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最終オーディション (4)
壁に掛かった大きな姿見の前でタケルが足を止めたため、真希人も這い這いをやめ、紘行の様子を窺 った。
紘行は突っ立ったまま、固まってしまっている。
(当たり前だよな……おれのこんな格好を見て、自分も同じようにされるんだから。平気でいられるはずがないよ、いくら神経が図太いヒロでも……)
そう思いながらも『紘行が自分を見ている、自分の姿を見て心を動かされている』、その事実をひしひしと感じた真希人は、心の底に暗い悦 びが沸 き立っていることに気づいた。
ずっと欲しかったけれど、おおっぴらに欲しいと言えなかったものを、こっそり手に入れたときの気分によく似ている。
こんな惨 めな、ぶざまな姿を晒 しているというのに――。
「さあ、ヒロくん。お尻、こっちに向けて。それとも、また昨日みたいにアキラに手伝ってもらいたいのかな?」
カオルの言葉に、紘行はちらりとアキラのほうを見る。
頭を左右に振りながら息を吐くと、ゆっくりと床に膝をつき、手をついた。
「ああ、それじゃダメだよ。もっとお尻、高くあげて。後ろの穴が見えるように」
カオルも容赦がなかった。
馬の尻尾の付いた道具を手に持ち、動物を調教するように紘行の腰をぽんぽんと叩いている。
「くっ……」
悔しそうに呻 いたあと、彼は諦めたように頭を下げ、肘をつき、尻を高々と掲 げた。
カオルの手が紘行の臀部 にかかり、尻の肉を左右にくつろげる。
タケルのように前戯などせず、いきなり道具を肛孔 に押し込んでいった。
「うわっ、あっ……ぐっ、くうっ……!」
苦痛なのか、違和感なのか。
紘行の喉 から押し殺した声が漏れる。
道具の先にある紡錘形の膨らみはそれほど大きくはないけれど、排出するための場所に外側から挿入される違和感は半端ないはずだ。
破廉恥 な姿勢を取る紘行の姿は、真希人にとってはひどく新鮮で、魅力的だった。
いつも自信に満ち、凡庸 なその他大勢など歯牙 にもかけず、人生をそつなく渡っていく彼のイメージが崩れていく。
どこまで崩れていくのか、見極めてみたいとも思う。
カオルは何度か軽い抜き差しを繰り返しながら、ずっぽりと根元まで道具を咥 えさせた。
形よく盛りあがった紘行の尻からも、真希人と同じふさふさの尻尾が生えている。
「うん、可愛いよ、ヒロくん。さあ、二人並んでお散歩しようか」
カオルは楽しそうに紘行の首にも首輪を巻き、鎖をぐいっと引っぱった。
けれど、紘行は唇を引き結んだまま、びくともしない。
「そうかぁ、やっぱり身体が大きい分、ヒロくんは頑丈なんだね。でも、言うこと聞かないとお仕置きされるのは、マキトくんと一緒だよ?」
「うわあああっ!」
いきなり悲鳴が響き、紘行がその場にうずくまった。
カオルがローターのリモコンを操作したのだ。
うずくまったまま身体をぶるぶる震わせる紘行を見た真希人には、彼が今、どんな感覚を味わっているのかが手に取るように伝わってくる。
「悦 んでくれて嬉しいよ、ヒロくん。プレゼントを用意した甲斐があるね」
微笑みながらカオルが言う。
ヴィイーンと低く唸 るローターの音が真希人の耳にも届いた。
呻 きながら床の上で身悶 える姿を見ていると、次第に妖しい気分になってくる。
「うわあっ! やめろっ! 止めてっ! 尻が……尻の穴が痺 れる……っ!」
紘行は身も蓋 もない声をあげ、全身を震わせている。
「うあっ!」
今度は真希人が叫んだ。
埋め込まれたローターが、いきなり強く振動しはじめたからだ。
「ひぃっ! 嫌だ! やめて! やめろっ!」
尻の中の振動がペニスだけではなく、会陰 や陰嚢 にダイレクトに伝わる。
身体を支えていられなくなった真希人は、その場に崩れ落ちた。
「あっ……あっ、ああっ!」
刺激に慣れたのか、これまでに味わったことのない感覚が真希人の中で目覚めてきた。
不快だったはずの秘孔の振動が、次第に心地よく感じられてくる。
肛門の中にある一部分から、じわじわと痺れに似た快美感が下腹全体に、特に会陰のあたりに集中的に拡がっていく。
ぶるぶるするローターの震えが強くなったり弱くなったりを繰り返すたび、前方にある雄 の突起物が反応し、硬く膨張していくのが分かった。
「あっ、あっ、ああっ……お、おかしくなるっ! おっ、お尻が……チ○コが……壊れる……っ! 壊れるよぉ……っ!」
何を口走っているのか、自分でも分からなくなった。
床に突っ伏した真希人は涙 眼 になりながら、匍匐 前進でタケルの足元へと近づいていく。
「ダッ、ダメ……ダメだよ、もう、強くしないで! おれ、おかしくなりそう……!」
息も絶え絶えに訴えると、タケルは優雅に微笑 んだ。
「このお遊びって、私はすごく楽しいんだけど……マキトは辛 そうね。それじゃあ、そろそろ二人で散歩といきましょうか」
直腸で激しく振動していたローターが静かになった。やっと満足に呼吸できるようになった真希人は、ほうっと息をつく。
紘行も同じ状態らしく、喘 ぐように荒い息をしていた。
ぐいっと引っぱられた鎖が「じゃらん」と鳴る。
タケルとカオルにそれぞれリードされた二人は、横に並んでのろのろと進みはじめた。
歩くたびに肛門に突き立てられた尻尾の先が太腿に触れ、体内にある膨らんだ部分が直腸を刺激する。
ローターは完全に止まったわけではなく、まだ真希人の中で震えていた。
(ああ……なんだか……なんだかヘンだ。ローターが当たってる場所が……気持ちいい……)
もしかしたら、これが前立腺の快感なのだろうか。
ペニスを刺激して得られる快感とは、質が違う。
この刺激をずっと与えられ続けたら……どうなるのだろう?
