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第16話 一の怪14

 「ううっ」  ゴトウさんの体が床に崩れ落ちる。  ゴトウさんが声を上げて泣き始める。  部屋の空気がいきなり重くなった。  壁がミシリミシリと音を立てる。 「おい、ちょっと、何だよこれ!」  部屋の様子に流石に俺は慌てる。 「おいってば! ゴトウさん!」  ゴトウさんは俺の声が耳に入っていないのか、床に顔を伏せたまま泣き続けている。  ゴトウさんの泣き声に合わせる様に、窓ガラスがガタガタと揺れる。  一体何が起こっているのか。  俺は、ただ突っ立っていることしかできずに途方に暮れた。  ゴトウさんはひとしきり泣いて、顔を上げた。  と、同時に、部屋の異変も治まる。  ゴトウさんがゆっくりと立ち上がる。  ゴトウさんは恨みがましい目で俺を睨みつけた。 「片葉君、絶対に許しませんよ。協力はしてもらいますから。どんな手を使っても、必ず」  なんだそりゃ。 「おい、あんた、何言って……」 「片葉君、恨みます」  ゴトウさんは不吉な言葉を残して俺の前から姿を消した。 「何だったんだよ」  一週間後。  新宿二丁目。  バー・カルナバル店内。  時間は夜の十一時過ぎ。  俺は花凛と肩を並べ、酒を飲んでいた。  普段、花凛と飲む時は花凛からの誘いでと決まっていたが、今日は俺から花凛を誘った。  今日はどうしても飲みたい気分だったのだ。  俺は、クラフトビールの入ったジョッキを掴むと喉を鳴らしてビールを飲み干す。 「ママ、お代わり」  俺が声を掛けると、ママは濃い眉をひそめた。 「そうちゃん、飲み過ぎよ。何があったか知らないけど、もうこれくらいにしたら? 顔、真っ赤よ」 「ママ、ほっといてくれ。飲まなきゃやってられないんだ」  俺がそう言うと、隣の花凛がメンソールの煙を吐き出しながら言った。 「双一、ママの言う通りだって。もう止しなさいよ。今日、マジで飲み過ぎよ。珍しくあんたからお誘いがあったと思って来てみたら、あんた、何だか腐っちゃっててさ。どうしたのよ」  呆れ顔の花凛。  そう、花凛の言う通り、俺は今、腐っている。  バー・カルナバルに来てから、俺は花凛と自分から特にこれと言った話をする訳でも無く、ひたすら酒を飲んでいた。  花凛の話も上の空でただ飲むばかり。  これでは花凛も呆れる訳だ。 「ねぇ、そうちゃん、顔色ずっと良くないわよ。もう、家に帰んなさいよ、ね」  ママが言う。 「そうよ、双一、もう部屋に帰った方が良いって。あんた、もうグダグダよ」  花凛がため息交じりに言う。  二人はそう言うが、今の俺は自分の部屋と聞いただけで吐きそうだった。  あの部屋に帰るなんて、とんでもない事だ。 「なぁ、花凛、今日は奢るから、お前の家に泊めてくれない?」  俺は上目使いに花凛を見て、そう言った。  花凛はビックリした顔をした。 「あ、あんた、何言ってるのよ。どういう事?」 「帰りたくないんだ、あの部屋に。なぁ、花凛、泊めて」

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