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第13話 一の怪11
体もなんか煙草臭いし。
リビングを出た廊下のすぐ横にある脱衣所に向かい、脱衣所の扉を開くと、脱ぎっぱなしの昨日の服が床に散らばっているのが目に入った。
脱いでそのままだったらしい。
床に散らばる服を拾い、洗濯機の中に放り込んでから、服を脱ぐ。
ヒヤリとした冷たい空気が素肌に当たって、俺は急いでバスルームの扉を開けてシャワーの蛇口を押した。
直ぐに熱いお湯が出る。
前のアパートの部屋のシャワーはお湯が出るまで随分と時間が掛かった。
だから、直ぐにお湯が出るのが有難い。
頭から熱いシャワーを浴びると目も冴えて来た。
それにしても、昨日は花凛の恋愛座談会に隣人の世話にと色々あった。
妙な夢まで見ちまって、全く。
「ふぅっ」
ため息を吐き出し、バスルームの壁に備え付けられている楕円形の鏡を見る。
湯気で曇った鏡を手で拭くと、鏡には疲れた俺の顔が映った。
それから、鏡は俺の後ろにいる眼鏡をかけた男の顔も映し出していた。
男は、薄く、ぼんやりと鏡に映っている。
「は?」
俺は鏡をよく見てみる。
確かに鏡に映っている。
眼鏡をかけた優男が。
勢いよく後ろを振り返る。
いる。
そいつはそこに、ぼんやりと漂っていた。
「うわっ、いきなり振り返らないで下さい!」
そいつは両手で自分の目を覆うと下を向いた。
「あんた、夢で見た……」
呆然とする俺。
呆然どころか開いた口が塞がらない。
「やっと気付いてくれましたね。あの、おはようございます……って、もう昼間ですね」
手で目を覆ったまま、そいつは言った。
夢で見た男、確か、名前はゴトウだったか。
「あんた、ど、どどどどっ、どうして!」
「どうしてって、何ですか?」
首を傾げるゴトウ。
「何であんたがいるんだよ! あれは夢のはずだろうが!」
ゴトウに人差し指を突き付けて俺は言う。
夢の中の登場人物が何で現実にいるんだ。
俺はまだ夢の中にいるのだろうか。
そうだ、そうに違いない。
これも夢だ。
「僕、また朝にって言ったじゃないですか。忘れたんですか。夢って何です?」
「俺の方は、また朝に何て言ってねーよ。夢は夢だ」
「は……はあ」
「おい、あんた、さっきから何ずっと手で目を隠してんだよ! あんたは純情可憐な女子高生か! そうされるとこっちが逆に恥ずかしいから、その手をどけろよ!」
「す、すみません。じ、じゃあ……」
ゴトウは手を顔から外したが、赤い顔をして視線を床に向けている。
「何赤くなってんだ! ったく、男に裸見られて赤面されるとか、何て夢だよ!」
「あっ、ああ。なるほど、片葉君、僕のこと、夢だと思っているんですね。無理もない事かも知れませんけど、これは現実ですよ」
顔を上げて、さらりとゴトウは言う。
何が現実か。
こんな現実あるか。
ゴトウは霊を名乗っている。
これが現実なら霊の存在を認める事になる。
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