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第1話

「おいで」 そう優しく言われるだけで、穴が濡れる。 自分から服を脱ぎ捨てて、その人が広げる腕の中に入るのが好き。 「可愛いね」 優しく囁かれる。 可愛くなんかない。 こんな自分を愛してくれているのは、この人だけだとわかってる。 「可愛いよ」 優しい声。 そして、そうなんだと教え込むようにユキの髪をかきあげ、ユキが隠している醜い火傷の跡に舌を這わす。 ひきつれたそこは感覚がないはずなのに、その人にそうされてしまうと、ユキは感じて、孔から滴らせてしまう。 傷もののオメガ。 顔半分に酷い傷がある そんなオメガを愛してくれるのはこの人だけだ。 「可愛いんだ、本当に」 その声は愛しげで苦しそうでもあった。 もう開かないまぶたまで何度も何度もなめて、愛してると抱きしめられる。 「可愛い。本当に可愛いんだ」 囁かれる声は嘘ではない、と知ってる。 醜い顔半分さえ、この人はそう本気で思ってくれている。 とてもオメガをアルファが抱くとは思えない程の優しさをみせて、この人はユキを抱く。 アルファの欲望を受け取るのがオメガの役目なのに、ユキをそんな風にはこの人は扱わない。 この顔なので、番にはしないがオメガを抱きたいアルファ達の相手をする仕事をしてた。 アルファも色々あるのだ。 番が病気だとか、それこそ番を怒らせたとか、そうそれこそ番が死んでしまってまだ新しい番など考えられない、とか。 ベータをパートナーにしているアルファも客には多い。 ベータではアルファの欲望を全て受け入れられないから、処理のためにオメガが必要だったりする。 ベータ等とは較べものにならない、強い欲望を持つアルファのためだけのサービスは存在している。 アルファのための仮のオメガだ。 一時だけの。 だが余程のことがないならアルファはこのサービスを利用しない。 アルファは一度でも抱いたオメガに執着するからだ。 それが番でないとしても。 アルファのオメガへの執着は凄まじいのだ。 自分が抱いたオメガに生まれる執着の危険さはアルファも良く分かってて、このサービスを利用するのは余程のことで、大抵は本気の欲望をぶつけるには物足りないないが、ベータで遊んで誤魔化している。 まあ、アルファがベータで遊ぶのはその事自体が楽しいところもあり、アルファのお気に入りの遊びの1つだし、ベータも支配者のアルファに抱かれることにステイタスを見出していたりはする。 アルファなら抱けるベータに困らないのだ。 だから、アルファ相手のオメガは、相当何かあるアルファのサービスで、でもその相手に執着をしたくはないからこそ、ユキの焼かれた顔は喜ばれた。 醜いオメガなら執着しなくてすむからだ。 ユキの顔を焼いたのはユキが番になるのを断ったアルファで、誰かに盗られるくらいなら殺そうとしたのだ。 もちろん、それは許されることではなく、アルファは処刑された。 貴重なオメガを傷物にしたのだ。 まだ誰のものでもないオメガを。 極刑だった。 だがそれでユキの焼かれた顔がもどるわけではなく。 ユキは訪れる発情期や、オメガあること関係なく顔が焼かれた人間に厳しい社会のせいで、生きるためにアルファの処理という仕事についた。 アルファ達は少しでも執着を無くすためにユキの顔を見るのを好んだ。 アルファ達は本能的にオメガに優しいから、アルファ特有の激しい性行為はあったけれど、街を歩いててベータにされるような蔑みはなかった。 でも、夢中になってユキを喰らいながら、ユキの顔を見て、どこかホッとしているアルファ達に、ユキは軽蔑も感じていた この人も最初はそうだと思ってた。 ユキを何度も指名して。 でもいつも誰より優しく抱いて。 優しくてでも逃がさないようなセックス。 ユキが好きな感じにしかしなくて、でもやめてもらえないような。 おかしくなったのはユキの方だった。 アルファとしてたらオメガだから、どんなアルファでも感じられるけど、何度も優しく抱かれて、その人の時は胸が痛くて泣いてしまうようになった。 お金を貰ってするセックスしかした事がない人間にしかわからない痛みだった。 皆がホッとして、でも、 痛ましそうに見るユキの顔に、舌まではわせたのはこの人だけで。 泣いてしまった涙を指で優しく拭いながら、ユキの顔の火傷を舐め上げ、この人はさらに優しくユキを抱いたのだ。 お金を払ってわざわざどこまでも優しく。 無意味だから普通はしない。 何故ならオメガはどんなアルファとしても快楽は得られるのだ。 そうオメガは出来ている。 アルファとセックスするためだけに。 ベータ達同士が、「感じてるフリ」をしなければならない卑屈のもの、ああいうものはアルファとオメガにはないのだ。 そう、アルファとの仕事でするセックスでも、オメガの本能は満たされる。 アルファの酷さ激しさを受け入れるために、オメガはあるのだ。 それを楽しめるように出来ているのだから。 でも、欲しかったのは快楽や満たされることじゃないことをユキはその人に教えられた。 「可愛いよ」 そう囁かれながら、揺さぶられる甘さ。 「何でもしてあげる」 して欲しいことを、見つけ出されして貰えるこの満たされる感じ。 ユキは感じて泣くのではなく、ただ切なくて泣いてしまったのだ。 仕事中に号泣した。 困ったように抱きしめられて、「キスしていい?」と聞かれてまた泣いた。 欲望と処理ではない感情のやり取り。 快楽じゃないもの。 それが欲しかったのだと、分かってしまって。 そんなものは顔が焼かれたオメガにはもうないのだと思ってた。 オメガはアルファに抱かれたなら、相手が誰でも感じるし、それはアルファも同じだ。 アルファという特殊や種族とオメガというそのための種族。 奇怪で歪んだ繋がりだと、ユキは思っている。 番等というシステムも でも、何度来るその人が、「番になって欲しい」と言った時、ユキはそれが嬉しかった。 その人をもう自分のモノにしたかったから。 執着してたのはユキの方。 自分から項を差し出したのにその日はもう抱かないで、抱きしめて眠るだけだったことも。 次の日には全てが整えられた部屋に連れて行かれたことも。 ユキはしたいことをしていいんだ、と言われたことも。 ユキがしたいことは何でも手伝う、と言ってくれた。 夢みたいだった。 ユキを選ぶアルファがいるなんて。 静かにしばらく暮らして、ユキがそこになれるまで抱こうともしなかった。 ユキがしたい時でいいよ、とすら言う。 抱きたいのはもちろんだけど、とも笑ったけど。 一緒に寝ている時ユキから抱きつき、抱いて欲しいと言った。 「おいで」 優しく言われて自分からその腕に飛び込んだのはその日からだ。 どこまで優しいセックスは、ユキを番にしても変わらなかった。 ユキを番にする時、その人も震えていたことも覚えている。 全部ユキには忘れられない。 優しくされた。 優しすぎて逃げだしたくなるくらいの抱き方しかされ なかった。 優しい腕の中で、何度ももう殺して欲しいと言った。 これを失うくらいなら死んでしまいたいと思ったから。 「殺さない。ユキを殺すはずがない」 真剣に言われた。 「ユキには優しくしたい」 が口癖で。 ユキを抱くアルファ達はみんなワケありだった。 こんな人にどんなワケが?と思った。 きっと大事なオメガが死んだとかなのだろう、そう思った。 醜いからユキを喜んだアルファ達の中でその人は特殊で。 これが運命の番? とか思った。 こんな醜い自分を愛するなんて。 番はどこまでも優しかった。

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