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第27話〈黒木〉

『野間がキスが好きなのは充分わかった。けど、そろそろお前が作ったご飯が食べたい……』 『あっ!』  キスのやめ時がわからなくてそう言うと、野間は閉じていた目をパッと開き、チュッとリップ音を鳴らしてキスを終わらせた。 「そうだったっ! めっちゃ自信作なんだよっ! 早く食べよっ!」  ぱあっと嬉しそうに笑うと、きゅっと手をつないで俺を食卓テーブルまで引っ張り「座っててっ」と椅子に座らせた。  ……だからお前は……なんでそんなに可愛いんだ……。と深いため息が出る。  野間は楽しそうに準備をしてる。ラップをしてレンジにかけ、「あちっ!」と言いながらラップをはがす。熱くて耳たぶをさわる野間が死ぬほど可愛くて口元がゆるむ。  ご飯の準備をしてるだけなのに、楽しそうで嬉しそうで時々熱がって、クルクル表情が変わる。見ていて飽きないし本当に可愛い。 「さっきから可愛い多すぎー」    野間が怒ったように照れて笑う。  調子に乗るとやばいな……と慌てて本を思い浮かべた。 「黒木は何食べたんだー? おかずだけでいいか?」 「……いや、ご飯も食べるかな」  と立ち上がると「やるから座っててっ」と強めに言われ、仕方なくまた腰を下ろす。 「あ! おい黒木っ。ご飯は炊けたらすぐにほぐせって言ってんじゃんっ。もー固くなってるしーっ」 「あー……うっかりしてた」 「てかご飯食べたって嘘だな? なんも食ってねぇんだろっ」 「……これから食べるつもりだったんだよ」 「なんで嘘つくかなー? お前、俺より心が聞こえづらいからってずるいぞっ」  そうだ。野間は嘘が嫌いだった。俺はどうでもいいことはつい適当に答えるクセがあってダメだ。 「別にこんな嘘で怒んねぇけどさ。てかちょっと嬉しいし」 「嬉しい?」 「だって、俺の作ったおかず美味しく食べてもらえるじゃんっ。へへっ」  野間が本当に嬉しそうに笑みをこぼす。……可愛い。 「あっ、でも俺がいない日もちゃんと飯食えよっ! 絶対っ! 約束っ!」 「……わかったわかった」 「もーそれ絶対わかってないやつーっ」  食卓テーブルに、いつもより品数が多く並ぶ。その代わりそれぞれ量は少なめだ。まるで居酒屋みたいだな。 「父さんの酒のつまみっぽいのを作ったんだ」 「なるほど」    ワクワクした顔で「食べて食べてっ」と急かす野間がやっぱり可愛いな、と思いながら食べ始める。 「このチキンうまいな」 「よっしゃっ! これ、黒胡椒あれば簡単なんだ。黒木好きそうだなって思った。今度作ってやろーって思いながら作ってたんだっ」  そう言って嬉しそうにニコニコする野間に完全にやられた。……もうほんと、可愛いしか出てこない……。   「だし巻き卵か……こんなの食うの何年ぶりかな。ん、うまい」 「やったっ! これもさ、めっちゃ簡単だから黒木に作ってやろーって思ってたんだっ。あ、このちくわのはね……――」  一品一品ニコニコしながら野間が説明する。  今度俺に作ってやろう、が結局全部じゃないか。  これを作りながら、お前はずっと俺ことを考えてたのか……?  野間の言うことやること、どうしても期待してしまいそうになる。 「ん? どういう意味? 期待?」    ハッとしてまた本を思い浮かべた。 「あー……。そう、次はどんなすごいもん作ってくれるんだろって期待したんだ」 「えーマジかっ。やべぇどうしよ。またクックポットみて練習しよっ」    最後の皿はコーンバターか。これは俺が好きだと言ったら、野間がよく作ってくれる。 「うん。やっぱりうまい」  食べながら口角が上がる。野間がじっと俺を見ているから「なんだ?」と問うと、ハッとした顔をする。   「……俺さ。なんか急にコーンバターが食べたくなってさ。もう品数充分だったんだけど最後に作ったんだ。でも……」 「でも、なんだ?」 「黒木の好物だから食べたくなったんだって、いまわかった」 「……なんで俺の好物……?」 「今日はもう黒木に会えると思ってなかったからさ。なんか俺寂しくて……。だから黒木の好きなコーンバターが食べたくなったみたい。