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第24話 一の怪22
「うん、ビックリしたね」
俺もビックリだ。
俺は、外で、あろうことかこの男の隣で眠りこけて……そこは分かっていたが、ミイラ取りがミイラに、とはよく言ったもんだ。
しかし、男の肩に頭まで乗せてしまっていたのか。
俺としたことが、何て事だ。
「すいませんでした。いやぁ、俺も疲れていたんでしょうねぇ、はははっ」
乾いた笑い声が思わず漏れる。
「別に構いませんよ。あなたの事、起こしたんですけど、揺すってもくすぐっても全然目が覚めなくってね。参ったよ」
くすぐったんですか。
何やってんだよ、あんたは、とは言えない。
「す、すみません」
「別に。それで、あなた、寝言を言いだして……」
「ね、寝言? な、何て?」
俺の心拍数が一気に上がる。
俺は、とんでもないことを言ってなければいいと心の中で祈りを上げる。
「はぁ、ウチに帰りたくないって言いました」
「うっ、そ、それで?」
「はい、それで、このままにもしておけないなって思って、俺の部屋に連れて行ったんですけど。本当はあなたの部屋に返した方が良かったのかも知れなかったですけど、帰りたくないって言ってるし、勝手にあなたの鞄を漁って、あなたの部屋の鍵を探すのも気が引けて」
「そうですか。あの、それで?」
「はい?」
「いや、話はそれだけですか?」
「それだけと言うと?」
「いや、おれ、あなたに、何かもっと変なこと言ったり、したりしませんでした?」
訊かれて男は、うーん、と声を上げて顎に人差し指を当てる。
「別に何も無かったですけど。……ああ!」
男が突然上げた大声に、俺は心臓が口から出そうなくらいに驚いた。
一体何だ。
まさか、女王様か。
バー・カルナバルでの地獄が再びやって来るのか。
男の次の台詞を俺は固唾を飲んで待つ。
男の口が動いて出てきた言葉は……
「あなた、めちゃくちゃお酒臭かったですよ」
俺は一気に脱力した。
何だよ、それ。
「そ、そうですか。すみませんでした」
「いいえ、別に」
どうやら、この男の前で、バー・カルナバルでの様な失敗は無かったようだ。
良かった。
ひとまず安心した俺は、クロワッサンに手を伸ばした。
クロワッサンを口に入れるとサクッとフワッとしていて驚くほどに美味かった。
これはコーヒーとの組み合わせが絶妙だ。
「美味しいです、これ」
「そうですか、良かったです」
「……あの、俺、あなたに挨拶、ちゃんとして無かったですよね。改めまして、隣に越してきた、片葉双一です。よろしくお願いします」
ぎこちなく俺が言うと、男は手に持っていたカップをテーブルに置き「俺は甲斐涼(カイリョウ)です」と、左手を俺に差し出してきた。
また握手か。
握手が好きな奴だな。
俺は戸惑いながらも左手で握手を交わした。
甲斐……悪いやつでは無いのだろうが、ブンブンと腕を振られながら握手をされると、やはり今後の関わり合いは考えたくなるな。
握手が終わると、甲斐が俺に、「ああ、そう言えば」と、話しかけて来た。
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