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第17話 一の怪15

「だ、ダメよ。ダメ。そんな酔っぱらって泊めてくれとか、ダメに決まってるじゃない。それに、あんたなんか泊めたら、私の部屋が男臭くなるでしょ。あんた、新しいマンションに引っ越して浮かれていたじゃない。それが、何で帰りたくないとか言い出す訳よ? ご自慢の自分の部屋に帰りなさいよ」 「何だよ、花凛、ケチなこと言うなよ。友達だろ? 一生のお願いだから泊めてくれよ」 「しつこいわよ! そんな悩ましい顔しても無理! あんたが女だったら喜んで泊めてやったわよ。あんたの顔、タイプだし。でも、ダメよ。今日のあんたは泊めてやらない!」 「何でだよ」 「だって、今日のあんた、めんどうくさそうじゃん。めちゃくちゃ酔ってるしさ。泊めて欲しいんなら、ほら、あそこの席の男。あいつに泊めてもらったら? あいつ、あんたに気がありそうじゃん。さっきからずーっと、あんたを見てるわ。一晩泊めてくれって、その潤んだお目目で言ってやったら喜んで泊めてくれるんじゃない?」 「あ? どの男よ」 「あれよ、あれ」  花凛の言う男を見て見ると、兄貴系の男が熱い視線をこちらに向けていた。  俺と目が合うと、兄貴は手に持ったグラスを持ちあげる。  ふむ。  俺は、空のジョッキを持ちあげ、兄貴に合図を送った。 「ちょっと、双一、あんた何やってるのよ!」  花凛が焦り顔で俺のジョッキを持った手を押さえる。 「何って、あのお兄さんに泊めて頂くんだよ」 「はぁ? あんた、それがどういうことか分かってるの? あの人と……いいわけ?」  花凛の声がズキズキと頭に響く。 「いいって、何がだよ」 「何がって、あの男とヤッてもいいのかって話よ」  声を潜めて言う花凛。 「やるって何を? 泊めてもらえるなら何でもやるよ」  俺がそう言うと、話を聞いていたママが、「あぁら、そうちゃん、それなら、ワタシの家に泊めてあげるわぁ。お姉さんが手取り足取り、こっちの世界のこと教えてあげる」と満面の笑みを浮かべて言う。  ママの家か、それでもいいかも知れない。  しかも、何やら手取り足取り教えて頂けるようだ。 「ママ、何でも覚えるから泊めて」  猫なで声で俺が言うと、ママは、「えっ、マジ? 冗談だったのに。ちょ、なによ、そうちゃんってこんなに簡単にお持ち帰りできちゃうわけ?」とアワアワしている。  花凛が額に手を当てて唸り声を上げる。 「プライドの高いあんたの言う事とは思えないわね。双一、めちゃくちゃ出来上がってるじゃないの。もう酒は止しなさいよ。酔いがさめるまで一緒にいてあげるから、酔いがさめたらウチに帰るのよ」  花凛がグラスに入った水を俺に進めながらそう言った。  俺はグラスを受け取りながら、口をとがらせて言う。 「ううっ、泊めてくれないなら俺の事なんかほっとけよ」  カウンターテーブルに伏せる俺。 「ダメよ、あんたを放っておいたらマジで誰かにお持ち帰りされちまうっての!」  お持ち帰りってなんだよ。  俺はファストフードのテイクアウトか。  俺はただ、部屋に帰りたくない、それだけだ。 「いいよ、俺、部屋に帰らなくていいならお持ち帰りでも」  俺の台詞に店内がざわつく。

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