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第25話
西日に染まった砂浜に隼人は寝そべった。
「はぁ〜、疲れた〜」
その横に旭葵も腰を下ろす。
「でもさすが呑み込みが早いな」
「それはサンクスです」
「トライアスロンやってんの?」
隼人は首だけ旭葵に向けた。
「やってるよ、なんで分かったの?」
「泳ぎ方がそうだったから」
「へえ〜、もしかして旭葵もトライアスロンやるとか?」
「いや、俺じゃなくて、い……、友だちがやってたから」
「俺、去年の全国高等学校トライアスロン大会で優勝したんだ」
「まじで?」
「すごいだろ?」
「うん、すごい」
「今年もまた出るからさ、ぜひ応援に来てほしいな」
「えっ、あ、ああ、うん……」
一生がトライアスロンを止めてから、旭葵はトライアスロンを見なくなった。それまでは一生がレースに出ていなくても、テレビなんかでやっているのを見れば、それなりに楽しめたが、一生がやめてしまってからは、それもつまらなく感じるようになった。
けど、誰か知ってる人が出てたら、また楽しいと思えるのかな。
旭葵は落ちていた白い貝殻を拾うと、海に向かって投げた。
「ねぇ旭葵、君に妹とかお姉さんとかいたりする?」
半乾きの隼人の髪が海風に揺れる。
「俺、一人っ子」
そっけない返事が返ってくる。
「そか」
自分が一目惚れした少女に似てるなどと言ったら、この数時間の努力が台無しになる。隼人はそれ以上は何も言わず、西日を浴びる旭葵の横顔を見つめた。
成長したあの少女もこんなふうに綺麗になってるんだろうな。
隼人は旭葵の中に再び少年の日の思い出を重ねた。
一生は海風に負けないよう自転車のペダルを強く踏んだ。
学校帰りに旭葵のお婆さんに会った。旭葵は町の薬局にお婆さんの薬をもらいに行ってからまだ帰ってこないと言う。お婆さんはてっきり一生と一緒だと思っていたようだった。
南米音楽研究部は今日は自由参加の日で、旭葵は町へ行く用事もあって、一生と下校は別々だった。
お婆さんは、また旭葵がどこかで喧嘩でもしてるんじゃないかと心配しているようだったので、一生はそれだったら自分が見てきてあげますよ、と自転車でバス停の方に来てみたのだった。
すでに夕日が水平線に半分ほど潜っている。風に乗って笑い声が聞こえてきた。一生はすぐにそれが旭葵の声だと分かった。
砂浜に旭葵とその横に水着姿の男がいた。遠くからでも二人の楽しげな雰囲気が伝わってきた。
「誰だ、あの男」
一生はしばらく2人を見ていたが、くるりと自転車の向きを変えると元来た道を戻った。
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