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第14話 一の怪12

 霊なんて、極めて非現実的だ。  霊なんてサンタクロースと同等の存在。  二十三年間生きてきたが、霊もサンタクロースも、そんなもの拝んだ試しは一度たりとも無い。  これからの人生でも同じだ。 「あるわけねーだろ。霊なんて、いるわけねぇよ」 「そう言われても、いるものは仕方ないですよ。あの、そんな事よりも、片葉君、前の話の続きがしたいんですけど」 「前の話って何だよ」 「えっ、忘れちゃったんです? 僕の成仏に協力してくれるって話ですよ」 「そんなの夢の話だぜ」 「だから、夢じゃないですって。参ったな」  困った顔をしてゴトウが俺を見る。  困っているのは俺の方だっての。  俺はとりあえず、勢いよく出ているシャワーの蛇口を閉めた。  バスルームの中は湯気で溢れていて、ゴトウの体が湯気と一緒に揺らめいている。  見ていると眩暈でも起こしそうだ。 「あの、僕の方からバスルームに入っておいて申し訳ないんですけど、やっぱり目のやり場に困るので服を着て欲しいんですけど」  遠慮がちに言うゴトウのその台詞に、俺はカッとなる。 「言われなくても、男相手にいつまでも裸を見せてる趣味はねーよ!」  リビングで、一人掛け用のソファーに足を組んで座り、目の前を見る。     梧桐藤一郎。  スペック、霊がそこにいる。  俺は腕をつねってみる。  痛い。  これが夢ではないなんて、まだ信じられない。  しかし、だ。  悔しい事に、どうやら俺の目は覚めている。  目の前の男、ゴトウは透けていて、ゴトウ越しに寝室の扉が見えた。 「おい、あんた、ゴトウ……さん。本当に霊なんだな」 「くどいですよ。足はありますけど、透けてますし、宙に浮いてます。霊ですよ、幽霊です、間違えなしです」  うーむ。  俺は立ち上がり、ゴトウ改めゴトウさんの体に手を伸ばしてみる。  そのまま腕を押すと、腕がするりとゴトウさんの体を突き抜けた。 「んっ、わわっ! 何するんですか! ちょっと、抜いて下さいよ! 何か気持ち悪いです!」  ゴトウさんがイヤイヤと首を横に振る。  俺だって気持ち悪いよ。  俺はゴトウさんの体から腕を抜いて、ソファーにかけ直した。  何とも落ち着かない気分だ。  俺の心臓はドキドキと音を立てていた。  腕が体をすり抜けるなんて、ビックリだ。 「いやぁ、な、なるほどな。分かった、とりあえず、あんたは霊ということにしよう」 「なるほどな、じゃないですよ。急に腕なんか体に突っ込まないで下さい」 「いや、悪い。……それで、えーっと、前の話の続きだったな」 「はい、僕の成仏に片葉君が協力してくれるって話です」 「確か、心残りが晴れれば成仏出来そうって言っていたな」 「はい」 「心残り、片思いの相手のことが知りたいって事と、その相手にあんたの気持ちを伝えたいって事……だっけ?」

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