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最終オーディション (6)

「あら、もう終わっちゃったのね。残念だこと」  そう言ってタケルは、グラスに残っていたワインを飲み干した。 「でも、アキラはまだ満足してないみたいね。仕方ないわ。初心者じゃ、彼を満たすなんて不可能だもの」  アキラの背中に突っ伏したまま、荒い息を整えている真希人を見おろしていたタケルは、ちらりと紘行を見る。 「まだ欲しいんでしょう、アキラ? ヒロくんのは、どう? あなた、でっかいオチ○チン、大好きですものね。カオル、ヒロくんの鎖を外してあげてちょうだい」  カオルが動き、紘行の足枷の鍵を外す。鎖が床に落ちる派手な音がした。  いつの間にか伸びてきたカオルの腕が、真希人の身体を持ちあげ、立たせる。  カオルに導かれ、ふらふらと歩を進める間も、馬の尻尾の先に付いているローターは尻の奥で震えていた。 「ああ、ヒロくんてば、もう前がビンビンになってるじゃない。アキラが待ってるわ。早く()れてあげて」  タケルが微笑む。  カオルに脇を支えられ、かろうじて立っていた真希人は、その場に崩れるように座り込んだ。馬の尻尾が邪魔になって、女の子みたいな横座りしかできない。  抜いてしまえばいいのに、それすら思いつかないのは、腹に響く振動が病みつきになっているせいだ。 (ヒロが……アキラさんを、抱く……?)  昨日の、紘行の上でアキラが狂い踊っていた光景が浮かぶ。 (また、あの姿を見なくちゃいけないのか……)  苦々しい思いが湧いた。  見たくない。でも、見ていたい。  紘行が快楽に溺れる姿を見たい。でも、見るのは(つら)い。  自分が本当は何を望んでいるのか、真希人にはもう分からなくなっていた。  ふと気づくと、カオルが細長い棒のようなものを手にしていた。大人の腕の長さくらいで、持ち手の反対側には細長い台形の黒い(かわ)が張られている。 (何なんだ? あの棒みたいなの……)  真希人の視線に気付いたのか、カオルが話しかけてくる。 「これが気になるみたいだね、マキトくん。テレビとかで見たことない?」  真希人は首を横に振った。 「乗馬用の(むち)だよ。競馬のジョッキーが使うやつ」 「……鞭……って……」 「馬だけじゃなくて、人間にも使えるんだよね、これ」  言い終わらないうちに、カオルは鞭を振りかざした。  ひゅっと風を切る音を立て、しなやかにしなった鞭の先は、紘行の臀部(でんぶ)で鈍い音をあげた。 「うわあっ! いっ、痛いっ! 何すんだよ!」  ぶたれた紘行が尻を押さえ、カオルを(にら)みつける。 「馬の尻尾を生やしてるんだろ、ヒロくん。鞭を使って何が悪いの?」  そう言い放ったカオルは、今度はアキラに鞭を振りおろした。 「バチンッ」と痛々しい音が部屋に反響する。 「さっさとしないからだよ、二人とも。ほら、アキラ、ぶたれて興奮しただろ? 早く始めて」  カオルは手にした鞭をブンブン鳴らしながら宙を切る。  そんなカオルの表情に邪悪なものを感じた真希人は、身が(すく)みそうになった。 「はい……分かりました。カオルさん」  尻に赤い鞭跡(むちあと)をつけたアキラは、しゃがんで紘行の腰に(すが)りついた。  口を大きく開け、太く長い男根の先端を含む。  いくら口をあけても大きすぎて頬張(ほおば)ることはできないのに、アキラは懸命に奉仕していた。 (あんなに必死になって……そんなにヒロに抱かれたいのか? ヒロの巨根って……男のチ○コを尻に挿れられるのって……そんなにいいんだろうか……?)  問うまでもない。  答えは、尻にローターを埋め込まれた自分が一番よく知っている。  真希人は複雑な気持ちで、そして(なか)恍惚(こうこつ)としながら、フェラチオをするアキラと、されている紘行を見つめる。  眼を()らすことも、身体を動かすこともできなかった。  紘行に自分の局部を舐められ、さらに自分も彼のモノを舐めている……なぜか、そんな妄想が頭の中に入り込んでくる。 「アキラさん……そんなに、俺のが欲しいの? ぶち込んで欲しいわけ?」  自分の屹立(きつりつ)を舐めさせながら、紘行が()いた。  男と遊び慣れた人間が口にするような台詞(せりふ)に、真希人は耳を疑う。 「……ほ、欲しいよ。欲しい! ちょうだい! ヒロくんのでっかいの、()れて! ぶち込んで!」  アキラは頬張(ほおば)っていた紘行のモノを吐き出すと、(あえ)ぎながら言った。 「また、昨日みたいに……昨日みたいに、アナル子宮イキが、したい。もう一回、イカせて……お願い……」  紘行を見あげるアキラは涙眼(なみだめ)になっている。 「じゃあ、俺に尻を向けて、床に這って」  紘行の要求にアキラは顔を紅潮(こうちょう)させ、身体の向きを変えて四つん這いになった。  背後に膝をついた紘行は、彼の尻肉をつかんで左右に押し開く。 「()れるよ」  ずぷっ、と太い肉棒の先端が沈む。 「ひいっ」  悲鳴とも歓喜ともとれる叫びを、アキラが漏らす。  拡がりきった肛門の(ひだ)に巨大なペニスが難なく沈んでいくのを、真希人は信じられない思いで見つめた。  いったい、アキラの肉体はどこまで柔軟にできているのだろう? さっきの自分との行為で、ある程度はほぐれていたとしても、あの大きさのモノをすんなり呑み込むなんて――。 「ううっ! うあっ……あっ、あああっ……!」  アキラの喘ぐ声が聞こえる。  