へへっ」 『コーンバター食べてるときめっちゃ可愛いんだよな黒木。あんとき黒木ん家行けなくてガッカリしてたもんな……』  そっかぁそうだったのか、と納得したようにうなずきながら口をもぐもぐさせる野間に、またため息が出る。  いますぐ襲わずにこらえていられる自分を褒めたくなった。  無自覚天然小悪魔め……。  野間をじっと見たが心を聞かれた様子はない。  なんとか本の世界に入り込んでいられた。  だんだんコツをつかんできた。本の世界をイメージしたままでいれば、多少なら野間への気持ちがあふれても聞こえないようだ。安堵のため息がもれた。  今日学校では、あえて時々心を解放した。そうしなければ、まるで野間だけが一人で思い出しているかのようになるからだ。  昨日の今日で俺が静かに本の世界に入り込んでいたら、野間が気にするかショックを受けるだろうと思い、だから時々解放した。とてもじゃないが全部を聞かせることも見せることもできなかったが……。  さっきは野間の誤解をとくために、思わず精神統一だなんて言ってしまった。心を閉ざしているとバレるよりは精神統一の方がまだマシだ。もしバレたら絶対に野間を傷つける。  俺のこの気持ちは隠すしかない。野間を失いたくない。だから、どうか気づかずにいてほしい……。  ずっと俺の前で、クルクルと可愛く笑っていてほしい。  たとえ俺の好きとは違っても、野間とずっと一緒にいられるなら俺はそれでいい。  野間が俺に抱かれたいと思ってくれて、ずっとそばにいられるなら、たとえ野間にとって親友だとしてもそれでいい。  本をイメージしたままでも不安になって野間を見たが、聞かれていないようでホッとした。   「一緒に作るのも楽しいけどさ。一人で作ったやつ食べてもらえるのってすげぇ嬉しいな? また今度作ってやるな」  へへっと笑って食器を片付ける野間をいますぐ抱きしめたくて、俺は必死でこらえた。  『野間がキスが好きなのは充分わかった。けど、そろそろお前が作ったご飯が食べたい……』 『あっ!』  キスのやめ時がわからなくてそう言うと、野間は閉じていた目をパッと開き、チュッとリップ音を鳴らしてキスを終わらせた。 「そうだったっ! めっちゃ自信作なんだよっ! 早く食べよっ!」  ぱあっと嬉しそうに笑うと、きゅっと手をつないで俺を食卓テーブルまで引っ張り「座っててっ」と椅子に座らせた。  ……だからお前は……なんでそんなに可愛いんだ……。と深いため息が出る。  野間は楽しそうに準備をしてる。ラップをしてレンジにかけ、「あちっ!」と言いながらラップをはがす。熱くて耳たぶをさわる野間が死ぬほど可愛くて口元がゆるむ。  ご飯の準備をしてるだけなのに、楽しそうで嬉しそうで時々熱がって、クルクル表情が変わる。見ていて飽きないし本当に可愛い。 「さっきから可愛い多すぎー」    野間が怒ったように照れて笑う。  調子に乗るとやばいな……と慌てて本を思い浮かべた。 「黒木は何食べたんだー? おかずだけでいいか?」 「……いや、ご飯も食べるかな」  と立ち上がると「やるから座っててっ」と強めに言われ、仕方なくまた腰を下ろす。 「あ! おい黒木っ。ご飯は炊けたらすぐにほぐせって言ってんじゃんっ。もー固くなってるしーっ」 「あー……うっかりしてた」 「てかご飯食べたって嘘だな? なんも食ってねぇんだろっ」 「……これから食べるつもりだったんだよ」 「なんで嘘つくかなー? お前、俺より心が聞こえずらいからってずるいぞっ」  そうだ。野間は嘘が嫌いだった。俺はどうでもいいことはつい適当に答えるクセがあってダメだ。 「別にこんな嘘で怒んねぇけどさ。てかちょっと嬉しいし」 「嬉しい?」 「だって、俺の作ったおかず美味しく食べてもらえるじゃんっ。へへっ」  野間が本当に嬉しそうに笑みをこぼす。……可愛い。 「あっ、でも俺がいない日もちゃんと飯食えよっ! 絶対っ! 約束っ!」 「……わかったわかった」 「もーそれ絶対わかってないやつーっ」  食卓テーブルに、いつもより品数が多く並ぶ。その代わりそれぞれ量は少なめだ。まるで居酒屋みたいだな。 「父さんの酒のつまみっぽいのを作ったんだ」 「なるほど」    ワクワクした顔で「食べて食べてっ」と急かす野間がやっぱり可愛いな、と思いながら食べ始める。 