14 / 16
最終オーディション (5)
(……う、うそ……うそだろ? 尻の中を刺激されて、すぐに勃 つなんて……)
生理的な反応だと知っていても、焦 る。
自分がとんでもない淫乱になってしまった気がして、羞恥 と罪悪感に胸を締めつけられた。
「あら、もう元気になってるじゃない。真希人はお尻の穴をいじられるのが、ほんとに好きなのねえ」
タケルの、どこか侮蔑 を含んだような声が頭上から降ってくる。
「あっ! やっ、やめて!」
長くしなやかなタケルの指が後ろから股間に滑り込み、真希人のペニスをつかんだ。
艶 やかな真珠色の爪が、勃起した陰茎をやさしく引っ掻く。
それに合わせるようにローターの振動が変わり、ダイレクトに前立腺を刺激した。
「……ひっ! ひいぃっ……!」
責められる家畜 のような、惨めな悲鳴が出る。
膝が、がくがくと震える。
強制的な快楽と、コントロールされた苦痛と、なけなしのプライドなどたやすく砕いてしまう相手への隷属 は、真希人を少しずつ内側から壊し、理性を麻痺 させてゆく。
「ねえ、マキト……せっかく立派なオチ○チンが勃 っちゃってるんだから、有効に使わないともったいないと思わない?」
耳元で、タケルがささやいた。
「そうねえ……ヒロくんじゃ、いくらなんでも無理があるわよね……では、アキラでどう?」
「……え?」
タケルが目配 せをしただけで、部屋の隅にいたアキラが音もなく近づいてくる。
すべて承知しているのか、アキラは歩きながら脱いだ上着をダイニングチェアの背に掛け、ネクタイを緩め、シャツの前ボタンを外していった。
「アキラ、マキトの相手をしてあげて」
「承知しました」
返事をしたアキラは表情を変えることも、ためらうこともせず、淡々と服を脱ぎ、全裸になった。
服の脱ぎ方が、やけに様 になっている。ここまでになると、その方面のプロだと思っても差し障りないのかもしれない。
裸のアキラが前に立つと同時に、タケルは真希人の首輪から鎖を外した。
「さてと……どうする? 僕がきみの上に乗ろうか? それとも、バックでしたい?」
「え? ……そ、そんなこと訊 かれても……」
サバサバと訊いてくるアキラの態度に、真希人は戸惑った。
男の尻に挿 れるなんて初めてだし、そんなことをする自分を想像したこともない。
ふと彼の性器に眼がいった。
すでに半勃 ちになったその先端には、金色のピアスが揺れている。
もしも向かい合う騎乗位 で交われば、眼の前でアキラの勃起したペニスが揺れるのを直視しなくてはならない。
その様子をリアルに想像してみた。
(そんなの……いくら興奮してたって、さすがに萎 えそう……)
尻を刺激されたあげくにチ○コまで勃 てといて、なんて醒めたことを考えているんだろう。でも、こんな状況で冷静になれるのは自分がゲイではない証拠だ、と真希人は思う。
いくらアキラやタケルやカオルの容姿が美しくても、彼らは男だ。一度や二度、セックスをしたからって、ゲイでもない自分が彼らにのめり込むなんてあり得ない。
そう、これは、ただのお遊びなのだ。
そんな都合のいい結論を導き出すと、とたんに気が楽になった。現金なものだ。
「……じゃあ、バックで」
ごくりと唾液を飲み込み、真希人は告げる。
「いいよ」
にこっと笑ったアキラは、ためらうことなく四つん這いになり、脚を開き、尻を突き出した。
彼の引き締まった丸い臀部 を真後ろから見た真希人は、思わず眼を見張る。
(え……? この人の尻って、なんか変……じゃないか?)
