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よくできました 5

* 緋音さんが帰ってきた。 やっと、やっと。 二ヶ月って話しだったのに、思った通り予定は延びて。 オレは緋音さんが帰ってくるのを、今か今かとずっと、ずっと待っていたのに。 会いたくて我慢できなくて会いに行ってしまって、その後二ヶ月くらいだった頃、何も連絡くれず。 電話も出てくれないし、メールも返してくれないし、下手したら倒れてるんじゃないかって、心配で堪らなくなって再びロンドンに行く手筈(てはず)を整えていたら、いきなり帰国するってメール寄越してきた。 オレは生きていたことに心の底から安堵(あんど)しながら、諸々の予定を全部組みなおして、手配し直して、緋音さんが帰国する日に備えていた。 だいたい、普通はマネージャーも一緒に行くと思うのに、どういう訳だか緋音さん一人で行ってマネージャーは日本にいるってのがよくわからない。 一応、現地のコーディネーターがいるからいいと思ったのか・・・。 オレなんか、あまりにも緋音さんに逢いたすぎて、死にそうで、離れてからたった2週間で数日だけだけど無理やり会いに行ったのに。 一人だとろくに食事もできないし、掃除や洗濯やゴミ出しとか片付けとかできない人だから、とにかく心配で心配で仕方なかった。 どうせずぼらな、人に見せられないような生活をしてるんだろうと、思って押しかけた結果、案の定、人並みとは言えない生活をしていた惨状(さんじょう)を見て愕然(がくぜん)とした。 ちらかっている訳ではなかったが、人間が生活している感じではなかった。 聞いたらやっぱり寝に帰ってきているだけで、ちゃんと『生活』をしている様子ではなかった。 こんなんじゃあ体を壊してしまうと思ったので、できる限りご飯を作って、めいっぱい冷凍して。 作り方のメモも残してきたけど、緋音さんがきちんと作って食べていたのか、不安しかない。 本当に・・・体調大丈夫なのか。 何も言ってこないから大丈夫なんだと思いがちだが、緋音さんに関してはこれは当てはまらない。 どんなに体調悪くても何も言わない。 言わないでいきなりぶっ倒れる人。 だから誰かが側にいて気をつけて見てなきゃいけない。 日本にいてくれればオレがきちんと管理して、あれこれと面倒をみてあげられるんだけど、ロンドンまで行かれたら、無理だった。 本当は、本当は一緒にいたかったし、何とかして緋音さんの渡英に同行できるようにしたかったが、さすがに調整できない仕事があったし、全部のスケジュールをリスケできるわけもなく。 泣く泣く緋音さんを一人で送り出して、毎日毎日、何時間も、何分も。 幾万秒も。 やきもきしながら待っていた。 死にそうな淋しさを我慢して。 爆発しそうな嫉妬を抑(おさ)えて。 溢れそうな情欲を我慢して。 ずっとずっと、待っていた。 このままロンドンに住むって言い出さないか不安になりながら。 緋音さんを乗せた飛行機がやっと到着して、空港の到着口に迎えに行って、ゆっくりと現れた緋音さんを見た時に、そんな不安が淋しさなんかどうでも良くなってしまった。 ただただ、会えた喜びと、帰ってきてくれた嬉しさと、オレを見つけて微笑んでくれる愛おしさしか感じなかった。 会いたかった。 逢いたかった。 会いたかった。 逢いたかった。 あいたかった。 あいたかった。 会いたかった。 逢いたかった。 会いたかった。 逢いたかった。 あいたかった。 あいたかった。 あいたかった・・・。

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