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「あの、すみません…」
「んぁ〜…?」
「失礼ながら、ビー助さんでいらっしゃいますか?」
黒縁眼鏡をくいっと引き上げて話しかけてくる男。
こんな時間にも関わらず上までしっかりとネクタイを締め、いかにも勤勉そうなナリをしている。
「そうだけど…って、もしかしてアンタ!?」
ビー助は目を見開いた。
アルコールで視力がかすんでいるが、話しかけてきたのは見間違えようもなく…
ビー助がこうしてヤケ酒、ヤケ食いをすることになった元凶…
AV制作会社ファン人気投票で一位の栄誉に輝いた、栄治郎(28)であった。
「おまっ……栄治郎!?なんでこんなとこに!」
「なぜと訊かれましても…焼肉を…」
「焼肉ゥ?あぁ?てめえまさか俺様のあとをつけてきたんだろ!」
「はい?」
「AV男優ランキングで一位になったからって!いい気になりやがってよお!」
「…かなり酔ってますね?」
「おうよ酔っ払ってらぁ!それもこれもぜーんぶてめえのせいよ!ナンバーワンセクシー男優さんよオ!」
「ちょっと…場所を弁えてください。声が大きいですよ」
「ビー助ちゃん!やめなさいよ」
吠えるビー助に、諌める栄治郎。
終電間近の焼肉居酒屋で男がAVだのセクシーだの言いながら喧嘩腰になっているのだ。
客や店員らが、なんだなんだとこちらを見てくる。
見かねた穴スタシア・ユル子がビー助を座らせようと腕を引っ張るが、頭に血が上ったビー助は言うことを聞かない。
栄治郎はすらっとした長身を猫背に丸め、すみません、なんでもありませんから…と温和な顔で周囲に頭を下げた。
「てめえ!こっち見やがれ!」
「もうビー助ちゃんってば!」
「…ここじゃ何なので、外に出ましょうか」
「おぉ良いぜ!勝負するか?ユル子さきに帰ってろ!」
「えっでも、ビー助ちゃん…!」
「いいから!おれはこいつとたっぷり話し合わなきゃいけねえんだ」
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