだ、なぁんにもしてないよ? 表面に触れてるだけで、指も入れてないのに……ほんとにマキトは感じやすいんだね」
カオルは嬉しそうに、ゆるゆると円を描くように指を動かす。
「んんっ! ふっ、ああんっ!」
――くちゅ、くちゅっ。
カオルの指は少しずつ襞を掻き分けた。指先がめり込むたびに、淫猥 な音がする。
人差し指に続いて中指が、あっという間に根元まで沈み込んだ。二本の指は小刻みに動いて、真希人のいい場所を何度も擦 る。
下腹がとろとろになりそうだ。
蕾の襞がキュッと締まって、カオルの指にきつく喰 いついた。
「あっ…あっ! ……そこっ! すごい、気持ちいい……っ!」
床に突っ伏して、真希人は快楽をむさぼる。
「うわあ! マキトのここ、すごいことになってるよ。ヒダヒダが縮まって、こんもり盛りあがってる。ダメだよ。もっと力を抜いてリラックスしなきゃ」
そう言いながら、カオルはさらにもう一本、指を増やした。
三本の指がぐちゅぐちゅといやらしい音を立てながら、真希人の肉筒 の中を這い回る。
そのまま届く限り奥まで侵入し、肉襞 を擦りあげ、掻き回し、ぬぷぬぷ出入りを繰り返した。
「……あ、ああっ! だっ、だめぇっ! そんなところ……っ!」
こんな状態で、どうやってリラックスしろというのか。
耐えられない。
自分でも気付かないうちに、真希人は夢中になって腰を動かしていた。ペニスの先端から溢 れた蜜が、床の上にぽたぽた滴っている。
「知ってる? 人間の身体って不思議なんだよ、マキト。ここに一度でも男のオチ○チンを咥え込むとね、形が変わるんだよ。チ○コの形を記憶しちゃうんだ」
と、なぜだか急に、カオルの指が止まった。
「……あ、あん……なんで……?」
無意識に、愛撫を止めたことを咎 める声が出る。
「ここで問題です。真希人が好きなこの場所のこと、なんて言うんだっけ?」
「え――?」
茶化すようなカオルの声に、真希人は鼻白んだ。快楽を断ち切られた不快感がつのる。
(こんなときに……ふざけている場合じゃないだろ……どこまでおれを嬲 れば気が済むんだ?)
心の中で毒づいてみるけれど、本気で反抗しようとは思わない。
カオルの指の動きは止まったままだ。
早く、早く手を動かしてほしい。お尻の中を掻き回してほしい。
「だから、ここ。この、ぐりぐりすると気持ちいい場所の名前だよ。さっき教えたばっかりだよ?」
「……え? ……ぜ、前立腺……?」
「残念。正解するまで、このままだからね」
「え? ええ……?」
早く指を動かしてほしい。ぐちゅぐちゅしてほしい。でも、思い出せない。
(なんだっけ? ええっと……なんか、すごくいやらしい名前だった……たしか、オス……オス……)
「……あ! オ……オス子宮?」
「ピンポーン! よくできました! じゃ、ご褒美 あげるね」
「ひぃ! うぐっ! ううっ……!」
ほぐれかけていた蕾 が、ふたたび掻き回される。
蕾の入り口付近のヒダヒダがふわっと伸びて、突き入れられるカオルの指をたやすく呑み込んだ。
「うん、しなやかでいいね。ふっくらしてきたし、中も蕩 けはじめてる。これだったら、すぐにチ○コを挿入できるよ」
カオルは突き立てた指で、さらに真希人の体内を掻き乱した。オス子宮の位置を確実に探りあて、執拗 に擦り続ける。
「ん、んんっ……あっ…そこ、いいっ! すごくいいっ! もっとして……あああっ!」
真希人は、はしたない言葉を吐いて激しく尻を揺すった。
もう、どうにでもなればいい。
「偉 い、偉い。三本の指も軽々咥 えて、後ろで感じられるようになったね。マキトは覚えがいいよ。じゃ、次に行こうか」
カオルの指が、外に出て行きそうな気配がする。
「い、いやっ、いやだ! やめないで! 抜かないで!」
懇願 もむなしく、長い三本の指がずるりと秘孔から引き抜かれた。
入れ替わりに、細い管状 の何かが差し込まれる。
「……え? な、なに?」
真希人は上体をひねって、違和感の正体を確かめる。
一瞬だったが、透明な筒 ――注射器のようなものが視野に入った。
「なっ、何してんの? 何を挿 れて……うわっ……!」
直腸に、何か得体 のしれないものが流し込まれる。
口の中に生臭い匂いと変な味が拡 がって、気持ち悪くて吐きそうだった。
「何って、見れば分かるだろ? ただの浣腸 だよ」
「かっ、浣腸っ? そ、そんなもの……なんで、おれに……?」
泣きそうになった。
こんな大きな浣腸をされるのも初めてだったが、このあと、どんな生理現象が自分の身に起こるのかは知っている。
真希人はぐっと首をひねると、無理な体勢でカオルを睨 んだ。
「睨んでも無駄だよ、マキト。ほら、もうすぐ浣腸液が空っぽになる。あ、そうそう、最初に言っておくの忘れてたけど、この浣腸の中身は、きみにとってスペシャルなものなんだ」
「……スペシャル?」
「気になるよね? 教えてあげる。きみの大事な大事な親友、ヒロくんのザーメン入りだよ」
聞いた瞬間、耳を疑った。
「ヒ、ヒロの……ザーメン? ザ、ザーメンって、精液……?」
真希人はそこに至ってようやく、この部屋に紘行 が、幼なじみの親友がいることを思い出した。
紘行は時代がかった振り子時計の側で足枷 をされ、赤いビロード張りのソファに繋 がれている。
「……ひどい……ひどいよ……ヒロの精液を、おれのお尻に入れたの? なんでそんなこと……」
真希人は、涙の滲 んだ眼でカオルを見あげた。
「ええ? 何がひどいのかな? 大好きなヒロくんのザーメンなんだよ? 嬉しいだろ? ほら、もうぜんぶ入ったよ」
カオルはにっこりと笑った。作りものみたいな綺麗な顔で。罪の意識など微塵 もなさそうだ。
真希人の背筋に悪寒 が走る。
(やっぱり……やっぱり、どこか壊れてるんだ……この人……)
突然、お腹がぎゅるぎゅると鳴った。
腸が激しく動き、強烈な便意が襲ってくる。
ともだちにシェアしよう!