25 / 83

第25話

 月曜そのまま学校に行くから、着替えずに制服のまま家を出た。  三日も泊まるしもう少し黒木の家に俺の服置いとくかな、と着替えも持つ。  学校のリュックと着替えとタッパ。重いはずなのに全然重くなかった。  黒木に会えると思ったら嬉しくて早く会いたくて、俺はめっちゃ早足でバスに乗って電車に乗って、最後は走って黒木の家まで行った。  息を切らしてマンションの入口に立つ。  インターホンを押すとすぐに黒木が出た。良かった家にいた、と胸がはずんだ。 「俺、俺、野間っ!」 『野間? どうした? なにかあったのか?』 「へへ、来ちゃった!」 『……とりあえず開ける』 「うんっ」  ドアが開いて、急ぎ足で中に入ってエレベーターに乗った。  最上階で降りると、黒木がちょうど家のドアを開けて顔を出す。 「黒木っ」  俺はかけ足で近づいた。 「野間、なんで……どうした?」 「黒木、もう飯食ったっ?」 「まぁ……適当に」 「どうせまたふりかけご飯とかだろ? おかず持ってきたっ。俺が作ったやつっ! 一緒に食べよっ!」  タッパを入れた紙袋を渡して、黒木を押し込むように家に入った。  靴を脱いで「おじゃましまーすっ」と中に入った俺の腕を黒木がつかむ。 「おい、家の人はなんて? 大丈夫なのか?」 「え? うん大丈夫だよ? 姉ちゃんが今日飲み会でさ。おかずあまるから黒木ん家持ってっていいかって聞いたら、ああそうねって。そうしなさいって」  俺がそう言うとホッとしたように息をついて手を離した。 『良かった……家でなにかあったのかと思った……』 「あ、ごめん、心配した? よな? こんな時間に」 「なにもないなら良かった。急に来るからびっくりしただろ」 「ごめんごめんっ。おかずあまったらもったいねぇしさっ。黒木に会いたくて来ちゃったっ!」  ニッと笑いかけたら黒木が固まった。  黒木の心は静かで、あえて読むと本の世界だった。  また本読んでたのかな。でもなんで固まってんの?   「黒木?」 「……あ、いや。……おかず、ありがとな。……嬉しいよ」 「うんっ、早く食べよっ。俺もう腹ぺこー。あ、その前に着替えていい?」 「お前……なんでまだ制服のまま?」 「あー。なんか……なんとなく? 俺ちょっと着替えてくるな」  持ってきた着替えと一緒に、もう入り慣れた黒木の寝室に行った。  あんなに脱ぎたくなかったカーディガンは、いまは簡単に脱げた。  これは明日の洗濯行き、と寝室の脇に置いてある洗濯物カゴに入れる。  着替え終わってリビングに戻ると、黒木がキッチンでおかずをお皿に盛ってくれていた。 「野間……」 「うん?」 「お前……なんで制服で来た? 明日帰るんだよな?」 「あ、黒木土日なんか用事ある? 俺そのまま泊まって学校行っていいって母さんが」  黒木がまた固まった。 『月曜まで泊まってくってことか……? ……キツイな……』  聞こえてきた黒木の心に、驚いてショックを受けた。  あ……俺……今度こそ間違った……。  俺が会いたいとか一緒にいたいとか思ってたって、黒木は違うかもしんないじゃん……。  いくら親友だって、そんなにずっと一緒だったらウザいよな……。 「……あ……ご、ごめん。黒木だって一人になりたいときあるよな。ごめん……俺明日帰るな……」 「野間……違う。勘違いするな、そうじゃない」  黒木の心がまた静かになった。  読んでもまだ本の世界で、きっと黒木にはそういう静かな時間が大切なんだ。  俺の存在がキツイと思われちゃった……。  喉の奥が熱くなって、いまにも泣きそうだった。  どうせ聞かれちゃってるだろうけど……せめて涙は見せたくないと必死でこらえた。 「野間……本当に違うんだ」 「……いいよ、キツイって聞こえた。ごめんな、俺……ちょっと黒木に甘えすぎだよな……。なんか……ずっと一緒にいたいとか……思っちゃって、ごめん」 「野間」  黒木が俺のそばまでやってきて、グイッと腕を引かれて腕の中に閉じ込められた。 「く……黒……」  ぎゅっと抱きしめられて、ぶわっとなにかわからない感情があふれ出た。  ……あったかい……嬉しい……幸せ……。  でもなんで最中でもないのに抱きしめたりすんの……? 「お前……俺の心が今日一日どんなだったか知ってるだろ?」 「……今日一日……? ……ずっと……俺のこと可愛いって言ってた」 「それから?」 「……昨日のこと……思い出してた」 「そういうことだ」 「……え? どういうこと?」  黒木がなにを言いたいのかわからない。  心を読んでも本だし、全然わからない。 「だから……。俺はもう……ずっとお前を抱くことばかり考えてるんだよ……」 「……でも黒木……いま本のことしか考えてないじゃん……」 「それは……ちょっと、精神統一をだな……」 「……は? ……なんだ、それ。なんで?」 「だから……そうでもしないと、いますぐお前に手を出しそうだから……」 「…………んぇ……?」  俺に手を出しそうって……いますぐ俺を抱きたいってこと?  だから本の世界に入って精神統一してたって……そういうこと?

ともだちにシェアしよう!