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第25話

入院期間が約二ヶ月程だと聞いてから、だいぶ時間が過ぎた。  乗っていた車は廃車で、積んであったレコードは、ほとんどが割れていたという。  兄貴が俺にかわって色々と動いてくれているおかげで、事故の状況や今後の事について教えてくれる。  相手側からは結構な金額が貰えるらしい。  それで新車とまた新たにレコードを買い直したとしても、余るそうだ。  勿論治療費も向こうが負担。  俺は何も気にせず治療に専念しろと兄貴から言われている。  晴人と茉優は本当に毎日病院に来てくれて、俺の世話をしてくれる。  毎日来てくれるから、もう俺の家族全員とは顔見知りになっていて会えばお互い楽しそうに会話をしている。  俺は晴人と茉優の事は大切な人だと家族に言っている。と伝えている。最初二人共その台詞を聞いて驚き、居心地悪そうに緊張していたが、かといって病院に足が遠退く事は無かった。  俺の家族も俺が二人の事を説明していないからといって態度が変わる事は無いし、受け入れてくれている雰囲気に、徐々に二人共緊張が溶けたのか馴染んでくれている。  「退院してもしばらくは実家で療養するって?」  「そうだな。退院してもリハビリとかでちょっと通院になりそうだから、マチコがこっちに帰って来いって言ってる」  「………そうか」  今は、病室に晴人と二人きり。茉優は弟のマサヤと姉のシズクと一緒に売店に買い出しに行っている。  額の抜糸が済んで、後もう少しで退院だ。  だが、実家に帰ってリハビリの為に通院しなくてはならなくなった。  退院出来れば、直ぐに晴人と茉優の家に帰れると思っていたが、そんなにスムーズに事は運ばないらしい。  晴人は、俺の左手に自分の指を絡ませてくる。  「なんだよ、寂しい?」  そんな事をしてくる晴人に少し驚きながら、だがそれを雰囲気には出さずクツクツと笑いながら聞いてみる。  「………。そうだな、寂しい、かな?」  「ハッ、疑問形かよ」  絡ませた晴人の手を、力を込めてギュッと握る。  「でも、しょうがないよな」  「まぁ………、そうだな……」  俺だって一緒にいてーよ。  けど、まだ体は本調子では無い。  二人に迷惑はこれ以上かけたくないのだ。  仕事もあるのに、毎日律儀に二人共病院に来てくれて、面会時間ギリギリまでいる。  そっから帰って夕飯作って食べるとなると、結構遅い時間になるしそれだけでも負担なのに、毎日だ。  茉優は仕事が事務系だから、急いで来ても一時間半位はいれるが、晴人は結構ギリギリになる。  それでも早く上がらせてもらっていると聞いた。  素直に嬉しいけど、二人の負担にはなりたく無い。  前に一度それを二人に言ったら激怒されたっけ………。  だからもう言えないけど………。  「早く帰ってこいよ……」  俺の左手に自分の額をあてて、晴人が呟く。と、  「何だ、邪魔したか?」  と、兄貴が病室に入って来る。  晴人は兄貴の声にパッと顔を上げ、俺から直ぐに手を離そうとするが、俺がそれを阻止して、握り直す。  「文也ッ」  小さい声で俺の手を振り解こうとするが、俺がガッチリと握っていて振り解けない。  「本当な。兄貴も毎日来なくて良いよ」  「文也!」  せっかく来てくれてるのに。と小声で俺に文句を言う晴人に、兄貴は嬉しそうに  「そうだろう?な、晴人君」  「です!」  …………。兄貴、それ言わせてるから。とは突っ込みを入れず。  「シズクとかは?売店か?」  「もう少しで帰って来るじゃね?俺のコーヒー買いに行ってくれてる」  「そうか」  兄貴も俺のそばに来ると、俺の右側にある椅子に腰掛ける。  「具合は?」  