18 / 62

第18話 一の怪16

「おおっ! 片葉のやつ、今日、お持ち帰り出来んのかよ!」 「マジか? あのこ生意気なガキを?」 「面白い事になったな」  俺の周りに店の常連客達がニヤニヤしながら寄って来た。  彼らは、いつも俺に絡んでくるが、俺の方は彼らを適当にあしらっていた。 「何よ、あんた達、向う行きなさいよ!」  花凛が集まった男達を手でシッシとやる。  しかし、彼らは動かない。 「そうはいかねーよ。片葉をお持ち帰りだなんて、こんな面白そうな話に乗らない手は無いだろ、なっ」  ニヒルな笑みを浮かべた男がそう言うと、男達は頷く。 「この普段取り澄ました男がベッドの上ではどんな風になるのか、楽しみだぜ。なぁ、片葉、俺が泊めてやるよ」  ニヒルな笑みを浮かべた男が張り切って言う。  それに他の男達も続く。 「片葉、俺の家に来いよ。優しくしてやるぜ」 「いや、俺の部屋にしろ。一晩中可愛がってやるからさ」  男達は俺を取り囲み、ニヤリと笑いながら、俺を誘う。 「あんた達、面白がるのも、いい加減にしなさいよ。あんた達さ、鼻の下伸びすぎなのよ。その下品な笑みはなによ。もう、双一、ぼうっとしてないで、こいつらに何か言ってやんなさいよ」  花凛がキンキン声を上げて俺に言う。  何かって言われても。 「……こんなにいたら、選ぶのが大変だ」  俺のこの台詞に男達から口笛が漏れた。 「アホか! この酔っ払い! 何なのよ、双一、マジでこいつらに抱かれるつもり?」  花凛が絶叫する。 「頭痛てーっ。花凛、怒鳴るなよ。何の話をしてんだよ。俺はただ、部屋に帰りたくないだけだよ。その為なら悪魔に魂を売っても良い」 「あんた今、魂以外のモノ売ろうとしてるっての。ねぇ、何でそんなに部屋に帰りたくないのよ?」  何で?  何でって、あいつ、ゴトウさんのせいだ。 「あいつ、幽霊……ゴトウさんらっ……」  何だか、ろれつが回らない。  しかし、目が回る。  花凛の声が途切れ途切れに聞こえる。  目の前が暗い。  俺の意識はここまでだった。  酔いつぶれたらしい俺は、気が付くと花凛が呼んだであろうタクシーに乗せられていた。  俺は今、タクシーの後部座席に花凛と並んで座っている。  ううっ、タクシーの揺れで物凄く気持ちが悪い。 「双一、大丈夫?」  花凛が俺の顔を覗き込んで言う。 「うっ、大丈夫じゃない。気持ち悪い」  くぐもった声で俺が正直に言うと、花凛は、「でしょうね」と言って、自分のハンドバックからミネラルウォーターの入ったペットボトルを取り出して俺に渡してくれた。 「飲みなさいよ、酔っ払い」 「ううっ、サンキュー」  俺はキャップを開けるとミネラルウォーターを口に含んだ。  美味い。  いまだかつて、味わったことのない美味さだ。  これは命の水か。  ああっ、生き返る。  酔い覚ましの水は最高だ。

ともだちにシェアしよう!