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第28話 本当の顔★

 祐輔が自宅に帰ってくると、案の定、蓮香は祐輔の部屋で待っていた。 「……断りましたよね?」  お帰りの挨拶もなしに聞いてくる蓮香がかわいくて、手を伸ばして頭を撫でる。 「今俺の恋人は誰だよ?」  祐輔は足を進めてリビングに入ると、蓮香は長い足で付いてきた。大型犬よろしくスーツを脱いで片付ける祐輔に、離れないよう付いてくる。 「それにしても蓮香。お前あの場で俺が恋人だと言うつもりじゃなかっただろうな?」  そう言って祐輔は彼を睨むと、彼は分かりやすく言葉を詰まらせた。やっぱり、とため息をつくと、蓮香はシュンと肩を落とす。  祐輔は、蓮香と付き合っていることを、公にしたくないと思っていた。一応会社ではひとの上に立つ身だ、自分のプライベートなことで部下を混乱させたくない。  しかも、私生活では部下に組み敷かれていることなど、知られるのは絶対に嫌だ。  一方蓮香は、祐輔に憧れていることを隠していない。徐々に社内でそれが広まりつつあるけれど、それが恋愛感情も含まれているなんて、誰が思うだろうか。……鶴田は気付いているかもしれないけれど。 「すみません……」 「ん。気持ちは分からなくもないけどな」  そう言うと、蓮香は抱きついてきた。祐輔は胸に頬を当てると彼の心音が穏やかに脈打っていて、とても安心する。 「祐輔さんのそういうところ、好きです」  否定しないで聞いてくれるところ、好きです、と改めて言われ、祐輔は蓮香の口付けを受け入れた。  蓮香は祐輔の頭ひとつ分背が高いので、立ったままキスをしようとすると、祐輔の首が疲れてしまう。ひとつキスをして彼の頬を撫でると、蓮香の表情に欲情が乗ってしまった。祐輔は慌てて離れると、風呂に入る、と浴室に向かう。  つくづく、自分たちの関係は身体から始まったな、と思った。  やはり身体の相性はいいのだ、だからこそ、身体ばかりではなく、そのほかの部分でもきちんと付き合いたい。 「祐輔さん」  蓮香が脱衣所まで付いてきた。彼も一緒に入ろうとするので、祐輔は釘を刺しておく。 「一緒に入ってもいいけど、しないからな」 「分かりました。祐輔さんが煽らない限り、こちらからは手を出しません」  そう言って笑う蓮香。本当かな、と思いつつ、浴室に入った。 ◇◇ 「結局、こうなるのかよ……っ」  祐輔は壁に手を付いて、後ろの蓮香を睨む。  既に祐輔の後ろには蓮香の熱が入っていて、胸を泡が付いた手で擦られ背中を震わせた。 「煽る祐輔さんが悪いです」 「んなこと言ったって、お前がいやらしい手つきで泡を付けるから……!」  蓮香が洗ってあげますと言った時点で、断ればよかったのだ。泡でヌルヌルと全身を撫でられ、執拗に胸周辺や尻や鼠径部を撫でられたら、勃ってしまう。それを煽ったと蓮香は言い張り、半勃ちだった祐輔を泡でヌルヌルにされ、後ろに蓮香の怒張を挿れられたのだ。  しかし、ピッタリと背中にくっついた蓮香は動くことなく、泡が付いた手で胸を擦ってくるだけ。しかも、蓮香は祐輔に決定的な刺激を与えることなく、祐輔は悶える。 「は、蓮香……っ、いい加減に……」  祐輔は声を上げると、蓮香は祐輔の腰を掴み、怒張を奥まで挿れたまま、グリグリと腰を動かした。途端に背中をそらした祐輔は視界が霞みかけたが、身体が高みへ昇ったまま昇天することも落ち着くこともできず、甘い声を上げてしまう。 「祐輔さん、分かってますか? これはおしおきです」  後ろで楽しそうな声がして、祐輔は肩を震わせた。