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第15話

『野間は……誰と想像したんだ?』 『えっっ?!』    そう聞かれて、俺は昼間何度も想像しては必死で打ち消した黒木とのキスを、とっさに思い出してしまった。  慌ててまた打ち消したけど、もう遅かった。  黒木の目が見開いた。  やばいバレたっっ!  えっ、やばっ! どうしよっ!  俺はテンパって泣きそうになる。  一日中必死で黒木にバレないよう頑張ったのに、一瞬でバレた。  自分でもどうして黒木を想像しちゃったのかわからない。でも一度黒木が浮かんだらもうダメだった。木村ように優しく俺を抱く黒木が簡単に想像できてしまって、ただただドキドキした。  親友とのあんなことやこんなことを想像しちゃったんだ。自分でも引くのに黒木だって引くだろきっと。  どうしよ……黒木に嫌われたくない……。でも言い訳なんて思いつかない。  黒木の心はなにも聞こえない。でも読むのも怖かった。 『ご、ごめん黒木っ、あの……』 『俺もだ』 『……え?』 『俺も野間と想像した』  え……いま野間とって言った?  え、俺とってこと?  黒木も俺と……想像したのか?   『…………マ……マジ、で?』 『ああ、マジだ』  するとパッと映像が見えてきた。俺が抱かれてる映像だ。抱かれながら黒木の名を何度も呼んでいる。  黒木が本当に俺とのそれを想像してると思ったら、一気に身体が熱くなった。  良かった、俺だけじゃなかった。不安だった心が、安堵と歓喜で満たされていった。 『…………じゃ、じゃあさ』  やばいどうしよ……ドキドキしてきた……っ。 『…………して……みる? ……俺たちも……』  俺の言葉に、黒木が立ち止まって固まった。  あ……俺間違った。  想像したからってやってみたいとは違うかもしんないじゃん。やべぇ俺間違ったっ!  自分と同じだと思ってうっかり口が滑った。  いや……うっかりしなくてもきっと心を読まれてた……。結果はどうせ同じだった。 『……よし。しよう』 『…………へ?』 『だから、してみよう』 『えっ、ほ、本気かっ?!』 『野間は冗談だったのか?』 『違うっ、けど』 『野間』 『は、はいっ』 『今日も泊まるか?』  俺いま、今日するか? って聞かれてる?  すごい心臓がドキドキして口から飛び出しそうだった。  俺……黒木としてみたい。今日一日ずっと田口を自分と重ねて、黒木に抱かれるのを想像した。  田口がすごい幸せそうで、俺もあんな風に抱かれてみたいと思った。  俺は黒木が大好きだけど、それはずっと友情だと思ってた。本当は恋愛感情なんだろうか……。  わからない。俺はこの力のせいで、いままで誰かを好きだなんて思ったこともなかった。一生、縁がないとまで思ってた。  だからわからないけど、黒木には……抱かれてみたい。 『……うん。泊まる』  二日連続で泊まったことは今までなかった。  空振りになりたくなくて、校門前で家に電話を入れた。  黒木が学年トップというのは信用が爆上げで、たぶん今日もなにも言われないとは思っていた。黒木が一人暮らしというのも逆に反対されない理由だった。迷惑をかける親御さんがいないから気が楽だわ、というのは母さんがいつも言う心の声だ。 「大丈夫だった。黒木が迷惑じゃないのかってすげぇ心配された」  待っててくれた黒木に伝えると、「そうか。ならよかった」とホッとした顔を見せた。 「黒木もどっかに電話すんの?」  黒木がめずらしくスマホを手に持っていたので何気なくそう聞いた。普段めったにスマホを使わないから。 「……いや違う。……行こう」  歩きだした黒木のあとを慌てて追いかけた。   『男同士のやり方がすぐに調べられるのはすごいな。初めてスマホに感謝した。野間を絶対に傷つけたくないからな……。必要なものもわかったし途中で薬局に寄って……』  黒木がめっちゃ俺とのことを考えてくれてる。  また胸が苦しくなってわーっとなった。  本当に黒木とするんだ。急に実感がわいてきた。  どうしよう、心臓が破れそうだ。  木村と田口のあの映像が、簡単に黒木と俺に変換されて頭に浮かぶ。俺想像力豊かすぎだろ……っ!  黒木の視線を感じる。やばい、恥ずい、顔が上げられない。  そう思ったとき、同じだけど同じじゃない、俺が想像してるのとは違う映像が見えた。  俺が顔中にチュッチュッとキスをされてる映像。  ハッとした。これは黒木の心の映像だ。  黒木を見上げると視線がぶつかった。俺の目をジッと見つめる黒木に胸が燃えるように熱くなる。  俺も黒木もいま同じものを見てる。想像してる。  そっか、俺たちは同じなんだ。いま本当に同じ気持ちなんだ。  通り道の薬局に寄ってまっすぐ黒木のマンションに帰った。  スーパーに寄らなかったのは初めてだった。  玄関に入って靴を脱ぐと、黒木が俺の手を握って廊下を進む。  初めて黒木と手をつないだ。ドキドキする。胸がわーっとなる。手がこそばゆい。  ぎゅっと握り返すと、黒木がまたぎゅっと握ってきた。やばいやばいやばいっ。手だけで心臓爆発しそうっっ!  

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