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ゆき・アフターケア
「ゆき…、注射終わったけど立てるか?」
「……むり。目がまわる」
か細い声でふりしぼるようにゆきは首を緩くふった。
ぐるぐると目がまわってひどい吐き気がする。
冷や汗が出て気分が悪い
「先生、この子顔面真っ青です」
なんで、高校生が…??
でも、歯医者みたいな格好してる。あれってたしかケーシーとかいう服。研修医の先生が着るやつだった気がする
未羽の幼く見える容姿に自分と変わらない歳くらいかと思いきや、白いケーシーを着ているのが不思議でゆきは未羽を見つめたが、視界がぼやけてよく見えなかった。
焦点の合わないゆきに未羽は自分の経験を思い出し
「あの…もしかして、迷走神経反射って言われたことある?えと…ゆきくん」
「はい。一時的なものだからすぐなおるって…だからこれは嫌い。痛いし」
「やっぱり…ぐるぐるして気持ち悪いね?」
「それなら起きずにそのまま待つか…。そんなんになっちまうのに紫藤先生はアフターケアしないんだもんなぁ。ちょっと局長にちくっとくことにする」
「あ、あの佐久間先生?アフターケアって何?ぼくされたことあったっけ?」
「みぃ。一応アフターケア、おまえもされてたよ。てか、してたつもりなんだけどな?」
「そうなの?あんまり覚えてないや」
ばつが悪そうに佐久間は頬を掻き
「検査も治療ももちろん大事。けど、それに入るまでのケアや終わったあとのケアはもっと大事。なんだけど…ぶっちゃけ俺はうまくない。アフターは相馬がうまいからまた習っとけ」
「分かりました」
2人のやりとりをゆきが眺めていると、その視線に佐久間が気づき
「お、ゆき?焦点あってきたか?」
佐久間はゆきに手を伸ばしポンポンと頭を撫でた
「よく頑張った」
ふっとゆきはほほえみ、佐久間を触った
「紫藤先生好きじゃない…。佐久間先生がよかったな」
「そういうなよ。注射はあの先生がいちばんうまいんだから」
「先生?お願い…ぎゅってして?」
「分かった。体、起こすぞ?大丈夫か?」
「うん。大丈夫」
床に座ってゆきが答えるとふわっと白衣がなびいて佐久間はゆきを抱きしめた。
「はぁ…佐久間先生のタバコの匂い好きだな」
「おまえ鼻が効くな」
「紫藤先生は…消毒の匂いで怖い。そっちの若い先生は飴の匂いがする」
「えっ!よく分かったね?」
未羽はポケットからイチゴの飴を取り出し、ゆきに握らせ
「いい子にはご褒美だよ」
「ありがとう」
「みぃ、おまえ…。飴、いまだに持ってるのか?変わらないな。てか、さっき覚えてないとか言ってしっかりアフターケアされたの覚えてんじゃん」
「だね。よく先生からもらったね。飴」
「みぃ、それはそうとさ。血糖値はここのところ大丈夫か?」
「a1c6.4だから微妙かも」
「ちゃんとコントロールしろよ?まったく」
「先生たち仲良し?」
「え!違っ。こんなあくまと仲良いわけないしっ」
「あくまってお前なっ」
「わっやべ。ゆきくん助けて。この人すぐ尻叩くから嫌いなんだよ、ぼく」
「ははっ先生っておもしろいかも。なんていうの?」
「遠野だよ?遠野未羽。よろしくね」
「うん。よろしく未羽先生って呼んでいい?」
「いいよ?」
こうしてぼくの医師としての1日目が始まった
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