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第1話

 吐く息が白い。鞄を持つ手が冷たくなって、かじかんでいる。 ――すっかり冬……だなあ。  どこからか、懐かしのメロディが流れてくる。毎年この時期になると必ず聴く曲だ。確かもう数十年も前の流行歌じゃなかったか? あまりにもよく耳にし過ぎて、たったワンフレーズ耳にしただけで、全部の歌詞が自動的に脳内再生され、一日中ぐるぐると同じ曲が頭の中に流れ続けるという、恐るべき現象が発生する。そんな風になるのは俺だけなんだろうか? よくみんな文句も言わずに、何十年も同じ曲を聴き続けてるもんだと感心してしまう。  買い物客で混雑する師走の商店街を足早に抜けて、次の目的地へ急ぐ。今日は午後から別の会社で商談がある。ランチもファーストフード店のセットメニューで手早く済ませた。街の中はクリスマス一色だ。赤や緑や金色のキラキラの飾りが否応なしに目に入ってくる。クリスマス用の飾りを店頭に並べてある雑貨屋の隣には、正月用品がすでに売られているのが日本らしい光景だ。明らかに便乗商法だな、なんて店もあれば、可愛らしく飾り付けられたツリーが置かれたケーキ屋のガラス窓には、クリスマスケーキ当日販売あります、なんて張り紙がしてある。予約を忘れた親が子供のために慌てて買いに来る、なんて事もあるんだろうな……と横目に見ながら歩いていたら、突然後ろから肩を叩かれた。 「おい、菊池」  聞き覚えがある声にどきり、として振り返る。 「……西内」 「久しぶりだな。元気か?」  西内は俺の顔を見てそう言った。

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