51 / 62
第51話 三の怪1
ゴトウさんに急かされて、俺は昼間っから甲斐に借りた服を洗濯した。
ついでに自分の洋服や下着なんかも洗濯する。
甲斐の洗濯物と一緒に洗う事に大いに抵抗はあったが仕方ない。
俺の洗濯物と甲斐の洗濯物を分けて洗う、だなんて出来やしない。
財布の中が寂しい俺には節約の道しかないのだ。
乾燥機は無いから、湿った服をベランダに干してやれやれと息をつく。
ベランダからの景色は眼下に程よく樹木の植わった公園が見えて中々のものだ。
俺はズボンのポケットから潰れた煙草を取りだして一服した。
部屋に戻るとゴトウさんの存在がどうしても気になってしまう。
何せ幽霊だ。
幽霊に使っていい言葉か分からないが存在感あり過ぎだ。
お気楽なマンション暮らしが始まると思っていたのに幽霊なんかがおまけに付いて来るなんて、とんだ不良物件に引っ越して来たもんだ。
「ううっ、寒っ」
まだ十一月だ、と薄着でベランダに出たが風が冷たい。
このままでは風邪でも引きそうだ。
煙草をもみ消して、仕方なく部屋に戻るとゴトウさんが目をキラキラさせて俺の側に近付いて来た。
「片葉君、洗濯物、いつごろ乾きそうですか?」とゴトウさんが俺に訊ねる。
俺は眉を寄せながら、「もう太陽は傾いてるし、風は冷たいし、夜になっても乾いてるかどうか分かんねーよ」と面倒くさく答える。
俺の答えにゴトウさんはシュンッとなる。
ああ、面倒くさい。
こんな湿っぽい男とこれから一緒に生活しなきゃならない何て。
俺は天に見放されたのだろうか?
今日は仕事の予定も何も無い。
本当なら部屋でくつろいで過ごしたいところだがゴトウさんがいるんじゃあくつろぐ事何て不可能だろうと思えた。
俺はそこら辺に放置していたパーカーを羽織るとそれを素早く着る。
「どこかお出かけですか?」
不安そうにゴトウさんが言った。
「ああ。ちょっと出かけて来るわ」
軍資金は少ないが、飲みに出掛ける事に決めた。
外で飲むには大分早い時間だが、このままここにいても疲れるだけだろう。
洗濯物を干す前にゴトウさんからずっと甲斐の話題を振られていた。
甲斐。
名前を聞くだけでもムカついて来る。
俺は神様じゃあない。
嫌いなやつの話題に気前よく花が咲く様な事なんか無いのだ。
「いつごろ、帰って来るんですか?」とのゴトウさんからの質問に面倒くささを前面に出して「洗濯物が乾くころには帰って来るよ」と答えた。
「そうですか……。行ってらっしゃい」
「はいはい、行って来ます」
行ってらっしゃい、に行って来ます。
一人暮らしのはずなのに何でこうなったのか。
ゴトウさんの前をすり抜けて急ぎ足で玄関を目指すとゴトウさんが俺の後を付けて来る。
「な、何だよ。お前、まさか俺の後を付いて来る気じゃあないだろうな!」
「それは無理ですよ」
ゴトウさんが肩をすくめる。
その様子に「何でだよ?」とついお人好しの様に訊ねてしまう。
ゴトウさんはしょんぼりとして「僕はこの部屋から出られないんです」と答えた。
ともだちにシェアしよう!