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第7話「どうやって生きていたんだろう?」

《悠生視点》  理久に恋した悠生はまず、大学での身なりや行動を改めた。    中学の頃からやたらとSubにモテ、Domの嫉妬で問題に巻き込まれることが多かった悠生は、学校ではもさい髪型、黒縁メガネと決めていた。  制服は、サイズ感が合わない丈の短いズボン、ぶかっとしたブレザーに、変に着崩したシャツ。  私服の時も、なるべくダサくなるように心がけていた。  なるべくDomに見えないように。  DomじゃないのにSubから期待をかけられるのも、Domから謂れのない理由で嫉妬心を向けられるのも面倒だった。  しかし、理久に良く見られたい。そんな欲求が自分の中に芽生え初めてからは考えが変わった。  勝手な期待も、勝手な嫉妬心も面倒であることには変わらないが、どうでも良くなった。  ただ理久の目に止まりたい。  理久はSubが嫌いなようだし、仲良くなるにはこの見た目はちょうどいい気がした。  それからはなるべくいい印象を持って貰えるように身なりは整えたし、理久には敬語を使うようにした。  なるべくキッカケを見つけて話しかけにいこうとしたし、ミスターコンの参加者欄に理久の名前を見つけた時は、滑り込みだったが参加申請をした。  好きになってもらおうなんて高望みはしない。  ただ、仲良くなりたかった。  だからミスターコンが終わった後、避けられたのはショックだった。  そして段々と理久に声をかける勇気がなくなり、そして学年が二年に上がった。  理久のことを相談していた百合が同じ大学に入学してきて、仲良くなったとか言って理久の隠し撮り写真を送ってきた時はスマホをぶん投げたくなった。  理久の家族構成だとか、好きなものだとか、なんて有益な情報をくれるんだろう!  じゃなくて、『今から理久とDom/Subバー行ってくる』と、連絡が来た時は、心臓が飛び跳ねそうだった。 『兄さまも来たいなら来れば?』  という言葉と共に送られてきたお店の位置情報に悠生は家を飛び出した。 『奴隷みたいに都合のいい奴しか、パートナーにしません!』  そして気づけば理久の言葉を聞き、跪いていた。  その店の店長さんっぽい、百合と理久の仲裁をしていた人が場を仕切り直してくれ、悠生、理久、百合はテーブル席に座った。  奴隷みたいに都合のいい奴しかパートナーにしないということはつまり、都合が良い奴ならパートナーにしてやってもいいということだ。  欲が出た。  理久の恋人にはなれなくとも、パートナーにはなれるかもしれない。理久の発言を聞いてそう思ってしまった。  悠生は理久に、自分はSubであること。パートナーになりたいことを伝えた。  しかし答えは、無理の二文字。 「私のこと、どんな扱いをしてもらっても構いません。元々Subとしての欲求は少ないですし、メンタルが強いのでサブドロップすることもないと思います」  そう食い下がると、言葉の最後の方で理久と目が合った。難しい顔をしていた表情が少し和らいでいた。  しかしそれも一瞬で、「無理」の一言を言うと、また難しい顔に戻ってしまった。  その後も、パートナーが無理でも友達は? と聞いてみたり、奴隷じゃなくて下僕になりたいと言ったから、拒否られたのかと、奴隷は無理矢理従わされるもので、下僕は自ら志願して従う。だから、下僕になりたいのだと力説してみたが、特に答えが変わることはなかった。  そしてその場はお開きになり、悠生は絶望した。  そりゃそうだよな。こんな理久よりも身体のデカい、しかも内心じゃ下心満載の男なんかパートナーにしたくないよな。  次の日は大学に行く気があまりにも起きず、休んだ。そして、土日を挟んで月曜日。朝から憂鬱で、何もやる気が起きず、髪も寝癖がついたボサボサのまま、通学した。  周りのギョッとした目が突き刺さる。でも、そんなことどうでもよかった。 「せん……ぱい……みなみの……せ……ぱい……」  もうこの恋を終わらせなければいけない。そう思うほどに、心が辛くなっていく。  三日前までの自分は、どうやって生きていたんだろう?

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