「このチキンうまいな」 「よっしゃっ! これ、黒胡椒あれば簡単なんだ。黒木好きそうだなって思った。今度作ってやろーって思いながら作ってたんだっ」  そう言って嬉しそうにニコニコする野間に完全にやられた。……もうほんと、可愛いしか出てこない……。   「だし巻き卵か……こんなの食うの何年ぶりかな。ん、うまい」 「やったっ! これもさ、めっちゃ簡単だから黒木に作ってやろーって思ってたんだっ。あ、このちくわのはね……――」  一品一品ニコニコしながら野間が説明する。  今度俺に作ってやろう、が結局全部じゃないか。  これを作りながら、お前はずっと俺ことを考えてたのか……?  野間の言うことやること、どうしても期待してしまいそうになる。 「ん? どういう意味? 期待?」    ハッとしてまた本を思い浮かべた。 「あー……。そう、次はどんなすごいもん作ってくれるんだろって期待したんだ」 「えーマジかっ。やべぇどうしよ。またクックポットみて練習しよっ」    最後の皿はコーンバターか。これは俺が好きだと言ったら、野間がよく作ってくれる。 「うん。やっぱりうまい」  食べながら口角が上がる。野間がじっと俺を見ているから「なんだ?」と問うと、ハッとした顔をする。   「……俺さ。なんか急にコーンバターが食べたくなってさ。もう品数充分だったんだけど最後に作ったんだ。でも……」 「でも、なんだ?」 「黒木の好物だから食べたくなったんだって、いまわかった」 「……なんで俺の好物……?」 「今日はもう黒木に会えると思ってなかったからさ。なんか俺寂しくて……。だから黒木の好きなコーンバターが食べたくなったみたい。へへっ」 『コーンバター食べてるときめっちゃ可愛いんだよな黒木。あんとき黒木ん家行けなくてガッカリしてたもんな……』  そっかぁそうだったのか、と納得したようにうなずきながら口をもぐもぐさせる野間に、またため息が出る。  いますぐ襲わずにこらえていられる自分を褒めたくなった。  無自覚天然小悪魔め……。  野間をじっと見たが心を聞かれた様子はない。  なんとか本の世界に入り込んでいられた。  だんだんコツをつかんできた。本の世界をイメージしたままでいれば、多少なら野間への気持ちがあふれても聞こえないようだ。安堵のため息がもれた。  今日学校では、あえて時々心を解放した。そうしなければ、まるで野間だけが一人で思い出しているかのようになるからだ。  昨日の今日で俺が静かに本の世界に入り込んでいたら、野間が気にするかショックを受けるだろうと思い、だから時々解放した。とてもじゃないが全部を聞かせることも見せることもできなかったが……。  さっきは野間の誤解をとくために、思わず精神統一だなんて言ってしまった。心を閉ざしているとバレるよりは精神統一の方がまだマシだ。もしバレたら絶対に野間を傷つける。  俺のこの気持ちは隠すしかない。野間を失いたくない。だから、どうか気づかずにいてほしい……。  ずっと俺の前で、クルクルと可愛く笑っていてほしい。  たとえ俺の好きとは違っても、野間とずっと一緒にいられるなら俺はそれでいい。  野間が俺に抱かれたいと思ってくれて、ずっとそばにいられるなら、たとえ野間にとって親友だとしてもそれでいい。  本をイメージしたままでも不安になって野間を見たが、聞かれていないようでホッとした。   「一緒に作るのも楽しいけどさ。一人で作ったやつ食べてもらえるのってすげぇ嬉しいな? また今度作ってやるな」  へへっと笑って食器を片付ける野間をいますぐ抱きしめたくて、俺は必死でこらえた。   ◇◇◇◇◇◇◇ お正月は投稿お休みします。皆さま、来年もどうぞよろしくお願いいたします(❁ᴗ͈ˬᴗ͈) 今年は小説を書き始めて本当に良かったなぁと思っています。皆さまのブックマーク、いいね、コメントをいただく度に本当に嬉しくて幸せになりました。 この小説を見つけて読んで下さっている皆さま、追いかけて下さる皆さま、本当に本当に大好きです(,,> <,,)♡

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