この様子じゃ絶対わざとだ、と思うものの、蓮香の切っ先が祐輔の中に当たって、反論することができない。 「ほら、一人で気持ちよくならないでくださいよ」 「ん……っ、だ、……って」  膝が震え始めた。胸がジンジンして、もっと触って欲しいと思う。もっと触れて、蓮香の手で気持ちよくして欲しい。  絶頂はすぐそこまで来ているのに、イケないもどかしさ。祐輔は掠れた声を上げた。 「貴徳、お願いだ……っ、イカせてくれ……っ」 「……ああもう、かわいくてエロい祐輔さんサイコー……」 「あっ、……ああっ、イク、いくいくいく……っ!」  蓮香の熱の篭った声がしたと思ったら、望み通り胸の突起を爪で弾かれて、祐輔は腰をガクガク震わせる。視界と頭が真っ白になり、詰めていた息を吐き出すと、休む間もなく蓮香は動き出した。 「あ、あ、……貴徳っ、だめやばい……、気持ちいい……っ」  祐輔もまた、間髪入れずに意識が遠のき、すぐに高みへ昇っていく。甘く重く溜まっていく下半身の痺れは、身体の中で全身に快感として広がっていった。 「……動画の祐輔さんもかわいかったけど、……おしりで感じちゃってる祐輔さん……堪んない……っ」 「……──ぁあ!!」  ビュッ、と祐輔の先端から白濁した体液が飛び出す。触れられずに後ろの刺激だけで射精してしまったのは初めてで、その事実にすら身体が震えた。 「ダメだっ、……貴徳! またくる! んああ……っ!」  こんなに乱れた姿を、世間は見たらどう思うだろう? 会社のひとに知られたら? みんな冷たい目で自分を見るのだろうか?  そんなことを思ったら涙腺が崩壊した。今まで築き上げてきたものを、一瞬で崩されるなんて嫌だ。こんな姿はここだけ……貴徳だけが知っていればいい。 「貴徳っ、もっと……もっと突いてっ、おしり……おしり気持ちいいっ!」  祐輔はもう理性を放り投げ、赴くままに叫んだ。蓮香が息を弾ませながらフッと笑って、祐輔の腰を持って強く打ち付けてくる。 「あ、あ、あああ!!」  もはや絶叫と言わんばかりの声を上げ、祐輔は太腿をガクガク震わせながら絶頂した。視界がぐらつき膝から力が抜けると、蓮香の怒張も抜けてしまう。 「……っと」  蓮香が抱き留めてくれて倒れるのは免れたが、祐輔は全身の震えが止まらず、自分が酷い興奮状態にあるのは明らかだった。 「やりすぎました……」  蓮香は涙と涎でぐちゃぐちゃの祐輔の顔を見て、眉を下げて謝ってくる。顔にかかった髪を退かされただけでもビクッと震えてしまい、蓮香はますますバツの悪そうな顔をした。  とりあえず、祐輔は立っていられないので床に二人で座ると、蓮香はお湯をかけて泡を流してくれる。  しかし祐輔は蓮香に反省して欲しくなかった。なぜなら、自分の欲に従って全てを解放した瞬間、感じたことの無い快感が祐輔を襲ったからだ。  それは、身体的な快感ではなく精神的な快感。それを蓮香も受け入れてくれたという悦び。本来の自分は淫乱で性に貪欲で、ひとの上に立つほどの人間ではない、と奥底にしまっていた感情が一気に出てきた。 「蓮香……引いてないか?」  こんな変態で、と呟くと蓮香はああ、と感嘆の声を上げて抱きついてくる。 「引いてません。そもそも、俺は一人で乳首をいじって絶頂してる祐輔さんに惚れたんですから」  かわいい、と言われ、祐輔は熱くなった目頭を誤魔化すために蓮香を抱きしめ返し、深いキスをした。

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