後孔の形が、違っているのだ。
通常なら丸く小さく窄 んでいるはずの肛門が、縦に細長く割れている。陰核 や陰唇 のない女性器のようにも見える。
「ふふ……マキトは、開発済みのアナルを見るのは初めて?」
タケルの声がした。
「いやらしい形でしょう? お尻で経験を積むと、こんな風にアナルの形が変わるの。アキラくらいになると、もう前戯は必要ないわ。すぐに挿入しても大丈夫よ」
そう言われたからといって、「はい、分かりました」といきなり突っ込めるわけがない。
こっちは初体験なのだ。
「でも女の子じゃないから、自然には濡れないわ。乾いたままで挿入したんじゃ、いくら何でもかわいそう。マキト、アキラのお尻にローションを塗ってあげなさい。あなたのオチ○チンにも、たっぷりとね」
渡されたローション・ボトルを手にした真希人は、恐る恐る粘ついた液体を手のひらに取り、自分のペニスにたっぷりとまぶした。
蜂蜜色の液体は肌に塗り込むとさらさらになり、いい香りがする。
もう一度ボトルを傾けて手のひらに取ると、次はアキラの肛門にそっと垂らした。
ひくひくと窄 んだり開いたりを繰り返している秘孔が、飢えたようにローションを呑み込んでいく。
見つめられて興奮しているのか、早く貫かれたいのか、ぱくぱくと唇のように動く肉襞が、『早く欲しい』と催促 している。
真希人の股間はふたたび、じわりと熱を持った。
「ああん、もう……じらさないで、早く挿 れて」
我慢がきかなくなったのか、アキラが悩ましい声を出す。
四つん這いの彼は肩と頬を床につけて上体を支えると、両手を後ろに回し、自分の尻肉をつかんで左右に広げた。
「ほら、見えるだろ? ここ……この穴に、チ○コをぶち込むんだよ。さあ、早く! もう我慢できない! 早く挿入して!」
たっぷりとローションをまぶされたアキラの孔襞 が、妖しく蠢 く。
その襞が動くたびに、さらに奥にある鮮紅 色の肉襞が見え隠れして、真希人を煽 った。
雄 の本能なのか、自然に身体が動く。
ドキドキしながら、アキラの尻に手を置いた。白い尻肉がピクリと震える。
「は……っ、ああ……」
アキラの漏らす溜め息はひどく色っぽくて、真希人の劣情に一気に火を注いだ。
いきり勃 った自分のペニスに手を添え、アキラみずからが押し開いたアヌスに亀頭を押しつける。
ぐっと腰を突き出すと、決して小さくはない亀頭の先が「ずぷり」と埋まった。
「……あっ、ああっ!」
まだほんの先っぽしか挿入していないのに、アキラは声をあげてよがる。
(す、すごいな……)
あまりの反応の良さに、真希人は我を忘れそうになった。
これまで何人もの女の子とセックスしてきたけれど、これほど敏感に反応する身体は初めてだ。
無意識に唇を舐めた真希人は、さらに挿入を深める。
怒張したペニスは、面白いくらいに易々 と沈んでいった。
「……う、ううっ!」
熱い肉襞にぎゅうっと締めつけられ、真希人は声を漏らした。
「ああ……んっ! そのまま、きて! はあっ……ああっ! もっと奥まで、きて……っ!」
アキラはさらに深く繋 がろうとするかのように、身体をくねらせ、尻を突きだす。
喘ぎの混じった挑発的な声に煽 られた真希人は、腰に力を込め、ひと息にアキラを貫いた。
「あっ、ああんっ! ……いいっ!」
突きだされたアキラの腰骨を両手でつかみ、ゆっくりしたスピードで出し挿 れする。
肛門周辺は括約筋 があるせいで、ひときわ締まる感じがする。
けれど不思議なのは、ぐっと奥に突き入れて引き出すときに、ペニス全体を搾 られるような圧迫感があることだ。
(直腸の部分って結構広いから、アナルの中に入れるとスカスカだって聞いたことがあるけど……あれって、嘘なのか? それともアキラさんが……特別なんだろうか……?)
