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ゆき・アフターケア

「ゆき…終わったけど、立てるか?」 「……むり。目がまわる」 か細い声でふりしぼるようにゆきは首を緩くふった。 ぐるぐると目がまわってひどい吐き気がする。 冷や汗が出て気分が悪い 「先生、この子顔面真っ青です」 少年かと思うほど見た目の若いケーシー姿の医者が心配そうに見ている様子だけど、視界がぼやけてよく見えない 「あの、迷走神経反射って言われたことある?えと…ゆきくん」 「はい。一時的なものだからすぐなおるって…だからこれは嫌い。痛いし」 「それなら起きずにそのまま待つか…。そんなんになっちまうのに紫藤先生はアフターケアしないんだもんなぁ。ちょっと局長にちくっとくことにする」 「あのアフターケアって?ぼくされたことあったっけ?」 「みぃ。一応アフターケア、おまえもされてたよ。てか、してたつもり。検査も治療ももちろん大事だがそれに入るまでのケアや終わったあとのケアが大事だ。アフターは相馬がうまいからまた習っとけ」 「分かりました」 「お、ゆき?焦点あってきたか?」 佐久間がゆきに手を伸ばしポンポンと頭を撫でた 「よく頑張った」 ふっとゆきはほほえみ、佐久間を触った 「紫藤先生好きじゃない…佐久間先生がよかったな」 「そういうなよ。注射はあの先生がいちばんうまいんだから」 「先生?お願い…ぎゅってして?」 「体、起こすぞ?大丈夫か?」 「うん。大丈夫」 床に座ってゆきが答えるとふわっと白衣がなびいて抱きしめられた。 「はぁ…佐久間先生のタバコの匂い好きだな」 「おまえ鼻が効くな」 「紫藤先生は…消毒の匂いで怖い。そっちの若い先生は飴の匂いがする」 「えっ!よく分かったね?」 未羽はポケットからイチゴの飴を取り出し、ゆきに握らせた 「いい子にはご褒美」 「ありがとう」 「お前…飴、いまだに持ってるのか?変わらないな。てか、しっかりアフターケアされたの覚えてんじゃん」 「だね。よく先生からもらったね。飴」 「みぃ、血糖値ここのところ大丈夫か?」 「a1c6.4だから微妙かも」 「ちゃんとコントロールしろよ?まったく」 「先生たち仲良し?」 「え!違っ。こんなアクマと仲良いわけないしっ」 「アクマってお前なっ」 「わっやべ。ゆきくん助けて。この人すぐ尻叩くから嫌いなんだよ、ぼく」 「ははっ先生っておもしろいかも。なんていうの?」 「遠野だよ?遠野未羽。よろしくね」 「うん。よろしく未羽先生って呼んでいい?」 「いいよ?」 こうしてぼくの医師としての1日目が始まった

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