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第24話

「この後打ち上げなんですけど、参加されます?」  「イヤ~~~、ちょっと……帰り車なんで………」  「アハハッ!ですよね今日は徹底してお酒、断ってましたもんね」  「イヤ、まぁ……すンません」  「あ、嫌味じゃ無くて!連日こっちが無理に勧めても飲んでくれてたんで嬉しくて、恋人さん待ってますよね?」  主催者側の人が、チラリと俺の指輪を見て、気を使ってくれる。  「………、スミマセン」  「イエイエ、遠いところからわざわざありがとうございました!今度は恋人さんも一緒に参加して下さい!」  「あ、ありがとうございます」  「設営の片付けまで手伝ってもらっちゃって、本当助かりました~。ちょっと待ってて下さいね!」  そう言って一旦俺のそばから離れたので、俺は近くに停めていた自分の車にレコードを積んでいく。  絶対に今日中に帰ると決めていた。酒を勧められても頑なに断って。だがここ何日間かは、勧められたら断らないと決めていたので、皆俺が今日帰ると察してくれていたのだろう。無理に引き留められなくて良かった。  「お待たせしました、コレ今回のギャラです」  「ありがとうございます」  「それで……、また来年も誘ったらゲストで来てもらえます?」  「勿論です!良い勉強にもなりましたので、是非宜しくお願いします」  ペコリと頭を下げると  「良かった!日比野さん結構いい曲流してくれてたので皆盛り上がってて、来年も是非呼びたいって話てたんですよ」  「素直に嬉しいです」  勉強になったのは、本当だ。俺が知らないレコードの曲を色々聞けたのもだが、ミックスの仕方だったりフェダー操作で音のバランスを変えたり、エフェクトのかけ方、タイミング等俺とは違う表現方法はためになった。  「こちらも一緒に出来て光栄でした!帰りも気を付けて帰って下さいね」  「はい、ありがとうございます。失礼します」  再びお辞儀をして車に乗り込むと、ゾロゾロとスタッフの人達が気づいて見送りに来てくれる。  俺は車の窓を開けて手を振りその場を離れた。  イベントが終わったのは夕方の三時過ぎ。そこから片付けが始まって、もう今は六時前だ。  ブースの片付けや、デコの片付け、一番大変なのがゴミの片付けだ。  客の人数が多かった分、ゴミの量も半端なかった。  高速に乗る前に一度コンビニに寄って、軽く食べ物を口にする。  それから晴人にライン。  返信はすぐにきた。  画面から伝わる嬉しそうな絵文字に、フッと口元が緩む。  帰るまでが遠足です。では無いが、気を抜かずに帰ろうと再び車に乗り込む。  高速で二時間………、九時前には帰れるだろうか?  そう思いながら高速に乗る。  車の中では好きなアーティストの曲をかけ、途中高速のパーキングエリアで小休止をとり晴人と茉優にお土産を選ぶ。  そしてまた長い道のりを帰って行く。  後少しで、高速を下りるところまでくると、張っていた緊張感も少し和らぐ。  「はぁ、疲れた………」  長時間車に乗っているのも、疲れる。  帰ったら、風呂に入って直ぐ寝よう。明日は久し振りに、のんびり過ごして夜は晴人と……。と、勝手に自分の中で予定を立てていると反対車線のへッドライトが眩しい事に気付く。  視線をそちらに向ければ、大型のトラックがこちらに迫ってくるところで………。  「マジかよッ!!」  咄嗟にブレーキとハンドルを切るが、強い衝撃を受けたところで、自分の記憶が途切れる。  そこからは、切れぎれの場面が断片的に展開する。  『大丈夫ですかッ!!』  と、誰かに声をかけられた事は覚えている。  次は救急車の音。  ストレッチャーに乗せられているところも、薄っすらと記憶がある。  