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第1話 プロローグ1
「悪霊退散! 悪霊退散!」
俺は、辺りに塩をばら撒きながら気合を入れて、繰り返し言った。
「きえぇーぃ!」
そう大きな声を出すと、俺は真顔で合掌して後ろを振り返る。
振り返ってみれば、スーツ姿の偉そうな人間、数人が俺を複雑そうな顔をして見ていた。
ここは、とある会社の社長室だ。
俺は、依頼を受けて、この社長室に出るという幽霊の除霊をしていた。
「これで除霊は終わりです」
俺がそう告げると、頭の禿げあがった男が俺に縋りついてくる。
その男は、高い声を出してこう言った。
「あの、本当にこれで社長室にいる時、突然頭痛にさいなまれたり、会社の階段から滑ったり、エレベーターに挟まれたり、普段はハイヤーなのにたまたま電車に乗ったら痴漢に間違われたり、という事は起きなくなるんでしょうか?」
俺は、業務用の笑顔を作って答える。
「大丈夫ですよ、社長。もう社長におかしなことが起こる心配はありません。社長に憑りついていた前社長の霊は私が完璧に除霊しましたから」
「ありがとうございます。これで安心して仕事が出来るというものですわい」
頭の禿げあがった男……もとい、社長は、ガハハハッと笑うと、汗ばんだ手で俺の手を握る。
後で手を洗わねばなるまい。
「所で社長。謝礼の方なのですが」
俺が控えめな風にそう言うと、社長は、「そうでしたな、おい!」と手を叩いた。
すると、眼鏡を掛けたインテリ風な男が俺の方へ来て、厚い茶封筒を俺に渡す。
俺は、断って中身を確認した。
つい、口笛が出そうな金が中に詰まっている。
「こんなにいいんですか?」
俺が訊くと、社長は笑いながら「足りなかったらおっしゃって下さい」と言う。
「いえ、十分ですよ。ありがとうございます。では、私はこれで失礼させて頂きます」
「さようですか。おい、秋山、拝み屋さんを玄関までお送りしろ!」
社長が偉そうにそう言う。
送りなんてこっちが気を使うだけだ。
勘弁して欲しい。
「社長、それには及びませんよ。一人で戻れますので」
俺は丁重にお断りする。
しかし。
「そうはいきませんわ。本当は私がお送りしたいんですが、これから会議がありましてな。ですので、秘書の秋山に玄関まで送らせますわ。秋山、頼むわ」
社長の命令に、さっき俺に金を渡してくれた男が「はい」と答える。
秘書は会議に出席しなくていいのかよと思うのは俺だけだろうか?
そう言えば、この秋山という男、終始うさん臭そうに俺を見ていた。
俺としてはそんな相手に送られるのは勘弁中の勘弁なのだが、もう仕方ない。
俺は秋山を引き連れて社長室を出た。
長い廊下を歩いて、エレベーターに乗り込むと、ずっと黙っていた秋山が口を開いた。
「あの、今回の除霊の件なのですが。あなたの霊視によると、前社長の霊が社長に憑りついている、という事でしたが、本当でしょうか?」
「それは、どういう意味ですか?」
「前社長は大変穏やかな方で。社長の事も突然亡くなるまで随分と可愛がっていらしたので。前社長が社長に憑りついていると聞いて、どうも腑に落ちないというか」
秋山は眼鏡を人差し指で押し上げる。
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