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第19話 一の怪17

 ミネラルウォーターをがぶがぶ飲む俺を花凛が、はんっ、と鼻で笑う。 「あんた、カルナバルでの事、覚えてる?」 「……途中までなら」  顔が熱くなる。  カルナバルでの自分の醜態を思い出すと、げっそりする。  やっちまったとしか言いようが無い。  もしも、人生やり直すことが出来るなら、俺は間違えなく今夜のバー・カルナバルからやり直すだろう。  悲観に暮れる俺に構わず、花凛が恐ろしい事を言う。 「ふぅーん。途中まで、ねぇ。はぁっ。大変だったんだから。あんた、人が変わった様になっちゃってさ。あの群がる男達相手に女王様みたいだったわよ。双一、誰でも良いから連れてって、とか色っぽく言っちゃって、もうあいつらのテンションマックスよ。私とママの二人でその場を収めるのに苦労したわ。あんたさ、マジでお持ち帰りされちゃうところだったんだからね、分かってる?」  花凛はわざとらしく顔をしかめる。  とんでもない話だ。  女王様……。  マジか。 「何にも覚えてねー。し、しばらくカルナバルには顔出し出来ねーな」  俺は青ざめる。  花凛が言っている事が本当ならば、恥ずかしいどころの話じゃない。  死にたいレベルだ。  正に後悔先に立たず。  酒は飲んでも飲まれるな、だ。  タクシーは憂鬱な俺と花凛を乗せて滑らかに夜の街を走る。  俺は花凛のバー・カルナバルでの俺の失態の話を聞いてから、ずっと無言で目を閉じていた。  花凛の方も、別に俺に話しかける事はしなかった。    タクシーが止まる。 「ほら、双一、あんたのマンション、着いたわよ」  花凛にそう言われて目を開ける。  タクシーの窓から外を見ると、自宅のマンションが見えた。 「タクシー代は良いから降りなさいよ」  花凛が長い髪をかきあげて言う。  花凛の髪からローズの香りが微かにふわりと薫る。  それは嫌いじゃない香りだった。 「なぁ、花凛、本当に今日、泊めてもらえない?」  俺が言うと、花凛は、「ダメよ」と即答した。 「あんた、何でそんなに部屋に帰りたくないのよ。何か帰れない理由があるわけ?」 「うっ、それは……」  訊かれても答えられるわけがなかった。  あんな非科学的でバカみたいな事が理由で部屋に帰りたくないだなんて話したらバカにされるに決まってる。  口ごもってしまった俺に花凛は肩をすくめると「何があったか知らないけどさ、ここまで来たんだから、良い子でお家に帰りなさいよ。また、あんたが酔っぱらってない時に、本当に困ってたら泊めてあげるからさ、ね」と、そう言った。  そう言われても、帰りたくない。  しかし、バー・カルナバルでの事、こうしてタクシーで送ってくれた事……それを考えると、これ以上花凛に迷惑をかけるわけにはいくまい。 「……ちっ、分かったよ。帰るよ」  しぶしぶと俺が言うと、花凛はホッとした顔をして、そう、と言う。

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