体中は痛いのだが、何処か耐えられる自分もいて……。  誰かが賢明に俺に話かけているのも解るが、口が動かせない。  場面が変わって、白い天井に蛍光灯。  あぁ、病院か。と認識する。  医師とか看護師が俺に何か喋っているが、視線は動かせてもやはり言葉が出てこない。  そのままガラガラと移動させられ、ドラマとかで見るあの大きなライトが真上にくると、数秒で俺は意識を手放した。  次に目を覚ました時には、心配そうに俺の顔を覗き込むマチコの顔がある。  目が合った瞬間に、マチコの瞳からみるみる涙が溢れてその隣にいた兄貴が直ぐに医者を呼ぶ。  「泣くなって……」  マチコにそう呟き、涙を拭ってあげたいが、腕が上がらず俺はフッと笑う。  自分が今どうなっているのか解らず、少し不安で……。視線を体の方に向けると、多分右足が骨折している。  どのくらい病院にいたのだろう?時間の感覚が無いので解らず、俺は泣いているマチコに  「何日?」  と、聞く。  マチコは震える声で、日付を伝えてくれて、二日ほどしか経ってないと知る。  兄貴と医者が一緒に病室に入って来ると、取り敢えずといった感じで、医者がライトを俺の目に向けそれを追ってくれと言うので、言われたようにする。  その後で、医者からの説明を受ける。  「居眠り運転のトラックが、君の車目掛けて突っ込んできてね、君がハンドルを切ってなければ死んでたね」  ハハハッ。と、笑えない事を説明してくれる。  「しかも君、ちゃんとスマホにメディカルIDを入れてたから、こちらとしても助かったよ」  メディカルIDとは、スマホの中に個人情報を登録できるもので、普段俺はスマホにロックをかけているが、ロックを解除しなくても緊急連絡先や住所、血液型、アレルギーの有無などを登録できるものだ。  一応車に乗るしと、前に登録していて忘れていた。  「ご家族とかにも直ぐに連絡ができたしね」  良かった、良かった。と笑いながら医者は病室から出て行く。  命に別状は無い。が、右足、右腕は骨折、右の肋も折れている。  全体的に体の右側がやられていて、左側は何でこんなところに?というか所に擦り傷や打撲傷などがある。  顔の右側、眉毛の上を五針縫っていて、消えるかもしれないし、消えないかもしれないと聞いた。  意識がハッキリしてくると、晴人と茉優の事が気になり  「俺のスマホは?」  と、マチコに尋ねる。  「連絡、スゲーきてたぞ」  兄貴がそう言いながら、ベッドの横にある簡素なテーブルから俺のスマホを取って手渡してくれる。  右手が使えないので左手でスマホを操作しロックを解除すると、着信が晴人と茉優合わせて百件近くも入っている。  ラインもその位入っていて、俺は笑ってしまう。  「電話しても大丈夫?」  一応病院だしと、兄貴に尋ねると  「ここは出来るぞ、個室だからな。何日か後で大部屋に移ったら電話は禁止な」  「電話していい?」  俺が呟くと兄貴はコクリと頷き、マチコを連れて飲み物を買ってくると言い、病室を出てくれる。  俺は晴人に電話をかける。  プ、プルルッ。  「文也ッ!?」  「早ぇ~」  「お前今どこにいるだよッ!?何、してンだッ!?」  怒った口調でそう言う晴人の声に、もう一度声が聞けたと、急に鼻の奥がツンとする。  「悪ぃ、………事故った……」  震える声でそう呟くのが精一杯で、俺は一度大きく深呼吸する。  「え?………大丈夫なのか?病院どこ?」  「はぁ………。病院………何処だろな、後でラインする……心配かけてごめん……」  「本当に大丈夫か?怪我……、したのか?」  「まぁ、そうだな。さっき目が覚めて……ズッ……、今連絡できたわ………」  泣いていると隠したかったが、安心した安堵感が俺を包んで止めどなく流れる涙と鼻水に堪らず鼻を啜ってしまう。  