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第2話

どんどん優しくなる以外はなくて、番はユキを甘やかすことしかしなくて。 ユキは番を好きになっていくしかなかった。 顔の醜さを忘れた。 番が傷痕を舐めとってくれたから消えたのだ。 少なくとも2人の間では。 むしろそれはさらにユキを美しく飾るもの、くらいに。 番はユキの傷を愛した。 ユキだから、と。 ユキも顔を舐められるだけで感じてしまうようになっていた。 ユキを抱きしめてねむる。 ユキなら抱きしめるだけでもいい、と強い欲望をもつアルファがいう。 本気だとわかる。 でもボクもあなたが欲しいんだ。 ユキも言う。 アルファじゃなくてあなたが、と。 アルファなら誰でも同じだなんて良くわかっているからこそ。 「おいで」 そう言われて始まるセックスがユキもたまらなく好きだった。 「優しくしたいよ、ユキ。ユキだけには・・・」 なんで番はあんなに苦しそうにそう言ったのだろう。 番はちゃんと両親にも会わせてくれた。 だけど、弟には会わせられない、と言われた。 弟が不安になってしまう、と。 オメガである弟を番が大切にしていることは分かってた。 オメガが色んな不安を大人になる前に抱えてることはユキも知ってたから納得した。 愛するアルファである兄を同じオメガに奪わられるのは辛いのだろう。 まだ、14歳。 オメガが発覚して4年目だ。 その辛さはわかる。 オメガを嫌うのもわかる。 そんなものになりたくなかったのも。 ユキもそうだったから。 たまに1人で実家に帰るのを理解した。 弟はオメガとアルファのための学校にいくのも拒否しているのだと。 番は苦笑いした。 その弟の気持ちはわかった。 「優しくしてあげてね、あなたは優しいけど」 ユキは言った。 番は言った。 「オレが優しいのはユキだけだよ」 そして、本当に優しくユキを抱いた。 「可愛い、ユキ」 何度も言われ、壊れた顔を舐められ、優しく愛された。 アルファの激しさに慣れきった身体には、その優しさは強い刺激以上に感じてしまう。 「ゆっくりしよう、ユキがおかしくなるまで」 優しく言われる。 もどかしいほどのでも優しいそれを永遠のように繰り返されたなら、どんな風になるのかなんて誰も教えてくれなかった。 セックスだけじゃない。 ユキが子供を欲しがらないからそれを尊重してくれた。 ユキの望む通りに、と。 子供を産ませたがるのがアルファなのに。 ユキが家で人と会わずに出来る仕事を探すのも、色々考えてくれたし、そのためのスキルを手に入れることも助けてくれた。 ユキが番に養われるモノになりたくないのを理解してくれたのだ。 支配的な気持ちを愛されたいから、必死で耐えるアルファ達とは番は随分ちがった。 「愛してる、ユキ」 番はそう言って優しく抱きしめる。 「ユキは・・・モノじゃないんだ。ユキはちがう」 そう言って、服を脱がす時さえ、そっと優しく扱う。 決して支配しなかった。 支配的になりそうなセックスの時でさえ、ユキの傷を舐めながら耐えているのを感じた。 「いいのに」 と言ってみても、番は首を振る。 「ユキを支配なんかしない」と。 傷を舐め、くるしそうになりながら、でも耐えて、耐えながら優しくして、でも「それが良いんだ」と言う。 アルファにも色々あるんだな、と思った。 ベータと結婚したアルファは客に多かった。 ベータのパートナーに出来ないことをユキにするために来てた。 「愛してるから、こんなこと出来ない」 そう言ってた。 何故かオメガの、どんなに好きにしても大丈夫な、そうされても構わないバートナーがいるのに、番だけはセックスを優しくすることだけに拘った。 でも。 それが好きだったから良いと思った。 「優しいあなたが好き」 本気でいったら、何故かその時だけは少しだけ激しく抱かれた。 本当に少しだけだったけど。 「オレが優しいのはユキだけ」 何度も言われて、何だかうれしかった。 でも。 そんな生活は終わった。 幸せな何年かの後。 「ユキ、どこでも行っていいよ」 番が言った。 意味がわからなかった。 「オレから自由にしてあげる」 それだけだった。 説明すらなかった。 有り得ないことだった。 アルファがオメガを棄てるなんて。 アルファは自分の番を手放すのは、番が死んだ時だけだ。 そういう風にアルファは出来ている。 逃げたオメガを殺すアルファはいても、オメガを手放すアルファはいない。 アルファのオメガへの執着は本能のレベルなのだ。 「もう追わないよ。大丈夫」 そう言って、いつものように優しくわらって、番は去った。 沢山の貯金と部屋は与えられていた。 2度と来ないことだけが事実だった。 番は最後にユキの醜い傷痕を唇と舌で愛した。 「ユキ。愛してる」 それ以上は何も言わなかったし、ユキには追いかけることさえゆるされかった。

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