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第2話 プロローグ2
眼鏡の奥の秋山の目は厳しく光り、完璧に俺を疑っている目をしている。
俺は穏やかな笑みを浮かべて「私の霊視ではそのように見えましたが……しかし」と言った。
「しかし?」
秋山の表情が一瞬変わる。
これは得たりだ。
「ええ、もしかしたら、前社長は何か心残りがあるのかも知れませんねぇ」
意味深そうな顔をして俺は言う。
「心残りですか?」
秋山は俺の目をしっかりと見ている。
話に興味を持って来たようだ。
「そうです、何か心当たりはありますか」
秋山は少し黙ってから、「そう言われたら、心当たりが……」と言う。
俺は心の中で舌を出す。
「そうですか。心当たりがおありなら、出来る事でしたら、社長と一緒にして差し上げると良いですよ。供養になりますから」
「はい。社長に話してみます」
そう言って秋山は頷いた。
ちょろいものだ。
エレベーターの扉が開く。
エレベーターを降り、玄関まで行くと、俺は、ありがとうございました、とお辞儀をしている秋山に背を向けて都会の街を歩きだす。
今日の仕事はやれやれだった。
最後に痛い腹を探られずに済んだ。
俺は拝み屋として仕事をしている、が、俺には霊能力なんてものは無い。
霊なんか、生まれて二十三年、見た事も聞いたことも無い。
そう、俺はインチキ霊能者だ。
二十一歳のころからこの商売を始めて今年で三年目。
何をしても長続きしない性格の俺が唯一続けられた仕事がこの拝み屋の仕事だった。
初めはアルバイトで同業者のアシスタントをしていた。
そいつがまた、実に怪しかった。
霊感何てある様には全然見えないのだ。
アシスタントの俺から見ても、ただの口の上手い詐欺師だった。
それでも、そいつの所にお客はやって来て、そいつの怪しい霊感に頼り、怪しいお祓いや祈祷をして貰っては依頼料を支払っていく。
その様を見ていて、もしかしたら、俺にもできるかも、と、霊感も無いのに拝み屋を始めて見たら客がついたのだ。
騙しているとは思わない。
依頼人はほとんどが俺を有難がっている。
現に、リピーターもいるくらいだ。
しかし、舌先三寸だけで、自分でもよくやって来れたものだと思うが。
拭けば飛ぶようなこんな仕事でも、一人で生きて行くには、まぁまぁの稼ぎになる。
儲けた金で、俺は明日からマンション暮らしが叶うのだ。
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