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第53話 三の怪3
すると、もう見慣れてしまった光景が俺の目に飛び込む。
俺の部屋の隣。
408号室の玄関扉の前に蹲っているやつがいる。
その人物が誰なのかをそいつに近付くにつれて確信する。
甲斐だ。
こいつ、性懲りもなく、またこんな所で眠っていやがる。
俺は甲斐を見下ろすと、「ケッ!」と漏らした。
もうこんなやつ知るか。
勝手に風邪を引くなりなんなりしやがれってんだ。
俺は自分の部屋の玄関扉を千鳥足ながらも勢い良く開くと速やかに部屋の中に入った。
薄暗い部屋の中で靴を脱ぎ、機嫌よく顔を上げた瞬間、俺は、「うわっ!」と悲鳴を上げた。
俺の目の前にゴトウさんがいたのだ。
「な、何だよ。あんた。びっくりさせるなよ」
後ずさりする俺。
「かーたーはーくーん」
恨めし気にゴトウさんは俺の名前を呼ぶ。
両手まで恨めしやというポーズを取っていた。
ゴトウさんは眉間に皺を寄せて俺を睨らむ。
「な、何だよ!」
ゴトウさんの迫力に俺は一歩後ずさった。
ゴトウさんは俺を睨み付けながら「何だよ、じゃあ無いですよ!」とふわりと俺の目の前に迫る。
「な、何怒ってんだよ! 怖いぞお前!」
その恨めしそうな顔を止めてくれと願う俺の思いは叶わず。
ゴトウさんは恨めしさ極まれりという風に顔を顰めると「今何時だと思ってるんですか!」とヒステリックに喚いた。
「何時って……今、一体何時何だ?」
「何をとぼけてるんですか?」
「別にとぼけてねーよ!」
俺の台詞にゴトウさんは、はぁっ、と大げさなため息を付く。
「夜中の十二時過ぎですよ」
ゴトウさんの台詞に俺は驚く。
もうそんな時間だったのか。
「洗濯物が乾くころには帰って来てくれるって、直ぐに戻って来るってそう言っていたのに、あんまりじゃないですか! こっちはウキウキしながら片葉君を待っていたのに!」
湿っぽくゴトウさんは言う。
「ウキウキしながらって、何で?」
本気で訳が分からない俺にゴトウさんは、当たり前の様に「甲斐さんですよ、甲斐さん!」と言う。
「あっ!」
思わず声が出てしまう。
忘れてた。
甲斐に借りた洗濯物を返すついでに、やつからやつの情報を聞き出す約束をゴトウさんとしていた事を完璧に忘れていた。
スロットの大フィーバーで豪遊を決め込んでゴトウさんとの約束の事何て吹き飛んでいた。
「あー、悪かったよ。ちょっと野暮用が出来て」
適当な嘘で誤魔化そうとする俺だったがそんな事でゴトウさんは誤魔化されなかった。
「片葉君、嘘ばっかり。あなた酔っ払ってるでしょう? 酔っ払いに出来る野暮用って何なんですか?」と追求の体制を崩さないゴトウさん。
「すんません。飲んでました、ずっと」
嘘は通用しない事が分かると俺は素直に告白、謝罪をした。
そんな正直者の俺にゴトウさんは大激怒。
「酷いです! こっちは真剣なのに……甲斐さんの事が知れるって楽しみにしていたのにっ……うっ、ううっ」
ゴトウさんの目の下に涙が溜まる。
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