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起(1)

「う、うぅ………!!!あんなやろーーーによぉ……負けるなんてよぉ………」 「ビー助ちゃん、もうお酒辞めなよォ」 「うるへぇ!!おれは…おれはこの街でとっぷに立つんだよお!」 炭火焼肉の濃い煙の充満する居酒屋。 タチ俳優のビー助はべろべろに酔っ払っていた。 テーブルのうえには酒の空きグラスがいくつも並んでいる。 ビー助(26)独身、彼氏なし。 某・AV制作会社に所属する、売れっ子タチ男優である。 身長175cm、痩せ型、ふわふわの茶髪。 すこしおバカだけれど愛嬌の良さで色々なことをなんとか乗り切っている、幸の薄いゲイである。 おしゃべりの相手をしているのは、アナスタシア・ユル子。 ビー助のゲイバー勤務時代からの友人だ。 193cm100kg超えの巨漢、黒髪短髪、赤リップ、フェイクジュエリーの大粒イヤリング。 派手好きで、一年中クリスマスツリーのような外見をしたオネェである。 「このおれが2位なんて…!うぅぅ、ありえねえよぉ!!ひっく…」 「ハイハイよしよし…」 「スミマセーン!ナマ追加!あと特上肉盛り!あとからあげと〜、イカ刺し!」 ビー助がヤケ酒・ヤケ焼肉をしている理由。 それは先日サイトで行われたAV男優の人気投票で一位を取れず、二位になってしまったからである。 一位になれば賞金十万獲得、そしてその後の作品のギャラ単価が跳ね上がり、年収アップ。 雑誌での企画記事、セクシーグッズのタイアップも狙える、おいしい肩書きだったのに… 二位となったビー助には賞金五万円が支給されたが、ビー助は「こんなはした金!使い切ってやるぜぁ!」とジーンズのポケットにくしゃくしゃに突っ込み、こうして二時間近く焼肉居酒屋に居座っている。 「きっと不正順位操作だ…きっとそうだ!」 「憶測やめなよぉ…」 「せっかく表獲得狙ってtuwitteeこまめに更新しまくったのに…すげーめんどくさくてもがんばって自撮りとか、筋トレ画像も載せたのに…!」 「あんたがやり方下手くそなのよ〜!セルフィは真っ暗で何も見えないし。それにダンベル代わりの500mlペットボトルだけ撮ったってぜんぜん映えないのよ!」 元々SNSはやらない主義のビー助である。 学生時代も友人らにmexxii(メクシー)やgeree(ゲリー)を幾度も勧められたが、それらすべてを『めんどくさい』の一言で切ってきた漢だ。 それが、最近会社に言われてtuwittee(ツイッテー)を始めたのだが、当初は使い方がわからず、プロフ編集画面をツイッテ画面だと勘違いしていた。 「一日一チンコ」「うめぼし」と謎投稿を繰り返すビー助の公式個人SNSはファンの間で話題となり『今日の格言』として親しまれていたことは、本人は知らない。 「見てよこのメニュー!チン食べ比べだってぇ!がははは!」 「ビー助ちゃん、タン食べ比べよ…」 時刻は深夜。 都内のど真ん中とはいえ、テッペンを過ぎると終電が気になってくる。 管を巻く酔っ払いほど面倒なものはない。 「ねえビー助ちゃん。もう帰りましょうよ」 「やだ!ユル子〜おれの話きいてよ〜!だから人気投票でさぁ〜」 ユル子も付き合いが長いとはいえ、延々と同じことを繰り返すビー助に飽きてきた。 そろそろ殴って気絶させて無理やりタクシーに押し込もうかと思った、その時。 「あの、すみません…」 黒縁眼鏡の優男ふうの男が、話しかけてきた。

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