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第18話 一の怪16
「おおっ! 片葉のやつ、今日、お持ち帰り出来んのかよ!」
「マジか? あのこ生意気なガキを?」
「面白い事になったな」
俺の周りに店の常連客達がニヤニヤしながら寄って来た。
彼らは、いつも俺に絡んでくるが、俺の方は彼らを適当にあしらっていた。
「何よ、あんた達、向う行きなさいよ!」
花凛が集まった男達を手でシッシとやる。
しかし、彼らは動かない。
「そうはいかねーよ。片葉をお持ち帰りだなんて、こんな面白そうな話に乗らない手は無いだろ、なっ」
ニヒルな笑みを浮かべた男がそう言うと、男達は頷く。
「この普段取り澄ました男がベッドの上ではどんな風になるのか、楽しみだぜ。なぁ、片葉、俺が泊めてやるよ」
ニヒルな笑みを浮かべた男が張り切って言う。
それに他の男達も続く。
「片葉、俺の家に来いよ。優しくしてやるぜ」
「いや、俺の部屋にしろ。一晩中可愛がってやるからさ」
男達は俺を取り囲み、ニヤリと笑いながら、俺を誘う。
「あんた達、面白がるのも、いい加減にしなさいよ。あんた達さ、鼻の下伸びすぎなのよ。その下品な笑みはなによ。もう、双一、ぼうっとしてないで、こいつらに何か言ってやんなさいよ」
花凛がキンキン声を上げて俺に言う。
何かって言われても。
「……こんなにいたら、選ぶのが大変だ」
俺のこの台詞に男達から口笛が漏れた。
「アホか! この酔っ払い! 何なのよ、双一、マジでこいつらに抱かれるつもり?」
花凛が絶叫する。
「頭痛てーっ。花凛、怒鳴るなよ。何の話をしてんだよ。俺はただ、部屋に帰りたくないだけだよ。その為なら悪魔に魂を売っても良い」
「あんた今、魂以外のモノ売ろうとしてるっての。ねぇ、何でそんなに部屋に帰りたくないのよ?」
何で?
何でって、あいつ、ゴトウさんのせいだ。
「あいつ、幽霊……ゴトウさんらっ……」
何だか、ろれつが回らない。
しかし、目が回る。
花凛の声が途切れ途切れに聞こえる。
目の前が暗い。
俺の意識はここまでだった。
酔いつぶれたらしい俺は、気が付くと花凛が呼んだであろうタクシーに乗せられていた。
俺は今、タクシーの後部座席に花凛と並んで座っている。
ううっ、タクシーの揺れで物凄く気持ちが悪い。
「双一、大丈夫?」
花凛が俺の顔を覗き込んで言う。
「うっ、大丈夫じゃない。気持ち悪い」
くぐもった声で俺が正直に言うと、花凛は、「でしょうね」と言って、自分のハンドバックからミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出して俺に渡してくれた。
「飲みなさいよ、酔っ払い」
「ううっ、サンキュー」
俺はキャップを開けるとミネラルウォーターを口に含んだ。
美味い。
いまだかつて、味わったことのない美味さだ。
これは命の水か。
ああっ、生き返る。
酔い覚ましの水は最高だ。
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