腹の奥がじんじんと疼くのを感じながら、真希人は、いかにも同性を抱き慣れた様子で腰を使う紘行に強い違和感を覚えた。 (ヒロって、やっぱり慣れてる……男と寝たことがあるんだ、きっと。それも、一度や二度じゃない、何回も……)  確信した真希人は唇を噛んだ。  どす黒い感情と性への好奇心に代わる代わる蹂躙(じゅうりん)され、吐き気がしてくる。 「んんっ……んあああっ!」  紘行に突きあげられたアキラの身体が(はず)んだ。  アキラのペニスははち切れんばかりに膨らんでいて、四つん這いになっていても下腹にくっつきそうなほどに硬く反り返っていた。  そのペニスが、後ろから紘行に突かれるたびにゆさゆさと揺れる。 「……うあっ、す、すごい……すごく、おっきい……お、奥まで当たる……! ねえ、乳首……乳首も(いじ)って……!」  たちまち紘行が右手を伸ばし、指先でアキラの胸の突起をつまんだ。  丸く尖った肉芽(にくが)をこりこりと転がす。  左手はアキラの腰骨をつかみ、自分のほうへと引きつける。 「ああっ……いっ、いいっ……! そこ、もっと! それ……好きぃ!」  極まったアキラの声に、真希人の股間が反応した。  それを見たタケルが、吐息のような笑いを漏らす。 「ふふ……すごいでしょう、アキラって。ここまでになると、完全なセックスマシンだと思わない? どんなオチ○チンでもすぐに挿入できる……男に犯されるためにある身体よね」  嬌声をあげながら狂ったようによがるアキラを見ていると、まともではいられなかった。  真希人のペニスにはさらに血液が流れ込み、激しく膨張する。 「……誰が……誰が、アキラさんをあんな……あんな風にしたんだ? まさか、あなたが……?」  タケルはそれには答えず、真希人の股間を見おろした。 「すっかり大きくなってるじゃない、マキト。ねえ……ほんとはあなたも、アキラみたいになりたいんじゃなくて? お尻を刺激されるのって、想像してた以上に気持ちいいでしょう? その気になって開発すれば、もっともっといい思いができる……生きる世界そのものが変わるのよ。女の子なんて眼中(がんちゅう)になくなるわ」 「……でも、おれは……おれたちは、こんなことをするために、ここに来たんじゃない……」  真希人は反論した。  そうだ。  男とセックスするつもりなんて、これっぽっちもなかったのだ。セレブな美女たちのエスコート役をするはずだったのに――。 「……あっ、あっ、ああっ! も、イクッ! イッ……いいっ! そこっ、もっと突いて! (えぐ)って! あっ、ああん……っ!」  あられもない嬌声が部屋中に響く。  アキラの腰をつかんだ紘行が、抽挿(ちゅうそう)のスピードをあげていた。  ぴしゃぴしゃと肌がぶつかるリズミカルな音がして、臀部に出入りする凶器が見え隠れする。 「はっ、はぐうっ……んぐっ、ぐうう……!」  押し殺したアキラの喘ぎは、激しく杭を突き立てられるたびにうわずり、甘い吐息が混じった。  柔軟に開いた後孔は凄まじい質量の雄芯を付け根まで咥え込み、抜き差しするたびに、ぬちゃぬちゃと淫猥(いんわい)な音を立てる。  獣が喘ぐようなよがり声と、眼の前で繰り広げられる陵辱(りょうじょく)まがいの光景に、真希人の性器はさらにいきり立った。  股間が熱く(たぎ)るのは男の本能だ。仕方ない――真希人は自分に言い聞かせ、淫らな交わりに沈み込んでいく紘行とアキラの姿を、なす(すべ)もなく凝視(ぎょうし)した。  じっと見つめていると、まるで自分自身が紘行に秘孔を貫かれ、(えぐ)られ、突きあげられ、身体を揺さぶられているような気分になる。  あまりの倒錯(とうさく)に、真希人の意識は次第に混乱していく。 「ああっ! すごいよぉ! イッ、イクッ、イクうっ! 助けてっ! イっちゃううう!」  半ば白眼(しろめ)をむいたアキラが、身体を細かく痙攣(けいれん)させながら絶頂を極めた。  吐き出されたアキラの、白い蜜が床を汚していくのを見た真希人の胸に、()(くさ)い炎が(ひろ)がっていく。 (なんだ? 何なんだ? この感覚……)  どこかで何度か味わったことのある、覚えのある感覚だった。  欲しくてたまらないものが、決して自分の手には入らないと分かったときの――。  その欲しくてたまらないけれど手に入らないものを易々(やすやす)と所有し、当たり前のように持っている人間を見たときの――。  紘行がアキラを抱いていることも、アキラが狂ったような声をあげて(こた)えていることにも、どちらに対しても同じように、心をズタズタにされるような哀しく切ない感覚がある。 (これって……まさか……嫉妬……?)  胸を焦がす炎の正体に思い当たった真希人は、愕然(がくぜん)とした。 (おれも、感じたい……おれもヒロに抱かれて、あんな風にめちゃくちゃにされたいのか……?)  いったん心の奥に沈んでいた本心に気付いてしまったら、元の場所には戻れないということくらい、真希人にだって分かる。  もう二度と、ただの幼なじみ、ただの親友として紘行を見ることはできない。 「どう? マキト。きみもアキラと同じこと、ヒロくんにされたいんじゃない?」  まるでこちらの心を見透かしたように、タケルが耳元で囁く。 「あなたたちはまだ若いもの、時間はたっぷりあるわ。(あせ)らないことよ。お楽しみは、後にとっておくほうがいいときもあるのだから……」  真希人は声を出すこともできずに、呆然とタケルを見つめ返した。

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