頭の隅 で、真希人は考える。
そうでもして気を散らしていないと、あっという間に達してしまいそうだった。
「あっ! そこ……っ! そこだよ! もっと強く……強く突いて!」
アキラが嬌声 をあげる。
「え? ど、どこ……?」
『そこ』と言われても、アナル・セックスが初めての真希人には分からない。
不安になり、ついタケルのほうを見てしまう。
タケルは一人掛けのソファに座り、優雅にワイングラスを傾けていた。
長い脚を組み替えるときに黒いドレスの裾 がはだけ、ストッキングを留めた太腿 のガーターベルトがあらわになる。
「ねえ、マキト。あなた、女の子を抱いたことはあるのでしょう? セックスの基本は、男も女も同じよ。感じる場所も、ほぼ同じ。アナル内部の感触がよく分からないのなら、他の部分で気持ちよくさせてあげるの。たとえば、アキラの乳首やオチ○チンを触ってみるとか……」
確かにそうだ。
納得した真希人は、アキラの胸に手を這わせた。
男にしてはぷっくりとした乳首に、指先で触れる。親指と人差し指でつまんでコリコリと弄 ると、アキラが切ない声で鳴 いた。
「あっ……いいっ! 乳首……好き……っ!」
同時に後ろの孔 が狭くなり、ぎゅううっとペニスを締めあげる。
「うわっ……!」
いきなりの締めつけに驚いた真希人は、とっさに腰を引いた。
ところがアキラの妖しく蠢 く肉襞 は、抜けかけた男根を追いかけるように捕らえて咥 え込む。
「うっ……嘘、だろ……?」
こんなセックスは経験したことがなかった。
アキラのアナルは、意志を持つ生きもののように真希人のペニスに柔肉 を絡ませ、嬉しそうに締めつけながら直腸の奥へと引き込んでゆく。
信じられない。
女の子とするよりも、何倍も気持ちいい。
「……す、すごい……この感触って……ああ……っ」
あまりの快感に、真希人が恍惚 となった瞬間――。
後孔に埋め込まれたローターが激しく震えた。タケルがリモコンを操作したのだ。
「ひっ! ひいっ! あううっ!」
真希人は下半身をのたうたせ、アキラの背中に倒れ込んだ。
ローターが真希人のアナルを抉 るように掻き回す。
一瞬、気を失いそうになった。
「あーっ! すごっ! すごいよ! 硬いっ! マキトのチ○コ、すごく硬くなった! ああっ! ゴリゴリするっ! たまんない!」
アキラは全身をわななかせ、前後左右に腰を振った。その刺激を受けた真希人も、ペニスの抽挿を再開する。
二人の結合部分が、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。
アキラの中に埋まった性器の快感と、尻に突き立てられた性具からの快楽。
気が狂いそうだ。
「も、もうダメッ! 出るっ、出ちゃうよ! ああーっ!」
感電でもしたかのように、真希人の身体がぴん、と硬直した。
全身ががくがくと震える。
肛門に突き刺さった馬の尻尾も、ふるふると震えながら腿 の裏側を擦 る。
「くっ……うう……っ……」
アキラの中に精を放った真希人は、力尽きて体勢を崩した。
疲れ切った肉体とは裏腹に、熟して役に立たなくなっていた脳みそが理性を取り戻す。
(……ヤった……ヤってしまったんだ……男と……)
天にも昇るようだった一瞬前の悦楽は消え失せ、絶望とも自己嫌悪ともつかない感情が溢 れてくる。
涙と涎 でぐちゃぐちゃになった顔をあげると、紘行と視線が交わった。
ドキリとした。
紘行の眼つきがおかしい。
獣を思わせるギラギラとぬめった光をたたえた瞳は、あきらかな劣情を宿していた。
(ヒロが興奮してる……? おれとアキラさんのセックスを見て……?)
真希人の背中を、奇妙な満足感を伴 う甘美な何かが駆けあがった。
紘行が昂 ぶっている。
真希人のセックスを見て興奮しているのか。あるいはアキラの肉体に、なのか。
どちらでも構わない、という気がした。
ただ、紘行が自分とアキラの結合を見た結果、性的に興奮しているという事実に暗い悦びを感じる。
なぜ自分がそんな感情を抱くのか、理由は分からなかったけれど――。
ともだちにシェアしよう!