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第61話 四の怪1
リビングの一人掛け用のお気に入りのソファーに俺の姿をしたゴトウさんが、ちょこんっ、と座っている。
それを俺は感じている……。
あー、俺、ソファーに座っているんだな、っと漠然と感じる。
そんな感覚だった。
俺の意識は俺の体の外側にあって俺の体の中には無い。
でも、俺の体と俺の意思はそう離れていない所にある。
そんな何とも説明し難い状態。
「あの、これって本当に何なんでしょうか?」
俺の体を乗っ取っているゴトウさんがそう言う。
訊かれて俺はだいぶ冷静になって……しかし、まだ少し混乱してもいたが考えた。
そして、あるオカルト的な現象に思い当たる。
「憑依って言うやつじゃないか?」と。
「憑依?」
俺の体でゴトウさんが首を傾げる。
「ああ。聞いた事無いか? 狐憑きとか、後、悪魔憑き、みたいなものを」
俺が言うとゴトウさんは、うーんっ、と唸り、「ああっ!」と言って手を打った。
「何か、映画で見た事あります。悪魔憑き。悪魔が女の子の体に憑りついていて女の子が豹変しちゃうってやつ」
「それだ。正確に言うと、悪魔が女の子の体に憑りついている状態。つまり憑依。それと同じ現象が俺達の間に起こってるって事だよ。悪魔憑きは悪魔が人間に憑依してまるで別人の様になっちまう現象を言うんだ」
インチキ霊能者の仕事で仕入れたネタを華麗に披露する俺。
「ええっ?」
俺の言った事に派手にビックリしているゴトウさん。
「何か、片葉君、凄く詳しいんですね。オカルトマニアですか?」
予想外の台詞に俺は、「はぁ?」と言う。
「誰がオカルトマニアだ。まぁ、そういう仕事をしてるから、その手の知識は自然と高まるってーの?」
「えっ? 片葉君ってひょっとして霊能者か何かですか?」
ゴトウさんが派手に驚いて見せる。
「うっ、まあ……そんな所かなぁ?」
正解はインチキ霊能者だが、そんな事は口が裂けてもばらせない。
こいつ、正義感強そうだからインチキだなんてばれたら何かと非難されそうだ。
「凄いんですね。あ、だから僕の姿が見えた、とか?」
ゴトウさんは感動しきりという感じだ。
「えーっと……まあ」
ここは兎に角とぼけるしかない。
しかし、何で本当に俺なんかにゴトウさんの姿が見えたんだろう。
不思議だ。
そんな事は兎も角。
「お前、憑依が出来るなんて聞いてないぞ! やっぱり悪霊か?」
「そんな。何だか分からないけど、片葉君の気持ちが嬉しくて抱き付きたい気持ちになったらこうなっちゃっただけで憑依しようだなんて考えた事ないですし。それに、こんな事初めてですよ。悪霊とかって酷いです」
ゴトウさんの目がうるうると潤んでいる。
俺はそんな様子を見て深海より深いため息を付く。
「今現在、俺の体を乗っ取ってるじゃねーか! 十分すぎるほど悪霊だろ!」
「うわっ! 片葉君、うるさい! 頭に響くから怒鳴らないで下さい!」
「そう言ったって……はぁ……」
ゴトウさん的には俺の声は頭の中で聞こえている状態らしい。
知るかって話だが。
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