「良いよ、毎日聞くなよ」  「そうか」  兄貴も仕事が終わったら極力顔を見せに来てくれる。何だかんだと皆来てくれるので、寂しいって事は無い。  だけど、好きな人とゆっくり出来ないのは苦痛だ。  病室は結局、大部屋に空きが無くてずっと個室。  金は向こう持ちなので、ラッキーと言えばそうなるのだろう。  何度か夜に晴人に連絡して、電話口でお互いを慰めた事もある。その辺は個室で良かったと心底思う。  「あ、カズヤ来てたの?」  シズクが、病室に入って来て開口一番そう言う。  「あぁ、さっきな」  マサヤと茉優も病室に入って来て、茉優は兄貴を見ると今晩はと言って会釈をする。  兄貴も茉優につられて会釈し、ニコリと微笑む。  「晴君、ソロソロ面会時間終わるから、持って帰る服詰めよう?」  言いながら晴人に近付いて、俺と晴人が手を繋いでいる事に気付くと、微笑んでいる。  「あ、もうそんな時間か?」  「うん、明日も来よう」  「そうだな」  晴人に言いながら、茉優は俺に売店で買ってきたコーヒーを見せると、ベッド横のテーブルに置いてくれる。  「茉優、コーヒーありがとう」  「うん、良いよ~なんでも言って?」  「早く帰りたい」  「そうだね。私も早く帰ってきて欲しいよ~」  そう言って茉優は俺に一瞬ハグをして、持って来たバッグの中に洗濯物を入れ始める。  「ま、今日もいっぱい人がいるわね~」  そう言いながらマチコも顔を覗かせる。  「来すぎなんだって」  マチコに気付いた晴人と茉優は、同時に今晩はと会釈しながらマチコに挨拶する。  マチコも二人に今晩は、と挨拶すると  「ほら、あんた達も早く病室から出なさい」  と、マサヤとシズクに言う。  マチコに言われた二人は、俺にまた来ると言って、晴人と茉優に会釈すると病室を出て行く。  「晴君、私達もソロソロ出よう?」  「だな」  俺の洗濯物を詰めたバッグを晴人が持って、繋いだ手に一瞬力を入れると  「また明日も来るな」  と、笑顔で言ってくれるが、二人共名残惜しそうなのが伝わってくる。  「楽しみに待ってるわ」  だが、俺まで名残り惜しそうにすると二人が帰れないのも解るので、出来るだけアッサリと返事をして、晴人の手を離す。  「文君またね」  と言って、マチコと兄貴にお辞儀して病室を出ようとする。と、  「晴人君、茉優さん」  出て行こうとする二人を兄貴が呼び止める。  二人共動きを止めて、視線を兄貴に向けると何を言われるのか少し不安気な表情で兄貴の言葉を待っている。  兄貴は二人にお辞儀しながら  「これからも文也の事、宜しくお願いします。また、コイツが元気になったら一緒に実家の方にも遊びに来て下さい」  二人共一瞬兄貴から何を言われたのか解らなかったのか数秒固まっていたが、次いでは破顔し  「「はい。ありがとうございます!」」  と、病室を出て行く。  「二人共固まってたじゃない?」  マチコが、フフ。と笑いながら兄貴に言っている。  「そうだぞ、いきなり言うなよ」  俺もマチコに続いて文句を言うと  「他に良い言い方あるか?」  心外だとばかりに言う兄貴に  「ありがとな」  と、一言俺は呟く。  「良い子達じゃない?文には勿体無いわね」  「俺もそう思ってた」  「オイ」  失礼な事を言う二人に声を荒げると、二人共笑っていて  「文、前に言ってた説明はもう良いわ。マチコが言ったように良い子達が恋人になってくれたな」  兄貴は言いながら、俺の髪を掻き混ぜると  「まぁ、無いと思うが家族の誰かが反対しても俺が説得してやるから、心配すんな」  兄貴の後ろでマチコも、ウンウン。と頷いている。  その言葉に俺も破顔して  「ありがとう」  と、一言。

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