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「なっ、ばっ、はぁああ!? お、お前、な、何言ってんだよ!」
あれだけそっけない調子だったソナタの口調が、突然、上ずったものへと変わる。
でも、それがなぜなのか。僕には、分からない。
嫌われたくない。
心の中ではそう思っているのに、頭が真っ白で、言っちゃいけないことが口からどんどん出ていってしまう。
「ソナタが好きなんだ。だから、断ったよ」
「お、お前、バカだろ!」
大きな声。僕の体がびくっと跳ねる。そのまま、のどが詰まってしまった。
しばらくの間、二人の間を沈黙が支配する。
何も言う言葉が見つからなくて、僕はただ一言「ごめん」とつぶやいた。
「お、俺は男だぞ」
「……うん」
「おま、お、俺に、お前の彼女になれっていうのかよ」
どうなんだろ。ソナタと付き合ったら、それは彼氏、彼女――どっちなのかな。
ずっと、ソナタと並んで歩く姿を想像してた。
ソナタと「誰かと付き合う」なんていう話題になったときもあったけど、もちろん、「ソナタと」なんか言えなくて、女の子の話をした。
でも、僕の頭の中には、ソナタが僕の横にいたんだよ。
……そっか。僕は、ソナタを「彼女」にしたかったんだ。
「……うん」
小さく返事をした。
スマホから、ソナタの荒い呼吸が聞こえる。
怒ったのかな。呆れたのかな。
もう、前みたいに一緒にはいられなくなるのかな……
「そ、そんな趣味、ね、ねーよ!」
プツッ、ツーツーツー……
あれだけ真っ白だった頭の中が、一瞬にして真っ黒になった。
何も見えない。何も考えられない。
ベッドに身を投げ出し、布団を頭からかぶった。
あふれてくる涙が止まらない。
なんであんなこと言っちゃったんだろ。好きな人なんかいないって、誤解だって、ただそれだけを言えば、ソナタはわかってくれたはずだったのに。
なのに、ソナタに「好き」だなんて。
男同士なのに。拒否られるなんて、分かってたはずなのに。
バカだ。僕はバカだ。
ゼロだとわかってた可能性を、コンマイチくらいはあるカモなんて考えてしまった僕は、なんてバカなんだろう――
と、優しい電子音がスマホから流れる。ソナタが好きな、かわいらしいJ-POP。
ばれると恥ずかしいから誰にも言うなって、ソナタがいつも僕に言ってた、歌。
はっとして、布団をはねのける。デスクの上に置いていたスマホを見ると、ソナタからSMSが届いていた。
読もうとして、手が止まる。
僕は何を期待してるんだろう。メールを見て、もし「気持ち悪い」って書いてあったら、僕は、生きていけるの?
……ソナタがいないなら、死んでるのと一緒。もう今更、何が怖いというのだろう。
スマホの画面を人差し指で押す。
『18時、おれんち』
メールには、そう書いてあった。
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