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第22話 一の怪20
今日はここに泊ってやろうと思い切ると、眠りは直ぐに訪れた。
眠りの縁で、心地いい温かさが再び俺を襲う。
それに抗うことは眠りに落ちた俺にはもう不可能だった。
朝、気持ちよく目が覚めた。
久しぶりによく眠れた。
体が凄く軽い。
昨日の酔いも全く残っておらず、さわやかな朝とはまさにこの事と言えた。
隣を見れば、隣人の男の姿はもう無かった。
俺は布団から半身を起こした。
伸びをして、敷布団からそろりと出る。
素足でフローリングを踏むと床のヒヤリとした感覚に体が震えた。
俺はすぐさま布団に戻りたくなったが、しかし、この部屋の主がもう起きているらしいのにそうはいくまい。
がらんとした部屋の扉を開けると、これまた殺風景なリビングに出た。
家具といえば、窓際にある二人で使えるくらいの折り畳み式のテーブルと、これまた二脚の折り畳み式の椅子。
そして、部屋の端に白い色の棚が一つと、壁際にアルミニウムの中サイズのスーツケースが三つ置いてあるだけだ。
テレビなどの娯楽的な物は一切見当たらなかった。
そんな部屋の中で、部屋の主は折り畳み椅子に座り、折り畳み式テーブルに肘をつけてぼんやりと外を眺めていた。
「えっと、おはようございます」
俺がそう声を掛けると、部屋の主、隣人の男は顔を俺の方へ向け、気だるげに、「おはよう」と言った。
俺は、ためらいながらも男の側へ寄る。
近づくと男が椅子に座ったまま俺を見上げた。
俺は、その男の顔を思わずじっと見てしまう。
明るいうちにこの男の顔をしっかりと見るのはこれが初めてだ。
こうして見ると、この男、呑気そうな雰囲気はあるが、目鼻立ちの整った中々の良い男だ。
年齢は俺より上だろうか。
「あの、泊めてもらったみたいで、ありがとうございました。何か、服まで貸して頂いた様で」
頭を掻きながら素直に礼の言葉を述べてみる。
俺は上下黒のスーツを着ていたはずだが、今は、上は白い長袖のティーシャツ、下は黒のジャージを履いている。
どうやら俺が眠っている間にこの男が着替えさせたらしい。
確かにスーツで眠るのもどうかと思うので別に構わないが、着ていたシャツまで着替えさせてくれているというところが、何というか、この男……まぁ、うん、良く言えば面倒見のいい男だ。
男は、俺の顔を見上げながら、「お礼なんていいですよ。俺が勝手にした事です。あ、服は皺になるといけないので、そこに畳んで置いてあります。あなたの持ち物もそこですから」と、そう言って顔を横に向けて指をさした。
男が示す方を見ると、床の上に俺の鞄の隣に茶色い紙袋が置かれているのが見える。
その中に俺の洋服が入っているのか。
わざわざ畳んで紙袋にまで入れて置いてくれるなんて気が利くな。
うむ、この男、面倒見のいいのに違えない。
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