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第33話 一の怪31

「僕が好きな相手は女性じゃないんです」  そう言ったゴトウさんの声は震えていた。  はぁ、そういう事か。 「うん、それで、その相手はどんなやつだよ」  相手が男性という事には特に突っ込まずに俺は訊いた。  すると、ゴトウさんは顔を上げた。  その顔は、とても不安気だった。 「変に、思わないんですか? 相手が女性じゃ無い事」 「別に。恋愛は自由だ」  俺には同性愛への偏見は無い。  レズビアンの花凛という友人がいるし、バー・カルナバルへ出入りしている事もあり、珍しい事にも感じない。  俺自身は同性愛者では無いが、恋愛くらい好きな様にしたらいいというのが俺の考えだ。  ゴトウさんがゲイだということには正直びっくりしたが、だから何という話だ。 「よ、良かった。てっきりバカにされるものと思っていました」  ゴトウさんはホッとした様にそう言う。  何だよ、それ、心外だな。  今時、そんな事で馬鹿にする人間がいるならそれこそバカだろ。 「俺はそんなにモラルの無い人間に見えるのかよ」 「み、見えますよ。約束を反故にする様な人ですからね」 「うっ、結局守ったろうが」 「そうですけど」 「で、どんなやつが好きなんだよ」  俺がそう言うと、ゴトウさんは再びもじもじしだした。  何だよこいつ、イラつくな。 「あーっ、もう、早く言えよ、じれったい!」  思わず怒鳴ってしまった俺にゴトウさんはビクリと肩を震わせる。 「ああっ、悪い。ほら、言わない事には協力できないから、なっ、覚悟を決めて言えよ。俺も全力で協力するからさ」  優しくそう言ってみる。  すると、ゴトウさんは、「はい」と小さく頷いた。  よし、これで話が先に進む。 「で、どんなやつよ」 「はい、僕の好きな人は……あのっ、えーっと……」  ゴトウさんが、またもじもじする。  イライラするが、ここは我慢だ。 「好きな人は、何?」  再び優しく訊く俺。 「ああ、好きな人は……」 「好きな人は?」 「おっ、お隣の」 「お隣の?」 「甲斐……さんです」  そうですか。  お隣の甲斐…… 「はぁぁー?」  自分でも耳が痛くなるくらいの大声を上げた俺に、ゴトウさんはその場から飛びのいて驚いた。 「な、何ですか、急に大声出して。やっぱり同性愛は受け付けないですか?」  ゴトウさんは涙目で訴える。 「ちげーよ! 甲斐だよ、甲斐!」 「はい? 甲斐さんが何か?」  訳が分からないと言った風なゴトウさん。  俺の方も訳が分からない。 「あんた、よりにもよって、何であの甲斐何かが好きなんだよ! あんなゲス男が好みのタイプとか、あんたの趣味はどうなってるんだよ!」 「は? 甲斐さんがゲス男ってどういう事ですか? 片葉君、君、甲斐さんとどういう関係です?」  あんな男と、どういう関係も何もねーよ。

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