アキラみたいに――紘行のモノを後ろに咥 え込んで射精した昨日のアキラみたいに、男のペニスで犯されるのが気持ちよくて、たまらなくなってしまうんだろうか?
そんなことを考えると背筋がぞくぞくした。
経験してみたいような……でも、知りたくないような。
知ってしまったら、もう元の場所には戻れない。きっと、人生そのものが変わってしまう。
寄せ木細工の床の上を、檻 のなかの動物のような緩慢 なスピードで、真希人と紘行は這い進んだ。
白い漆喰 の壁には縦横二メートルは軽く超えていそうな大きな鏡が立てかけてあり、その鏡を中心に、ぐるぐると部屋の中を引っ張り回される。
膝 が痛い。
太い首輪が皮膚に喰 い込んで、息苦しい。
止まったり、這う動きが遅くなると、直腸に埋め込まれたローターの振動が強くなった。
お仕置きだ。
「うあ、あ……っ!」
膝の痛みのせいで動きが鈍くなった真希人は声をあげ、その場にうずくまった。
いきなり、強烈な快感が尻から背中に突き抜ける。
後孔に埋め込まれたローターが、真希人の性感の器をいっぱいに満たし、溢 れさせたのだ。
「はあっ! はうっ! んふっ、ううう……っ!」
勃起した性器から、白い粘液が噴き出した。
全身が、まるで電流が通ったようにガクガクと震えたまま、止まらなかった。
ペニスへの刺激だけで得られる絶頂感とはまるで違う。
快楽の深さは比べものにならない。
「……はぁ……あ、ああ……うう…っ……」
力のない、喘 ぎとも呻 きともつかない声が、真希人の口から漏れる。
手足はまだピクピクと震えている。
すでに射精を終えてしまったはずなのに、緩 やかな絶頂感が続いていた。
ふと、どこからか視線を感じた。
タケルやカオル、紘行、部屋の隅に飾り物のように控えているアキラのものではない。
どこか別の場所から見つめられているような。
(まさか……この鏡とか……?)
真希人は顔をあげ、近くにある大鏡を見た。
鎖の付いた首枷 をはめられて、しどけなく床に這いつくばる自分の姿が映っている。
繊細な彫刻が施 された木枠にはめ込まれた、時代がかった鏡だった。高価なものだとは分かるが、それ以外は特に変わった所はない。
(バカみたいだ……鏡に見つめられているなんて……気のせいに決まってる)
真希人は思い直した。
古くて、やたらと存在感のある鏡だ。
その前を何度も鎖に引かれて通過したり、こうして恥ずかしい姿を晒しているから、おかしな気がするだけだ。
「あらあら、もうお漏らししちゃったのね。 お行儀の悪いこと。ほら、お立ちなさいな。まだ、お散歩は終わってないのよ?」
タケルは容赦なく、ぐいぐいと鎖を引っぱった。
(この人……見かけは綺麗なのに……鬼畜 だ……)
真希人は心の中で思う。
が、不思議とタケルに嫌悪は感じない。
気を取り直し、また、のろのろと身体を起こす。
「……あ…っ!」
尻の中のローターが、また動きだした。
強く、弱く、振動のリズムを変えながら、真希人の性感帯を震わせる。
「あっ……ああっ! やっ、やめ……ろ……!」
射精したばかりのペニスが、また、そろそろと頭をもたげていた。
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