「俺達知らなくて……、お前から連絡無くて心配で……」  「ごめん………」  「……直ぐに行きたい……、ちゃんと無事か確かめたい……!」  「ウン、……そうだな……ズズッ……俺も、会いたい」  「一回切るぞ?直ぐに病院がどこか調べてラインしてくれッ!」  「……ン……、はぁ。……解った」  名残り惜しそうに晴人が電話を切ってくれる。俺からだと多分切れない。  通話の終わったスマホを、そのままベッドの上に置いて左手で顔を拭う。  タイミング良く兄貴だけが病室に入って来て  「話出来たか?」  と、ベッドの傍らにある椅子に腰掛けると  「ここ、なんて言う病院?」  「〇〇総合病院、来るのか?相手が」  多分俺が泣いていた事はバレている。  目が重くなっているのが自分でも解るから。だが兄貴は何も言わずに、そう聞いてくれる。  「来たいって言ってる、良い?」  「まぁ、問題無いだろ。家族と同居人は入れるだろ多分」  その台詞にホッとして、ベッドに置いていたスマホで直ぐに晴人にラインする。  間を置かずに晴人から、了解の返信。  「………二人、来るから」  「ん?二人来るのか?恋人と友達か?」  「イヤ……二人共大切な人」  「どういう事だ?」  普通の疑問だ。  普通の人ならそう聞く。  「ちょっと、複雑なんだ……」  「…………、そうか」  本当は詳しく聞きたいはずだと思うが、状況が状況なだけに今は聞く事をしないでおく的なニュアンスを含んだそうか。に  「また説明するから」  「解った」  俺の事を信頼してくれているから、今は聞かないでくれる。  兄貴の優しさに、俺は小さくありがとう。と呟くと、クシャリと頭を撫でられる。  ほどなくして、晴人と茉優が病室に到着した。  二人共凄く疲れた顔をしていて、俺を見た瞬間に二人共泣いた。  俺もそんな二人を見て、また泣いてしまった。  「初めまして、嶋上晴人です」  「西茉優です」  席を外してくれていた兄貴とマチコが病室に入って来ると、二人共お辞儀をしながら挨拶をする。  「初めまして、母のマチコです」  「兄のカズヤです」  俺の家族も二人に挨拶する。  何か変な感じだ。  恋人を紹介するのは、初めてだからかな。  中学の時に付き合っていた、兄貴の友達はそれまでも兄貴の友達として実家に来ていたし、カミングアウト後も普通に家には遊びに来ていたから紹介って感じにはならなかったし、それ以降付き合った人は、わざわざ紹介しに帰ったりしなかった。  俺を挟んで会話している状況も、可笑しいっちゃ、可笑しな構図だ。  マチコも兄貴も、二人が俺と同じ指輪をしている事には気付いていると思う。  けれどそんな事はおくびにも出さずに、二人と会話をしてくれている。  俺の無事が解って、二人共表情が格段に明るくなった。  「疲れただろ、ゴメンな?ソロソロ帰るから」  「イヤ、来てくれて嬉しかった」  「明日も来るから、持ってきて欲しい物あったらラインしてね」  「解った」  晴人と茉優は、入院に必要な物をバッグに入れて、持ってきてくれた。  マチコには、俺が入院するにあたって自分達も関わらせて欲しいと言い、洗濯物や服の替え等出来るだけすると申し出てくれた。  「「出来るだけ二人で来るから」ね」  と言って、マチコと兄貴にお辞儀して病室を出ようとする。  もっと一緒にいたかった。  素直な気持ちだ。  何だか凄く久し振りに会った気がする。実際は一週間も経ってないというのに。  「いい子達だな」  兄貴が俺の頭を撫でながらそう呟くので  「うん……」  「疲れただろ?少し休め」  「そうする……」  晴人と茉優に会えた安心感に、俺は直ぐに眠りについた。

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