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第15話 一の怪13
「はい、その通りです。協力してくれるんですよね」
弾む声でゴトウさんは言う。
俺の方は気が重くなる。
「その話なんだが、何て言ったらいいのか……俺もその場のノリで協力するなんて言っちまったって言うか……」
歯切れ悪く言う俺に、ゴトウさんは怪訝そうな顔を向ける。
「どういう事ですか?」
ゴトウさんが不安げな声色で言う。
もう、ズバリ言うしかない。
「だからだな、申し訳ないけど、協力するって約束、無かった事にしてもらえないだろうか」
俺の台詞を聴いたゴトウさんはこれ以上ないほどに眉を下げた。
「そ、そんな、酷いです。約束したのに」
ショックを隠し切れないという風なゴトウさんを前に、俺はなおも言う。
「悪いとは思うけど、やっぱり俺に恋の手伝いとか無理だわ。だから、諦めてくれ」
「酷い! あんまりじゃないですか! 期待させておいてこんなこと!」
ゴトウさんが俺に詰め寄る。
「だから、悪いって。あのさ、俺じゃ無くって、他の誰かに頼めないかな。誰か親切そうなやつに声を掛けてみれば協力してもらえるんじゃないか?」
世の中には人の役に立ちたいって酔狂な輩が存在する。
俺なんかに頼むよりも、そう言うやつに頼んだ方がいいだろう。
そうに決まっている。
だが、俺の提案はゴトウさんには受け入れてもらえなかった。
「そんな、無理ですよ。僕の姿が見えたのは片葉君が初めてなんですよ。話が出来たのだって片葉君だけです。前に、五人、この部屋に入居者が来ましたけど、僕の姿は誰も全く見えなかったんです」
「なんだよ、それ。一年の間に五人も入居者が変わっていたのか。お前、その入居者達に何かしたんじゃないか」
「はぁ? 何もしやしませんよ。ただ、夜に彼らの枕元に立って泣いてただけです」
「あ? 俺の時もそうだったけど、何でわざわざ枕元に立って泣く必要があるんだよ」
「それは……夜になるとすごく寂しくなって。一人でいるのに耐えられなくって。誰かの側にいたかったんですよ。それで、夜は入居者の方の枕元に立って泣くのを日課にしてたんです。そうしたら、皆、夜に男の泣き声がするって大騒ぎしちゃって」
「……お前、何もしてないって、どの顔で言ってんだよ。十分すぎることしてるじゃねーか!」
夜中に男の泣き声のする部屋。
思いっきり訳アリ物件じゃねーか。
ここの家賃が安かったのはこいつの、夜泣きのせいか。
「とにかく、約束は無かった事にしてくれ。俺は自分の事で手一杯なんだ。あんたが霊だって聞いただけでいっぱいいっぱいだし、あんたの役には立てねーよ」
俺がそう言うと、ゴトウさんは切ない顔で俺に縋りついて言った。
「待ってください。僕は君が手伝ってくれるって言ったから諦めていた成仏にも、心残りを晴らす事にも乗り気になったんですよ。それなのに、その君がどうして無かった事になんて言うんです」
ゴトウさんの目に涙が浮かぶ。
泣かれても俺にはどうしようもできない。
言った通り、俺は自分の事で手一杯だ。
昨日今日会ったばかりの霊と関わり合いになっている場合じゃない。
「本当にすまないけど、約束のことは忘れてくれ」
静かに俺はそう言った。
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