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第34話 一の怪32
あんな男が好きだなんて、あんな男の為に成仏できないだなんて、ゴトウさん、あんたって人は何なんだ。
俺の体から力が抜けていく。
俺はソファーにガクリと項垂れかかった。
「ちょ、片葉君、大丈夫?」
ゴトウさんが、あわあわと俺の周りを飛び回る。
俺の置かれている状況は、つまりはこういう事か。
気に喰わない隣人甲斐に土下座をさせるために、ウザイ地縛霊ゴトウさんの片思いの相手、つまりは甲斐の身辺調査をする。
さらにゴトウさんの気持ちを、いずれ俺にひざまずく気に喰わない男、甲斐に伝える協力をしなければならない、と。
ゴトウさんだけでもしんどいのに、甲斐、甲斐、甲斐、ここに来ても甲斐。
鬱鬱しいにも程がある。
今しがた、約束は守ると言ったばかりだが、俺の気持ちは萎え始めている。
だが、だが、俺のプライドの為だ。
やってやる。
あの甲斐の土下座を拝むため、だ。
あんな男にクズ男呼ばわりされてたまるか。
が、しかし、今はキャパシティーオーバーだ。
「ゴトウさん、とにかく約束は守るから。とりあえず、俺、一度寝るわ。話は後でってことで。起こさないでくれよ」
俺は立ち上がると思いっきり猫背になってズルズルと体を引きずり寝室へ向かった。
「え? は、はい、また後で」
戸惑い気味のゴトウさんの声が背中越しに聞こえた。
後ろ手で寝室の扉を閉めて直行でベッドへダイブする。
ベッドが大きく揺れ、体が一瞬宙に浮いた。
「つ、疲れた」
布団を被り、目を瞑る。
眠りは直ぐに訪れた。
眠りについた俺を待っていたのは異様な夢だった。
ミラーボールの回るバー・カルナバルで、赤い豪華なソファーに腰掛けたアラビアンな女王の恰好をした俺を取り囲み、半裸で舞い踊るカルナバルの常連客達。
そして、俺の前に緑のジャージ姿でひざまずく甲斐、その上にはゴトウさんが跨っている。
俺は、甲斐とゴトウさんをテーブルの上の皿に盛られたクロワッサンをもぐもぐと食べながら冷笑を浮かべて眺めているのだ。
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