12 / 62

第12話 一の怪10

 綺麗な女ならともかく、男の俺なんかとおしゃべり出来ても喜ぶ事は何もあるまい。  俺は、泣いている男の顔を複雑な気分で眺め、煙草をもみ消した。  そして、二本目の煙草に手を伸ばそうとして途端、あくびが出て止めた。  急な眠気が俺を襲う。  瞼を開けているのが辛い。  眠っているはずなのに眠たいなんて疲れる夢だ。 「なぁ、話の途中で悪いんだが、俺、そろそろ眠りたいんだけど。あんた、おれに特に用事がないなら消えてもらえないか」  あくびをしながら俺が言うと、優男は、「あ、そうですよね。こんな時間に付き合わせてしまって申し訳ありませんでした」と頭を下げた。 「いや、別にいいよ、ただの夢だし」 「え、夢? 何の話ですか?」 「こっちの話だよ。じゃあ、俺、寝るから」 「あ、はい、あっ、あの、君の名前、訊かせてもらっても良いですか」  優男が慌てた様子で言う。 「はぁ? 俺の名前? 片葉双一(カタハソウイチ)だけど」 「かたは……君ですか」 「ああ、片方の片に、葉っぱの葉で片葉。無双の双に数字の一で双一」  説明してやると、優男はああっ、と頷いた。 「分かりました。僕は……僕は、梧桐藤一郎(ゴトウトウイチロウ)です。木に五に口の梧に、きりで桐と読んで梧桐。藤に一郎で藤一郎です」 「ああ、はいはい、ゴトウさん、ね、分かったよ。じゃあ、おやすみ、ゴトウさん」 「はい、おやすみなさい片葉君。また朝に」  そう言うと、優男はすぅっと姿を消した。  また朝に、って何だよ。  まぁ、いいか、夢の話だ。  俺は布団に潜り込むと目を閉じた。  カーテンの隙間から差し込む日の光の眩しさで目が覚めた。  サイドボードに手を伸ばし、置いてあるスマートフォンを手に取って画面を見ると、もう時間は十三時を過ぎていた。  だいぶ眠ったが、体が酷くだるい。  まだ眠気が残っている。  まるで、夜更かしでもしたかのような感じだ。  昨日は帰りが遅かったし、酒も結構飲んだからか。  俺も歳だからなのか。  眠っても疲れが取れないのは辛い。  あくびを盛大にしながら、ベッドから抜け出すと、寝室を出た。  買い忘れたためにカーテンの取り付けが終わっていないリビングの大きな窓から、日差しが刺すように入り込んでいる。  眩しさで目を閉じる。  今日は外に予定は何も無い。  なので、部屋の片づけをして一日を過ごすことに決めていた。  このマンションの俺の部屋は2LDKになっている。  昨日、引っ越しをしたばかりでまだ手付かずだが、もう一つの部屋を仕事部屋にしようかと考えている。  仕事部屋と言っても、ただ、机と椅子とパソコンを置くだけのスペースだが、部屋を余らせておくより何かに使った方が良いだろう。  本当に、こんな広々とした部屋があんなに安い家賃で借りられたことに驚きである。  さてと、眠気の残る頭じゃ、何もできまい。  シャワーでも浴びて目を覚ますとするか。

ともだちにシェアしよう!