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第62話 四の怪2

「兎に角、元に戻してくれよ」  自分でも悲惨だなという声が出た。 「そんな事言われても、どうしていいのやらですよ」  無責任なゴトウさんの台詞に俺は驚愕する。  そんな事ってあり得るか? 「何でも良いから兎に角、俺の体から出て行けよ!」 「うわっ、うるさいっ……分かりました。何とか頑張ってみます」  そう言ってゴトウさんは、「えいっ!」と気合を入れた声を上げた。 「……何も起こらないぞ」と俺。 「あれ? 戻らないな」とゴトウさん。 「もう一度、何かやってみます」  真剣な面持ちでゴトウさんは言う。  どれくらいの時間が経っただろう。  ゴトウさんは奇声に近い様々な掛け声とポーズを気合を入れて繰り返していた。  しかし、俺達は元には戻らなかった。  もう一生このまま何だろうか?  これじゃあ、俺の方が幽霊じゃねーか。  こんな事ってあって良いのか?  世の中、どうなってるんだ。 「ううっ。疲れた」  ゴトウさんは、バタリとソファーに身を投げた。 「おい、疲れた、じゃねーよ! 諦めるのか? 俺はどうなる!」 「騒がないで下さいよ! 頭痛い。こっちだって一生懸命なんですよ!」  ゴトウさんは両手で頭(俺の頭なんだが)を押さえて激しく左右に首を振る。 「もう疲れた。限界だ」  ネガティブな台詞を吐いてゴトウさんは身を伏せた。 「ちょっ! 限界だ、じゃねーよ! 俺の体返せ! 今・す・ぐ・に!」 「あーっ、うるさい! こんな騒がしい体、こっちの方こそ願い下げですよ! もう嫌だ、こんなのぉーっ!」  ゴトウさんは立ち上がり、絶叫した。  キーンッと声が部屋に響く。  その瞬間、俺の意思はジェットコースターかと思われるほどの高速で俺の体の中に吸い込まれた。  その勢いに、「うわっ!」と声を漏らした。  その声は紛れもなく、俺自身が俺の喉を使って出した声だった。 「も、戻った?」  目をパチパチさせる俺。  ゆっくりと腕を動かしてみると自分の思う通りに動く。  指も、足も、肩も……自分の思う通りに動かせる。  俺は戻ったんだ。  自分の体に。 「おい、ゴトウさん!」  ゴトウさんの姿を探して辺りを見回してみると、床にぐったりとして倒れているゴトウさんの姿があった。  俺は、思わずゴトウさんに駆け寄り、ゴトウさんに触れようとした。  しかし、触れようとしたその手はゴトウさんをすり抜ける。 「やっぱりこいつ、幽霊だ」  触れることが出来ない幽霊のゴトウさんを介抱できる訳もなく、俺はただ、その場に蹲り、ゴトウさんが、幽霊にそんな物があるのかは知れないが、意識を取り戻すのを、じっと待った。  しばらくして、ゴトウさんは目を覚ました。  ゴトウさんはとても疲れてる様に見える。  俺に憑依して消耗したのだろうか。

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