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 12月の24日ともなれば、世間は随分と浮ついた雰囲気になる。  「浮ついた」という部分は僕も同じだけど、気分の方向は多分、真逆だね。  朝早くから、スマホとにらめっこ。コールボタンを押そうとして、やめる。それを何回繰り返したことか。  学校は今日から休み。今日もあればよかったのに。  押せないでいる画面には、真峯奏鳴(まみね・そなた)という名前が表示されている。  僕の親友。多分だけど。  去年も一昨年も、この日は学校があった。だから学校で会って、しゃべって、そのまま街へ繰り出して……  今年はそうじゃない。もちろん学校が休みだということもあるけど、指が動かない理由がもう一つある。この数日、ソナタの様子がおかしかった。  理由が分からない。喧嘩したわけじゃないのに、なんだか突然素っ気なく、冷たかった。  昨日は二学期最後の日。でも、ソナタは僕を避けていて、結局碌に話もできなかった。  電話しようにも、なんか、気まずいよね。  ふと、思う。  ソナタ、もしかしたら『彼女』ができたんじゃないのかな。  ソナタは、背はそれほど高くはないけど、活発で優しくて、でも男気もある。クラスでも結構もててたから、彼女ができても不思議じゃないよね。  僕の願い。そもそも、叶うわけがなかったんだ。  そう考えると、気が楽になる。そう、これで終わりにしよう。友人関係を恋人関係と勘違いしていた、僕が道化ものだったに過ぎないんだから。  スマホの画面を押すと、すぐにコール音がし始める。でも、その音を聞いた瞬間、途方もない程の後悔が押し寄せてきた。  慌てて電話を切ろうとして、でも切る前にコール音が途絶える。  なんで? 電話を取るのが早すぎる…… 「何だよ、カナタ。なんか用か?」  まだ少年っぽさが残る声、それがぶっきらぼうに僕の名前を呼んだ。さらに後悔が押し寄せる。 「あ、ソナタ。いや、えっと、そのね」 「俺と電話してる場合じゃないだろ。用が無いなら切るぞ」  ちょっと待って……そう言いかけて、ふと不思議に思う。  電話してる場合じゃない――どういう意味だろう。 「別に忙しくなんかないよ?」 「今日はクリスマスイブだぞ」 「うん」 「他に電話かけるやつがいるだろ」  ソナタが言おうとしてる意味が分からない。なんだか話がかみ合ってないみたい。 「ごめん、ソナタ。何を言ってるのか分かんないよ」  僕がそう言うと、ソナタはしばらく黙り込んでしまった。 「あの、ソナタ?」 「お前、告白られたの断ったんだってな」  それは突然だった。あまりにも突然すぎて、うろたえてしまう。 「な、何で知ってるの?」 「知ってるどころか、ここ数日、その話ばっかり聞かされたぞ。会うやつ会うやつ、みんな。ご丁寧にその時の状況まで、まるで見てたようにな」  一週間ほど前、確かに僕は後輩の女の子から好きだと告白された。「好きな人がいるから」と断ったんだけど…… 「そ、それはね」 「お前、好きな奴がいるだろ。今日はイブだろ、そいつを誘えよ」 「だから、それは断り文句で」 「かわいい子だったろ。なんで断ったんだよ。お前、前に『彼女が欲しい』って言ってたよな。断る理由なんて、他に好きな奴がいるからしかないだろ」  ソナタの口調は、まさに不機嫌の頂点だった。  それはソナタの誤解といえば誤解なんだけど、そもそもが、ソナタが不機嫌になる理由が分からない。 「いるにはいるけど、そうじゃないんだよ」 「何が違うんだよ。もう切るぞ」 「待って」 「じゃあな」  本気?  ソナタの素振りには、容赦というものが感じられなかった。  なぜ? 分からない。ソナタ、なんでこんなに変わっちゃったの? 「僕、ソナタが好きだから!」  言っちゃった。言わなきゃ、もう二度と電話できないような気がして。  でもきっと、言っちゃいけないことだったんだろうな……

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