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第49話 二の怪15
俺達はそれぞれ、どうしたものかと顔を見合せる。
そんな中で南から、「あの……」と心細げな声が上がる。
皆が南に注目する。
勿論、とんちんかんなストーカー男も南に注目している。
南はストーカー男にでは無くて俺達に向かって口を開いた。
「もう、いいよ。何か疲れた。そいつがもう俺の後を本当に付け回したりしないんだって事、分かったし、許しはしないけど、これ以上関わり合いになるのはごめんだから。警察とかもいいし。兎に角、こいつが一生俺の前から消えてくれるなら、もういいよ」
南の温情でストーカー男は無罪放免となった。
念のために、今後南に近付いたらどうなるか俺達はきつくストーカー男に警告したが、恋に冷めた元ストーカー男は「本当にもうしませんから。好きになった相手が、よりにもよって男なんて……はぁ」とため息を吐いたものだ。
何だかな。
俺達はカラオケ店に集まってお互いの労をねぎらった。
南は平川の隣に座り、平川にあれこれと話し掛けているが、平川はもう元の内気さを取り戻して、ただ南の話に相づちを小さく打つばかりだった。
恐ろしく音痴な友人Aの歌声を耳に聞きながら、俺はメロンソーダーを細いストローで啜る。
俺は脱力していた。
ストーカー事件のお粗末な結末。
あんまりなエンドに疲れ果てていた。
もう何が何だかって感じだ。
そんな俺に葛が話し掛けて来る。
「なぁ、片葉。俺、今回の事で決めたんだ」
「何を?」
「俺、将来探偵になるよ」
「はぁ?」
「だってさ。南のストーカーを突き止めて、追い詰めた時、何か気分爽快でさ。俺って探偵向いてるかもって」
うかれた葛に、だから何で探偵なんだ。
警察官とかになれば良いだろ、と言う突っ込みは入れずに、「お前ならやれるんじゃね?」と適当に返した。
「おう!」
葛は俺とグラスを合わせるとマイクを持ってカラオケに混じった。
「はぁっ……」
俺はため息を吐き出す。
そして思う。
一目惚れって何なんだろうな、と。
何でも良い。
疲労で瞼が重い俺は、友達の酷い歌声を子守歌に静かに目を閉じた。
と、いう事があり、俺は一目惚れは信じない。
南が男と知って興味を無くす、だなんて……何が一目惚れだ。
一目惚れなんて夢か幻だ。
ゴトウさんが甲斐にどんな幻想を抱いているのか知れないが、いざ本物の甲斐を目にしたとたんにきっとその幻想は崩れ、恋なんか無かった事になるだろう。
「やつの見た目以外にはどこがいいんだよ」
俺は意地の悪い気持ちになって言う。
ゴトウさんはここでもやっぱり、もじもじとして中々答えない。
俺は話を急かさずに優雅にワインを飲んだ。
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