若手アイドルグループは、吐いて捨てるほどいる。周りを見渡せば大手事務所から新しいグループがどんどんデビューしてくるし、僕達のグループも出だしは好調とは言え、爆発的なヒットとは言えず。 社長も新しいコンセプトを押さなければと焦ったんだろう。 僕がメンバーとブロマンス？ 社長が言うよう、アイドルにブロマンス要素を期待するファンは多い。圧倒的話題性もある。 だけど、正直僕は……女の子が好きな普通の男だし。 メンバー達だって、そうだ。 いくら僕の顔が、メンバーの中で1番女顔だからって。 そう上手く進むだろうか？ 鏡に映る僕を見る。 確かに、グループの中では1番チビだ。 ……肩幅もない。 栗色の髪と同じ色の瞳。 色素が薄いのは、イギリス人のお爺様譲り。 ぽってりした厚めの赤い唇。 病的に白い肌。 男らしくは、ないよな。 ファンはこんな僕の容姿を綺麗だと言ってくれるけど。 他のメンバーに比べれば…劣るだろう。 ……物は試し。上手くいかなければ社長も直ぐに諦めるはず。 ……出来るだけ、やってみるか。 上手くいかなくても、何とかハニィちゃんの連絡先だけはゲットしたい。 　こうして、僕だけが社長から任命された極秘ミッションを遂行することになった。 社長に言われたのは、思っていたよりも簡単なこと。 ①カメラが回ってる時は、出来るだけメンバーとスキンシップを取ること。 ②インタビューでは、あたかもメンバーの中に好きな人が居るかのように思わせぶりな発言をすること。 ③他のメンバー同士が仲良くしてる時は、ヤキモチを妬いているかのような素振りをすること。(あからさまでなく、あくまでも自然に) ④メンバーに、ミッションのことは秘密にすること。(ヤラセに見えないように配慮する。) 元々、演技は得意な方だ。 メンバーとも仲が良い。 問題は、相手を誰にするか？ってことなんだけど。 これに関して、迷いはなかった。 狙うなら、1番話題になる相手。 「玲(れい)！」 「わ！？どうしたんですか？蒼くん？」 「リハ疲れたから 楽屋まで抱っこしてー？」 「し、仕方ないですね！//」 「わーい！れい大好き！」 「最近甘えんぼですね、蒼くん。」 「……僕に甘えられるの、やだ？」 「い、嫌じゃないですよ！？ ……嬉しい、です。」 「んふ、良かったぁ。」 後ろから、玲の広い背中に飛びついて ぎゅうっと抱き付く。 僕をおんぶしながら、玲は少しだけ恥ずかしそうに笑った。 ……ふわふわ揺れる、緩くパーマがかった黒髪。 白い肌に、薄くて形の良い唇。 くっきりした二重に、黒目がちの大きな瞳。 どの角度から見ても、イケメン。 尚且つ背も高ければ手足も長い。 細身でモデルみたいな体型だけど 脱げば腹筋はバキバキに割れてるし 胸板も厚い。 男の僕でも……ドキドキするくらい セクシーな身体をしてる。 蘇芳未玲(すおう みれい) Neoのセンターで1番人気のメンバーだ。 メンバーの中では1番歳下だけど、性格は穏やかで優しいし 歌もダンスも完璧。喋りも上手い。 ファン思いで練習を怠らない努力家だ。 僕が女の子だったら、絶対に未玲のファンになる。 もしも、メンバーと どうにかなるとするなら。 「れい、良い匂いー。」 「くすぐったいですよ！」 「照れてんの？かわいい。」 「もう、アオくん！？」 ……玲みたいな、素直で可愛い子なら いける気がする。 という訳で、僕は事あるごとに ……玲を捕まえてはいちゃついてる。 ネットではそんな僕らが話題になって 「Neoのレイとアオ、熱愛か！？」 なんて話題になって ブロマンス好きのファンをまんまと取り込み クラブの会員数も急拡大。 話題性も抜群で、僕らのイチャイチャを見たいが為に、バラエティー番組の出演も何本か決まった。 社長は大喜びで、「アオ、良くやった！！」と泣いて喜んでくれてる。 こりゃ、ハニィちゃんとの飲み会も近いか？なんて浮かれる毎日。 ブロマンスがこんなに喜ばれるなら、もっと過激なこともやっちゃおうかな？ 最初の頃は、玲が嫌がるかと心配したけど。 「蒼くん、差し入れのドーナツ食べる？」 「食べるー、あーん？」 「あーん！」 ……満更でもなさそうだし。 むしろ近頃じゃ 「ふふ、口にクリーム付いてるよ？」 「んっ、どこ？」 「ここっ！」 「！」 くいっ、と僕の腕を引くと 口端に付いたクリームを 赤い舌でペロリと舐めとる。 驚いて、目をパチクリと瞬くと 玲はクスッと微笑んだ。 「も、もぉー、れい！ びっくりしたじゃん！」 「……赤くなって、可愛い。」 「年上を揶揄うなよっ！」 「揶揄ってないですよぉ、本気です。」 本気で。 「……蒼くんの方が甘くて 美味しそう。 ……食べたいな。」 「！？」 いつ、食べさせてくれる？ 「ちょっ……れい？」 「ねぇ……蒼くん。 今日の収録終わったら一緒に帰れる？」 「当然だろ？同じ宿舎なんだから。」 「……そうじゃなくて。」 楽屋のソファーで、グッと僕の方に身を寄せながら耳元に囁く。 「2人きりになりたい。」 「！」 玲の吐息混じりの低めの声に、ゾクゾクした。 ……ファンなら卒倒してるだろうな。 「……少しなら、時間取るけど。」 「やったぁ！収録頑張りますね！」 「う、うん。」 整った顔立ちで子供みたいに 無邪気に笑うから ドキドキしてしまう。 ……こんな感じで、玲は嫌がるどころか 玲の方から距離を詰めてくる。 最近じゃ、予想より玲が積極的だから ……戸惑うことも多いんだ。