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佐渡回顧録 2 〝由宇 37歳編〝

目の回るような忙しい後期研修もあとわずかの頃だった。 当時、俺は29歳。名前も知らない綺麗な青年と擦れ違い、今思えば彼に恋をした。 食堂や廊下で出会すことも多々あり自然と目で追い、いつも独りでいるその彼が気になり声をかけようかと思いはしたがあちらは地獄のような実習の真っ只中でとてもそのような雰囲気はなく諦めていた。 どこかの国の血が入っているんだろうか? そう思わせるほど全体に色素が薄く、眼鏡の向こうの瞳も薄い茶色で目立った。 「佐渡くんいいかな?」 「瀬谷先生どうされたんですか」 後ろから声をかけられて振り返るとまだ若く当時は外科に所属していた瀬谷がいて、にこやかな笑みを浮かべながらこちらへと近づいてきた。 「後期研修は順調かい?」 「はい」 「それは良かった。今日は先日交通事故で運ばれた佐久間由宇(ゆう)くんの抜糸をしにいこう」 「ぜひ、お願いします」 患者の元へと向かう最中、俺は紫藤とすれ違った 自然とまた目で追ってしまう。 それを見た瀬谷は首を傾げた 「どうした?」 「あ、いや…今の彼、最近よく見るんですがちょっと気になってて。って言っても名前も知らないんですけどね」 「あ〜確か……紫藤くんだったかな?いま5年生でこの間見学に来ていたが、なかなか丁寧に文字を書く子で熱心に実習に取り組んでいる」 「しどう…」 この時はじめて苗字を知った。 まだこの時は一緒に働ける日が来るとは思わなかったが、紫藤が未分化少年特殊治療棟に配属された時は驚きと嬉しさで興奮した。 ・ ・ 「佐渡、ようやく補充が入る」 この頃には瀬谷に呼び捨てにされていた。 後期研修が終わった後は泌尿器科医として2年勤め、3年目に少年棟へ転属になり それから2年間が経ち紫藤の転属が決まった。 「え?少年棟に補充ですか?」 「ああ。あの頃のおまえと同じでまだ3年目だが彼は注射の腕がいい。俺と祖父江(そぶえ)だけの時は日常業務をこなすのでいっぱいいっぱいだったが佐渡が来て助かった。これに紫藤が加われば患者へのケアも十分にしてやれる」 「しどう!?」 「ん?ああそうだが知り合いだったか?」 瀬谷は首を傾げた 「あ、いや…食堂で会う程度ですけど顔見知りで」 「そうか。それはよかった」 1ヶ月後、紫藤が来た日… 「本日付けで内分泌内科からこちらへ転属になりました紫藤です」 「久しぶり。一緒に働けて嬉しく思う」 「は?あなたにお会いしたのははじめてですが…」 「え?食堂とかで5年くらい前から隣合ったりしてるが?」 「……」 紫藤は無視してカルテ置き場へと向かった。 その様子に目が点になる佐渡を見て瀬谷は頭を掻いた 「まあ…見ての通りちょっと癖のある先生だが先輩として面倒みてやってくれ」 はじめての会話はこんなだった。 たしかに変質者かもしれない…

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