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第52話 三の怪2
「何で?」
当然の疑問をぶつけてみる。
部屋から出れないなんて引きこもりなのか?
「何でか分からないんですけど、何をどうやってもこの部屋から出る事が出来ないんですよ。本当は外に出たいんですけどどうにもできなくて」
「はぁ? あ、あんた地縛霊なんじゃねーの?」
インチキだが霊能者何て仕事をしていればその手の事に関する知識は高まる。
地縛霊とは思いの残った場所に縛られている霊で、故に地縛霊はその場にのみ出現するのだ。
今まで、地縛霊関係の仕事の依頼を受けた事は結構あった。
依頼者はその場所に霊が憑りついていると信じ切って俺に仕事の依頼をして来た様なやつらだ。
俺には霊なんてちっとも見えなかったが、依頼者がいるって言うんだから仕方ない。
不思議な事に適当なお祓いをしてやるだけで依頼者は満足してくれる。
後からのクレームも無かった。
だから俺にとって地縛霊は良いお仕事の種であった。
しかし、地縛霊、本当にいたんだな。
俺はゴトウさんをまじまじと見る。
肝心の地縛霊ゴトウさんは心外と言う風に「地縛霊って……なんか嫌なイメージだな」何ぞ言っている。
ゴトウさんがこの部屋の地縛霊なら、部屋の外では全くゴトウさんの存在を感じる事は無いという事だ。
有難い。
外でまでゴトウさんなんかにつき合わずに済むという訳だ。
「じゃあ、俺、行って来るから!」
自由を求めて玄関のドアノブを力を込めて握る。
「はい。あの、出来るだけ早く帰って来て下さいね」
「ああ、分かった」
分るか、あほ!
自由への扉を開き、俺は外へと飛び出した。
なけなしの金でスロットをしたら大当たりだった。
生まれて以来の大ラッキーかと思うくらいの大フィーバー。
軍資金を手に入れた俺は夜まで飲みあかした。
これだけ飲んでも財布はまだ軽くならない。
最後に飲んだ馴染みの居酒屋で大将から、「もうこれ以上は酒は出せない!」と言われるくらいに出来上がった俺はいい気分でタクシーに乗り、マンションに戻った。
「釣りは要らないぜ」
何て言ってタクシーを降りたのはこれが初めてだった。
ふらつく足取りでマンションのロビーに入り、ゆらゆらと揺れる指先でオートロックの番号を押してマンションの中に入るガラスの扉を開くと、丁度いい具合に来ていたエレベーターに滑り込んで五階へのボタンを押す。
ゆっくりと上昇するエレベーターの乗り心地が良くて、うつらうつらとしてしまう。
エレベーターが、ポーンと音を鳴らして五回に着いた事を知らせる。
もうエレベーターから降りるのが面倒くさいくらいに眠かったが、ここで寝ては流石にどうしようも無いだろう。
エレベーターの外に出ると外廊下の寒さに身が震えた。
「今夜も冷えるな」何て独り言を吐きながら自分の部屋へと向かう。
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