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第1話転機

 ひとの人生が大きく変わる瞬間は多分そう多くない。 僕で言えば、買い物途中に今の事務所社長から声を掛けられて、アイドルを目指さないかと誘われたこと。   当時高校生だった僕は、アイドルになれば 当時推していた美少女アイドル、ハニイちゃんと会えたりするかな?と不純な動機で承諾した。 それから、未経験の歌やダンスをがむしゃらに練習して、小さな事務所からアイドルデビューした。 憧れのハニィちゃんとは会えず仕舞いだったけど、キラキラした眼差しで僕を見つめるファンの前で踊ったり歌ったりするのが純粋に楽しいと感じるようになった。 この笑顔と声援の為ならば、きついレッスンや食事制限にも耐えられたし。 大きなステージに立てるなら もっと努力したいと思えた。 有難いことに、2ndシングルがヒットして そこそこ売れっ子になった僕らのグループ Neo(ネオ)。 メンバーと一緒に、出来るだけ長くステージに立ちたい。 華々しい芸能界での活躍を本気で夢見始めた頃。  事務所の社長から収録終わりになぜか、1人呼び出された。 「なぁ?蒼(アオ)。 お前、誰でも良いから Neoのメンバーと付き合ってくれ。 もちろん、恋愛的な意味で。」 「え?」 まともじゃないことを 至って真剣に話す社長の目は 本気。 「頼むっ!!会社の命運は お前に掛かってるんだ!!」 「……そんなこと急に言われても困りますよ。僕がメンバーと付き合うのと、会社の命運と何の関係が?」 「世の中が求めてるのは 美少年同士のブロマンスなんだよ! 売れてるアイドルにブロマンスは必須要件なのに、Neoに足りないのはそこだ!」 「は、はぁ……」 「蒼、お前が1番可愛いから 一か八か、試してみてくれ!」 「ちょっと、意味がわかりません。」 土下座する社長を冷ややかな目で 見下ろしていたが 「もし、成功したら 事務所のコネで特別に ハニィちゃんの 連絡先教えてやる!!」 「ま、まじっ!?」 「ハニィちゃんの事務所の社長とは 大学の同期だからな! 働きによっては、打ち上げと称した 飲み会なんかもセッティングして…」 「社長、一生ついて行きます!! やらせてください!!」 中学生の頃から憧れていたアイドル ハニィちゃんの魅力に釣られて 社長の申し出を受け入れた瞬間から 僕の運命はまた 大きく変わってしまったんだと思う。

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